第4話 疎遠だった関係に終止符を
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なんで私が夏音花火だってしてるの!? しかもリスナー? リスナーってなに!?」
大きな彩音の声が脳を揺さぶる。
勢いよく立ち上がるとびっくりするくらい大きな声でまくしたててくる彩音。その剣幕に気おされてしまう。
「だ、大丈夫。夏音花火の正体が彩音だってことはだれにも言わないから」
「そういうことじゃない!? なんで私が夏音花火だってことを知っているのか聞いているのっ!!」
落ち着かせようと思って言ったことが逆効果だったのか俺の肩をつかむとガクガクと揺らしてくる。思い切り頭が揺らされて気持ちが悪くなってくる。
どうにか彩音のことを落ち着かせるために声を上げる。
「わかった! ちゃんと説明するからっ! 頼むから落ち着いてくれ!!」
俺の必死な呼びかけが伝わったのか彩音の勢いはどんどん落ちていく。
「……ごめん」
申し訳なさそうに謝るがその目は早く言えと訴えている。
落ち着いたところで俺が夏音花火の正体が彩音だって気づいた経緯を話す。
まず、夏音花火の正体に気が付いたのはまったくの偶然だったということ。俺の最推しが夏音花火で、ずっと一人のリスナーとして応援し続けたこと。そしてどれだけ俺が夏音花火のことが大好きなのかを話した。
「――だから、俺が辛いときに支えになってくれた夏音花火は俺にとってかけがえのない存在なんだよ! 配信も面白いし、可愛いし、努力家だしさ! あとはー-」
「も、もういいから!」
まだまだ語り足りないが止められてしまった。身近な人と夏音花火について話したことがなかったのでテンションが上がってたくさん話してしまった。
彩音は顔を真っ赤にして俯いている。その姿を見て推しに赤裸々に自分の気持ちを告白していたことに気が付きいまさらながら恥ずかしさが込み上げてくる。でも、推しに対する気持ちに嘘はつきたくないし、さっき話したことは紛れもない本心だ。
「なんで夏音花火の正体に気が付いたのか知りたかっただけで、湊の夏音花火に対する気持ちは聞いてないから!」
声は大きいが恥ずかしからなのか顔が真っ赤なのでまったく怖くない。
「ふぅー! ふぅー!」
息を荒げている彩音はだんだんと落ち着きを取り戻していく。
「夏音花火の正体はだれにも言わないから安心してほしい」
「うん。湊は言いふらしたりしないって思っているからそこは心配してないよ」
「そっか……」
なんだか照れ臭くなってごまかすように頬を掻く。
ここで気になっていたことを聞く。
「俺はてっきり口止めの為に呼ばれたのだと思ったんだが違ったんだな」
Vtuberは身バレしたりすることを嫌っている、というよりかはタブー視されているような気がする。身バレとは少し違うかもしれないが、顔バレしたVtuberが炎上したなんて話を聞いたことがある。個人的にはくだらない話だと思う。好きになったのは紛れもなくそのV tuberのことなのだから顔なんて関係なく応援すればいいのにと思ってしまう。まぁ、人それぞれ考えがあるのだからわざわざ否定したりしないが……
「口止めなんかじゃないよ。そもそも
「それならなんで呼び出したりしたんだ?」
「それは……」
こう言ってしまったらなんだがこれまで疎遠だったのだから少し目があっただけで呼び出すなんて少し違和感がある。もちろんずっと疎遠だった幼馴染みと会話する機会が生まれたのは純粋にうれしいと思っているのだがなんとなく腑に落ちない。
彩音の次の言葉を待っていると小さな声で話始める。
「この機会を逃したらもう一生湊と話せないような気がしたんだもん……」
弱々しい声。気を抜いたら聞き逃してしまいそうな声だが、しかりと俺の耳に届いた。
「私が学校に行かなくなってすぐ、湊が私のことを訪ねてきたことがあったの覚えてる?」
「あ、あぁ……」
勿論覚えている。忘れるわけがない、あの時感じた拒絶されたような感覚は俺が彩音と関わることを避けてしまった一つの理由だと思っている。
「あの時さ……いろいろな事が重なって精神的にも肉体的にもつらかったんだよね。誰にも会いたくなくて……だから、せっかく湊が来てくれたのに……ごめん……」
「そうだったんだ……勝手に拒絶されたように感じちゃってた。嫌われてないならよかった」
「湊を嫌うなんてそんなこと絶対にないから!!」
さっきまでの弱々しい口調ではなくはっきりと言い切る彩音。俺も大切な幼馴染みのことを嫌ったりしない。
「あっ、今のは変な意味じゃ……」
「ありがとう」
「う、うん」
彩音も俺と同じ気持ちのようで嬉しい。
「そんなわけで、立ち直ったあと湊と会って話したいと思っていたんだけどなかなか機会がないまま数年過ぎちゃった」
そう冗談めかしく言う彩音。
「また昔みたいに遊べるかな?」
「私はそうなりたい」
俺は手を彩音の方へと差し出す。
「変かもしれないけど……これからまたよろしく」
差し出した手を彩音が握る。俺たちはまるで仲直りをするかのように握手をする。
「よろしく!」
そう言って笑う彩音の笑顔はこれまで見てきた彩音の笑顔のどれよりも魅力的だった。
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