第11話 負けず嫌いな幼馴染み

 パーフェクト文字が映っている画面を無言で凝視する彩音。少しの間見続けたあと俯き肩を震わせている。そしてものすごい勢いでこちらに顔を向けて睨んでくるが、その間には涙が浮かんでいるので全く怖くない。


「なんでこんなに強いの!? 弱いって言ったじゃん!? 騙された! 嘘つき!!」


「いや、別に弱いだなんで一言も言ってない」


 人並み程度にやっているって言っただけだ。実際やりこんでいると言う感じではない。


「昔からそうやって出来ないふりして私のこといじめるんだ」


「人聞の悪いこと言うなよ」


 たしかに調子に乗っている彩音のことを打ち負かすのは好きか嫌いかで言えば好きだが、いじめているつもりは一切ない。

 だいだい、昔から調子に乗ってよく煽るようなことをしてくる彩音の方にも非はあると思う。


「今なら余裕で勝てると思ったのにっ!」


 納得がいかないのか悔しそうにこちらを睨み続けている。

 彩音は調子に乗りやすいところはあるが、それと同じくらい負けず嫌いなのだ。


「もうひと勝負やるか?」


「やる! 勝つまでやる!」


「勝つまでって……」


 こういった負けず嫌いなところは昔と変わっていない。ちょっとだけ負けず嫌いに拍車が掛かっているような気がしなくもないが……


「手加減なんかしたら怒るからね!」


「わかってる」


「さっさとやるよ!」


 そして俺たちは再びゲームに熱中し続けた。昔みたいに遊ぶ、そう言っていた彩音の言葉を思い出して少しだけ頬が緩みそうになってしまった。


 ◆◆◆


「そろそろ配信の用意も始めないといけないだろ? もう終わりにしよう」


 俺は隣で項垂れている彩音に声をかける。その背中には哀愁が漂っている。


「一回も勝てなかった……」


 コントローラーを握りながらつぶやく彩音姿を見て、ちょっと大人がなかったかと反省してしまう。


「ほ、ほら! でも、2ストックたられたし、もう少しで負けそうだったよ」


「でもそれって勝ってないよね?……」


「うっ……ま、まぁ……」


 恨みがましい目でこちらを見てくる。


「またいつでも相手するから今日は終わりにしような。配信もあるだろ?」


「……わかった。でも、次は絶対勝つから」


「お、おう」


 あまりの迫力に言い淀んでしまった。


「じゃあ、俺帰るよ。配信頑張って」


「ありがとう」


 激励の言葉をかけてから俺は彩音の家を出た。


 ◆◆◆


 自分の家に戻ってきた俺は自室に戻りパソコンを起動させ、配信ちゃんの配信の待機画面で待つ。


 彩音も配信があるが、俺にも花火ちゃんの配信を見ると言う大事な用事があるのだ。


 しばらく待つと時間ぴったりに配信が始まった。


「みんな今日は参加型の配信で、みんなと戦うけどみんなの力を貸してほしいの!」


 配信が始まるなりいきなりそんなことを言い始める花火ちゃん。

 コメント欄もハテナマークが流れている。


「私はどうしても倒したい相手がいるの! だからアドバイスちょうだい! みんなと戦いながら強くなりたい!」


 どこかの主人公みたいなことを言い始めた花火ちゃん。


「さっそく始めようか!」


 最初は困惑していたコメント欄だが、いつも以上にやる気に満ちている花火ちゃんの姿と言葉に触発されてのかリスナーも乗り気になっている。

 配信者とリスナーのこういった一体感は楽しい。


 花火ちゃんの言う倒したい相手はどう考えても俺のことだ。だけど、そんなことは気にすることなく俺も1人のリスナーとして配信を楽しもう。


 ただ、推しが自分のことを意識していると言う事実に嬉しくなってしまうが、その気持ちは自分の中でしまっておこう。

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