第8話 違和感

 今日の花火ちゃんの配信が始まるまでにはまだまだ時間がある。

 出来るだけ早く掃除を終わらせて待機していなくては!


「まずはこのゴミ袋の山からだな」


 足場の踏み場が泣くんあってしまうほどあふれかえったゴミ袋の数々。少なくとも数カ月はゴミ出しをしていないだろう。こんなにもゴミをためたことが人生の中で一度もないので、実際にはどれだけの期間ゴミ出しをしなかったらこんな惨状になるのか皆目見当もつかない。

 俺は一度に持つことの出来る限界の量のゴミ袋を両手に持つ。近隣の人たちとの共有のゴミ捨て場はここからそんなに遠くない場所にある。俺はいつも大学に行く途中で捨てるようにしている。


 両手いっぱいにゴミ袋を持った状態で彩音の家を出る。たくさん持った状態ではかなり歩きにくいが、いくらゴミ捨て場が近いからと言って何度も往復するのは面倒だ。


「ふぅ」


 ようやくゴミ捨て場に到着する。いつもより距離が長く感じた。

 ほとんど燃えるゴミだ。中のものがたまたま見えてしまったが、そのほとんどが冷凍食品やカップラーメンのゴミばかりだった。それ以外はお菓子の袋のゴミばかりだ。ゴミ袋の中身を見るだけでも丘にひどい生活をしていたのかということが容易に想像することが出来る。

 こんな食生活をしていたら体を壊してしまうだろう。


 もう一度家に戻り再び両手いっぱいにゴミ袋を持ってゴミ捨て場へと向かう。今の感じだとあと三往復くらいすれば全部のゴミ袋は無くなるだろう。


 俺は無心になってゴミ袋を運び続けた。そしてようやく最後のゴミ袋を捨てに行き終えて、彩音の家の家へと戻ってきた。


「やっと終わった」


 ゴミを捨てに行っただけなのにかなり疲れた。家に戻ってきて改めて家の中を見てみるとかなりきれいになったように思える。ゴミ袋の量が異常すぎたが、それがなくなっただけでも大分片付いた。


 洗濯物の数々はとりあえず一か所にまとめておく。さすがに許可なく洗濯するのはよくないと思うので今日はやらずにおいておこう。あと今日やるのは風呂場の掃除と掃除機をかけるくらいだろう。台所は料理をしていないからかまったく汚れていない。それどころか使っていた形跡すらない。

 逆に使っていないものが多くてそこまで汚れていないものが多い。

 体を伸ばして次の行動に移る。


「次は面倒な水回りだな」


 そうと決まればさっさと終わらせよう。俺は持ってきた掃除用具を手に風呂場へと向かった。


 ◆◆◆


 改めて掃除を終えた場所を見て俺は満足していた。玄関にあった大量なゴミ袋の数々はすべて捨てたし、お風呂場とトイレなどの水回りもきれいにすることが出来た。掃除機もかけたので見えるところには埃もない。


 綺麗になった部屋を見ていると後ろから彩音が声をかけてくる。


「掃除終わったの?」


「ちょうど終わったところだ」


「すごっ、きれいになってる。この家、こんなに広かったんだね」


 そりゃあ、あれだけゴミがあれが狭く感じるだろう。


「掃除はしたけど、洗濯はまだしてないんだ。勝手にしたらまずいかなって」


「? なんで?」


 不思議そうに首をかしげる彩音。女なのだから気にすることもあると思ったのだが……


「彩音さえよかったら俺が洗濯しちゃっていいか?」


「うん。お願い。結構たまっちゃてるから助かるよ」


「わかった。明日でもいいか?」


 ふと時計を見るとあと数時間で花火ちゃんの配信が始まってしまう。あの量は一回だけでは終わらないので何回か回さないといけないだろう。そんなことをしていたら花火ちゃんの配信に遅れてしまう。


「うん。ありがとう」


「そういえばご飯はどうした?」


「昨日湊が持ってきてくれたカレーを朝食べたからまだおなかすいてないよ」


 時間的にはもうお昼だがおなかがすいていないらしい。話を聞き限りでは一日一食しか食べていなかったりまったく食べない日もあるようだ。いきなり三食は食べられないかもしれないが、少しづつ健康的な食生活をしてもらえるようにしたいものだ。


「そっか。食べているならいいよ」


 ここで俺はずっと気になっていたことを聞くことにする。これだけ家が汚れていた理由。そして彩音の不健康過ぎる生活。昔はこんなことはなかった。

 そしているはずの人たちの気配が全くない。


「あのさ……おばさんやおじさんたちは家にいないのか?」


 おばさんとおじさん。つまり彩音のお母さんとお父さんだ。


 俺の言葉を聞いた瞬間彩音の表情が陰る。その表情はどこか悲しそうで、呆れていて、そして怒りの感情が見て取れた。


「あぁ……あの人達ね……」


 ずっと感じていた違和感。おばさんとおじさんがいなくまるで彩音のしか暮らしていないように感じる家。そして実の親を『あの人』と呼ぶ彩音。感じていた違和感は確実なものとなる。


 俺はただ黙って彩音の次の言葉を待った。

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