第6話 お世話することにした
部屋を出ようとしたところで彩音に引き止められた俺は足を止め、振り返り彩音の方に体を向ける。
「どうした?」
「えっと……その……またね」
なにを言われるかと思ったら……
「あぁ、またな」
今度こそ帰ろうとした途端、部屋中にぐぅぅぅぅぅぅっという音が鳴り響く。一瞬なんの音か分からなかったが、彩音が顔を真っ赤にして俯いている姿からすべてを察する。
「おなかすいたのか?」
「ちっ違、今のは……」
さすがに無理があると思ったのか黙ってしまう。ちらりと時計を見ると午後五時頃だった。夕食には少し早いと思うが……もしかしたらお昼ご飯を食べていなかったのかもしれない。
「最後に食べたのは何時ごろなんだ?」
彩音の返事を待つがどうやら様子がおかしい。
「えーと、最後に食べたのは……今日? いや、今日はお昼は食べてないか……じゃあ、昨日の……あれ? 昨日も何も食べてないような……最後に食べたのいつだっけ?」
「まさかちゃんと食べてないのか?」
「そんなことないよ、食べてるけどたまに忘れちゃうというか……あはは」
思わず頭を抱える。そういえばさっき入ってきたときに見た家じゅうのゴミの数々が頭に浮かぶ。
もしかしたらとんでもなくひどい生活を送っているのかもしれない。
そこでふと花火ちゃんの雑談配信の内容を思い出す。そこでも不健康過ぎるエピソードを話していた。あまりにひどい内容にその時は配信用のネタだろうと思っていたがもしかしたら嘘ではないのかもしれない。
彩音はぱっと見は何ともなく元気そうだ。もしかしたら今は本当に大丈夫なのかもしれない。でも、聞いただけでも明らかに不健康な生活をしている。そんな生活をこれから先も続けていったら間違いなく体を壊してしまうだろう。
せっかく昔のように仲良く出来ると思った矢先、倒れられたら後悔してもしきれない。それに彩音が体調崩すということは、花火ちゃんの配信が見れなくなってしまうということだ。花火ちゃんに会えなくなってしまうなんて絶対に嫌だ。推し活は俺の生きがいなんだ。
こうなれば俺にできることは一つしかない。
「よし、決めた」
「え? 決めたって何を?」
「明日から彩音の身の回りの世話を俺がする!」
「え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なんで!?」
「なんでって、そんな不健康な生活していると分かって放っておけるわけがない」
「そんなお世話なんてしてもらわなくても大丈夫だよ。もう子供じゃないんだから自分のことは自分で出来るよ」
「こんなゴミまみれの家でよくそんなことが言えるな」
「うぐっ」
それにさっきご飯を食べ忘れるだなんて信じられないことを言っておいてまったく説得力がない。
「彩音の身の回り世話をするって決めた。明日また来るから」
「え? え?」
そう言って俺は彩音の部屋を後にした。後ろから彩音の困惑した声が聞こえてくるが無視だ。幼馴染みにこんな不健康な生活はさせておけないし、推し活を続けるためにやらなくてはいけない。
俺は一人のリスナーとして花火ちゃんを応援するって決めたんだ。そのために必要な事だったら何でもする!
まずは必要なものを買いに行かなくては! 掃除用具に食材。そうだ、今すぐ彩音に食べさせるものを用意しなくてはいけない。とりあえず、昨日作ったカレーを届けることにする。
本格的に動き出すのは明日からだ!
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