第7話 最初のお世話は掃除です

 日曜日の朝。もう習慣となっている花火ちゃんの朝の雑談配信を見てから俺の一日は始まる。朝から押しの声を聴くことが出来るなんて幸せ過ぎる。朝配信のための起きるので意外と健康的な休日を送ることが出来ている。花火ちゃんの朝配信が始まるまではお昼くらいに起きてそれからだらだらと過ごして一日を終えるという何とももったいないような休日の過ごし方をしていた。だが、最近は花火ちゃんのおかげで有意義な休日を過ごすことが出来ている。

 当然今日も花火ちゃんの配信を見ている。耳も目も心までもが幸せだ


『あ、そうだ! みんなが言っていたアニメ見たよ!』


 コメント欄が盛り上がり始める。こうやって推しが自分たちがおすすめしたものを見てくれたというのはとてもうれしい。しかもこのアニメは俺もおすすめした一人なので思わず口角が上がってしまう。その嬉しさの勢いのままコメントを打つ。


『すごく感動したよ。なんていうか、心が揺り動かされたよ!』


 たしかにかなり感動するアニメだった。何回も見ているが同じシーンで何回も泣いてしまっている。


『「最後のシーン?」 そうそう! 泣いちゃったよ!』


 どうやら花火ちゃんも俺と同じシーンで泣いたようだ。我ながら気持ち悪いと思うが、泣いたシーンが同じというだけでうれしくなってしまう。


『「心は揺れても胸は揺れないけどなった」 って、おい! 誰の胸がないって!? こんなナイスバディなのになぁ 分からいかな? はぁ~肩が凝っちゃうなぁ~』


 もはや恒例となっている花火ちゃんへの貧乳いじり。俺がこのいじりをしたことは無いが、他のリスナーさんがしているのを見るのは好きだ。こういったいじりに対する花火ちゃんの反応が面白いと思うからだ。他のリスナーきっと同じように面白いと思っていたり、もしかしたら花火ちゃんの反応が可愛いと思っているかもしれない。

 リスナーにそう思わせる花火ちゃんもすごいのだろう。


 ここでふと花火ちゃんの正体である彩音の姿が頭をよぎる。たしかに花火ちゃんの胸は小さいと思うが彩音はまったくの正反対だった。高校生のころから制服の上からでもその大きさがわかるほど大きかった。昨日久しぶりに会ったがその存在感は変わらなかった。むしろ大きくなっていたような気がする。

 彩音は花火ちゃんとは真逆で胸が大きいのにも関わらずここまで完璧な貧乳ムーブが出来るなんて配信者としての意識の高さを感じる。


『そろそろ終わりにしようか。今日も最後まで見てくれてありがとう! 良い休日を! またね~。あ! 明日の配信は夜の九時からです! 見に来てね。ばいばい~』


 楽しい時間はあっという間に終わってしまう。体感的には5分くらいだが実際は配信が始まってから一時間以上たっていた。

 配信が終わり満たされた気持ちのまま彩音に連絡を入れる。


『これからそっちに行っても大丈夫?』


 これから彩音の家の掃除をする予定なのだ。昨日見たあのゴミの山をどうにかしなくてはいけない。はっきり言ってあの光景は人が住んでいい状態ではなかった。あんなゴミ屋敷に幼馴染みを放っておけるわけがない。

 しばらくした彩音から返信が返ってくる。


『大丈夫。カギ開けといたから』


 彩音からの返信を確認してから必要なものを持って家を出る。持っていくものは昨日急いで買ってきた掃除用具の数々だ。


 彩音家の前まで来るとドアを開けて家の中へと入る。


「うわぁ……」


 昨日一度見たはずだったが思わず声が漏れ出る。何度見てもひどい光景だと思う。よくこんな家で生活できるもんだと一周回って感心してしまう。


 ゴミを避けながら家の中に入ると、視界の隅に人影が移る。そちらの方を見ると顔だけ出した彩音の姿がある。


「おはよう」


「おはよう……本当に掃除するの?」


「もちろん。そのために来たんだから」


「湊がわざわざやらなくてもいいのに……私だって子供じゃないんだから掃除くらい自分で出来るし……」


 彩音の言葉を聞いて思わず耳を疑いう。

 今、掃除くらい自分で出来るって言ったか?


「こんな状況になるまで放っておいてよく自分で出来るなんて言えたな」


「うぐっ……これはたまたま忙しくて……」


 これはたまたま忙しくてなるような状況ではないような……


「とにかくこのままの状況では駄目だから。なら、俺が掃除しなかったらいつやるつもりなんだ?」


「えーと……」


 完全に目が泳いでいる。これはやるつもりないな。


「掃除は俺がやるから、彩音は夕方にやる配信の準備でもして待っていてくれよ」


「わかったよ」


「配信が始まる前までには終わらせないとな」


「え? なんで?」


「そんなの配信見るからに決まっているだろ」


 推しの配信は見逃せない。なぜかおろおろと動揺している彩音を後ろ目に掃除に取り掛かった。

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