第17話

 

 俺がさやかをタクシーから降ろそうとしたらタクシーのドアが締まった。


「ゴールデン街で朝まで飲むんだよ。

 若い女の子じゃやばい所だよ。

 来るの?」


 家に帰ろうと思っていたがさやかについて来られたらやばい事になりそうなので咄嗟にそう言うとさやかは、いくぅ~!と言うと俺にしがみつき、そのままぐったりして目をつぶった。

 俺はため息をついて運転手さんにゴールデン街に行くように告げた。

 こうなったらさやかを酔いつぶれさせて、明るくなった頃にどこかに置いて逃げようと覚悟を決めた。


 俺は専門学校の新人歓迎コンパの3次会で卒業した先輩に連れられて行った、新宿ゴールデン街の小さなカウンターしかない飲み屋さんに行こうと思った。

 和服姿のおばあさんが一人でやっていて、よく映画関係の人達が飲みに来るお店でおでんと焼酎でがんがん飲めるお店だ。

 本当はこの店に美樹を連れて行って色々と話し込みたかったのだが。

 今、タクシーの隣の席でむにゃむにゃ訳の判らない事を言っているさやかが少し憎らしくなった。

 タクシーが明治通り沿いに停まり、私がお金を払うと夜風に当たって元気を取り戻したさやかを連れて神社を突っ切りゴールデン街に行った。


「やっぱりスパイは飲む所が違うね」


 さやかは初めて見るゴールデン街の雰囲気に舞い上がっていた。


「今行く店は俺が大事にしてる店だから静かに飲んでくれる?

 騒いだら帰ってもらうからね」

「イエッサー!」


 さやかがビシっと敬礼した。

 俺は頭を振りながらさやかを連れて店に入った。

 こじんまりとした店は数人の客達がおでんを肴に映画談議に話を咲かせていた。

 さやかが目をキラキラさせながら薄汚い店の中を見回していました。


「いらっしゃい、彼女連れなんて初めてだね」


 おかみさんがそう言いながら付き出しを出した。


「いやいやいやいや、彼女とかじゃな…」

「彼女でーす!

 私はこのスパイの秘密の彼女なんでーす!」


 さやかが元気よく言うと店の客達がどっと笑った。

 こいつらおじさん連中は若い女にはとても甘いのだ。

 俺たちはおでんを食べながら焼酎を飲んで色々と撮影現場の事とかを聞きながらまぁまぁ楽しく飲んだ。

 さやかはさすがに飲み過ぎた様で、口数も減り、こっくりこっくりとし始めた。

 時計は午前1時を回っていた。


 俺はこのままさやかを置いて行こうかな?と思ったが、おじさん連中の一人がそっとさやかのお尻を触っていた。

 おかみは俺を見ながら言った。


「そろそろこの子を帰した方がいいよ。

 この辺はスケベな奴が多いからね」


 と言いながらさやかのお尻を触っていたおじさんの頭を思い切り叩いた。

 確かにこのまま置き去りにして変な奴に持ち帰りされても寝覚めが悪い。

 俺はしょうがなくさやかを家まで送る事にし、勘定を済ませてぐったりしたさやかをおぶって店を出た。


 深夜とは言えまだまだそこそこ人気がある所を若い女の子を背負って歩くのはいくら歌舞伎町でも少し恥ずかしかった。

 さやかが俺の耳たぶに口づけをしてきて、小声で囁いた。


「…ねぇ、どこかに行こうよ。

 どこか二人っきりになれる所…行こう」


 さやかは俺の首筋に熱い吐息を吐きかけ、首筋や耳たぶに舌を這わせていやらしい声で囁いた。

 おまけに胸と腰を俺の背中にいやらしく卑猥にグリグリと押しつけて来た。

 たちまち俺はテントの設営が始まり前かがみになって歩きづらくなった。


 パオ~ン!パオパオ~ン!


 何か得体のしれないけだものが俺の心の中で吠えていた。


 喜び組のエロエロ攻撃が「1喜び」だとすると、さやかが俺にしている攻撃のいやらしさは優に「273喜び」を超えてしまうほどだった。


(なんてエッチな攻撃なんだ…こいつは本当に北の工作員かも知れない)


 と俺は戦慄を覚えた。

 俺は必死になって昨日の夜、さやかがナカガワの部屋に泊まった事や今日の合コンで会った美樹の顔を思い出しながら超エロエロ攻撃に耐えていましたが、とても耐えきれなかった。


 19歳の男の子が背中にそこそこ可愛い女の子を背負ってしかもお酒が入っていて、財布にはホテルに行くには十分なお金があって、その女の子が卑猥に胸や腰を押し付けて誘ってるんだぜ。

 こんな攻撃に耐えられる男がいるだろうか?いいや!いない!いるとしたらどうしようもないインポ野郎に決まってる!


 パオ~ン!パオ~ン!パオパオパオ~ン!





続く

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