第3話 疎遠だった幼馴染みとの再会
『今日も最後まで見てくれてありがとう! 楽しかった! またね、ばいばい~』
お別れの挨拶とともに配信画面が閉じる。
「今日も楽しかった。やっぱり花火ちゃんは最高だ!」
配信終了後の満足感と高揚感にさらされてとても幸せな気分だ。今日はいつもより早い時間に始まったので、配信時間もいつもよりも長かった。時計を見ると配信開始してから三時間ほど過ぎている。もちろん推しに無理はしてほしくないが、それでも長時間配信を見ることが出来るのは本当に嬉しい。
三時間も見ていたとは思えないほどあっという間の時間だった。やはり幸せな時間というのは一瞬で過ぎ去ってしまうらしい。
「んっうぅ……」
長い時間パソコンの前に座り続けていていたので体が痛い。体を伸ばすと声が漏れ、骨がポキポキと心地良い音を鳴らす。
ある程度体を伸ばし終えて座りなおす。パソコンの画面に映った花火ちゃんの配信画面を見ながら誓う。
今日の配信を見て確信できた。俺にとっての最推しは花火ちゃんだということだ。正体が誰であろうと関係ない。俺が好きなのは『夏音花火』なのだから。これからも応援し続けるし配信も追う。バイトで稼いだお金もグッズや貢ぐ為にこれからも使って行こうと思う。
一人のリスナーとしてこれからも花火ちゃんを応援し支えていこうと胸に誓ったところでスマートフォンにメッセージが入る。先ほど予想外過ぎる再会を果たし、数年間連絡すら取っていなかった彩音だ。
『話がしたいから家に来て。カギは開けとくから』
用件だけの簡単なメッセージ。何とも言えない変な緊張にさらされる。会いたいような、会いずらいような自分でもよく分からない気持ちになってしまう。でも、会わないという選択肢はない。
彩音のメッセージに返信をする。
『分かった。すぐに行く』
俺は貴重品だけ持って家を出る。彩音の家は隣なので本当にすぐ着いてしまう。彩音の家の玄関の前まで来て足を止める。
やっぱり緊張してしまう。大きく深呼吸を一つ。気持ちを落ち着けてドアを開ける。
「お邪魔しますって、うっ……!?」
ドアを開けた瞬間、飛び込んできた光景に思わず顔をしかめる。
「なんだよこれ……」
目の前に広がっていたのは何個も積み上げられたゴミ袋の数々だ。わずかに残った足場以外はゴミ袋に覆い隠されており、玄関としての役割をまったく果たしていない。
「いったいどれだけ放置したらこんなにゴミがたまるんだ?」
ゴミ袋を足でかき分けて何とか靴の置き場を確保して家の中へと上がり込む。唯一の救いはちゃんとゴミ袋の中にまとめられていたことだ。
「お邪魔します」
一応礼儀として挨拶をしたから家の奥へと進んでいく。その間にもゴミがあったが、それ以上に洗濯物があちらこちらに存在している。ちらりと見えた洗面所には洗濯物の山が形成されている。
俺が最後にこの家に入ったのはかなり前だが、こんなひどい状態とは似ても似つかない場所だったように思う。いったい何があったというのだろうか?
床に落ちた洗濯物をよけながら進んでいく。最初はリビングにいるのかと思ったが、いないのでおそらく彩音の部屋にいるのだろう。彩音の部屋は一階にはないので階段を登って二階へと向かう。
そして、彩音の部屋の前に立ちノックをする。
「彩音? 入っていいか?」
「…………うん」
すこしの沈黙のあとに返事が返ってくる。その返事を待ってから扉を開けて部屋の中に入る。
こうやって会うのはいつぶりだろうか? 昔はよく遊んでいた仲なのに変な緊張をしてしまう。お互いなんて切り出していいの分からず言葉につまってしまう。
いつまでもこうしていても余計に気まずくなってしまうので俺から先に話しかける。
「あー……その、久しぶり」
「うん……久しぶり」
沈黙を破ってお互いにぎこちないながらも言葉を交わす。それがよかったのか少し緊張が解け彩音がはにかむ。その笑顔は昔のまま変わらない彩音で懐かしさを感じる。
「元気そうで良かった」
「うん。辛かった時期はあったけど今は毎日が楽しいよ」
彩音の姿はどこか晴れやかでとても安心した。
「それならよかった。配信の方も好調みたいだし安心したよ」
彩音の元気な姿を見ることが出来てほっと胸をなでおろしていると彩音から疑問の声が上がる。
「……え?」
「うん?」
彩音はまるで信じられない物を見るような視線をこちらに向けてくる。なぜそんな目を向けられているのか全く分からず首をかしげていると、彩音が恐る恐る口を開く。
「な、なんで配信のこと知っているの?」
「なんでってさっき思いっきり配信しているところ見ちゃったし」
配信のことがばれたからその口止めの為に呼び出したわけじゃないのか?
俺の言葉を聞いて考えこむようなしぐさを見せてから、ほっとしたような表情になる。
「そっか……そうだよね。でも、全部ばれたわけじゃないならよかった」
なにかつぶやいているが小さすぎて内容までは聞き取ることが出来なかった。
「俺もこれからもリスナーとして夏音花火のことを応援し続けるから頑張ってよ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
突如、思わず耳をふさぎたくなるほど大きな彩音の声が部屋中に響き渡った。
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