第16話
第六日目
翌朝すっきりと目が覚めた俺が時計を見ると午前8時だった。
今日はアルバイトは休みで夕方から合コンだ。
俺は昨日のピストル騒ぎを想い出して布団の中でくすくす笑った。
アルバイトを始めた頃の、もう辞めよう今辞めようという思いがすっかり心の中から消え失せて、逆にピストル騒ぎを経験して、やっと俺も一人前かな?などと密かに誇りに思っている自分がいた。
ピストルでも刃物でも持ってこい!返り討ちじぁ!という気分、あと、せっかくだからあの時本物のピストルを手に取ってみたかったな~などとのんきな事、まで考えてる。
今日は午後から授業が一つあるだけなのでこのままのんびりしようかな?と布団の中でもぞもぞとしていると誰かがドアを叩いた。
ナカガワが立っていた。
「ナカガワ、どうしたの?」
「ソノダ、悪いんだけどもう少し金貸してくれないか?
昨日泊めた子と飯を食いに行こうと思うんだよ」
「この前貸した1万円どうしたんだよ?」
「あれは、今夜の合コン用に~へへへ」
ナカガワはえへへと笑った。
俺は冷蔵庫の上の食糧置き場を見た。
「ふ~ん、貸してあげても良いけど…なんなら俺が飯作ってやろうか?
お前も学校午後からだろう?
少し買い物してきてくれれば、俺が何か作ってやるよ」
「マジで?助かるよ」
俺は部屋に戻って財布から千円札を2枚取り出してナカガワに渡した。
「これでコンビニでオレンジジュースと食パン2斤買ってきてくれよ、8枚切りな、あとマヨネーズが切れてるんだ。
オレンジジュースとパンとマヨネーズよろしく。
あと、トマトがあったら買ってきて」
「うん、判った」
ナカガワが階段を下りて行った。
俺は蒲団を畳んで部屋の中を少し片付けてから料理を作り始めた。
せっかく高い食材を買ったのに食べる機会が中々なくて勿体ないと思っていたところだ。
きゅうりと玉ねぎとセロリを出して刻んで、玉ねぎは少し水にさらしてから水を切って、ボウルに放り込んで塩コショウとお酢、この前買った凄く高いオリーブオイルとオリーブの実から種を取り除いてアンチョビを入れたものを混ぜ込んだ。
上等な牛肉の切り落としをフライパンでいためながら控えめに塩コショウを振って隠し味にアンチョビを少し入れた。
レタスの葉っぱをちぎり、アボカドを切って果肉をすりつぶして塩コショウを少々ふってサンドイッチの具を用意して、ベーコンと玉ねぎとパセリを茎ごと刻んだものを入れてコンソメスープを作った。
一人暮らしをする一か月前に母親から家事、特に料理の特訓を受けていたのでこれくらいは簡単な物だ。
「いいかい、女の子にもてたかったらおいしい料理を作れるようにならなきゃだめよ」
これが俺の母の口癖だった。
ナカガワが返ってくるまでにブラジル風のプリンも作ってやろうと思い、コンデンスミルクと卵全卵2つ卵黄3つと牛乳にバニラエッセンス少々をボウルで掻き回して、エンゼル型に砂糖を敷いてそれを直接火にかけてカラメルを作っていると、ナカガワが昨日の女の子と一緒にやって来た。
「ソノダ、買ってきたぜ」
「おお、あがれよ、テレビでも見ながら少し待ってて」
「悪いな」
ナカガワが奥の6畳間に行く。
「お邪魔します」
女の子も神妙に挨拶して部屋に上がった。
俺は外見がかなり怖く見えるらしく、初対面の女の子は、皆どこか構えて、怖がる感じになり、妙に行儀正しくなるんだ、悲しいぜ。
ナカガワの部屋に泊まった女の子も奇妙に礼儀が正しくて、少し悲しくなった。
俺はエンゼル型にプリンの具を流し込んで大鍋に水を敷いて蒸した。
ナカガワが買ってきた食パンをトースターに入れて焼いている間にトマトをきざんでサラダに入れて、卵を溶いてオムレツを作り、トーストにバターを塗ってゆく。
「何か手伝いますか?」
女の子が台所に来て言った。
「いいよいいよ、テレビでも見てて。
あ、じゃあ、サラダのボウルと小皿とスープのカップとか持って行ってくれる?」
「はい」
女の子が6畳間のちゃぶ台に皿を持って行った。
ナカガワが自慢げに女の子に言った。
「ソノダは顔が怖いけど、料理は旨いんだぜ!」
「顔の事余計」
そう答えながら俺はバターを塗ったパンにアボカドと焼いた肉とレタスの葉を挟んで行った。
出来上がったサンドイッチとオムレツとスープの鍋を持って行ってオレンジジュースをコップについで食事を始めた。
「おいしい!」
女の子がサンドイッチを頬張りながらびっくりした顔で言った。
俺は料理を美味しいと言われるのが凄く嬉しい。
お金に困らなくなったらどんどん家でお料理パーテイーできるなぁと嬉しくなった。
あ、今お金に困っていないんだっけ。
「どんどん食べて。今コーヒー淹れるよ」
俺は台所に行きコーヒーの用意をしていると、6畳間からナカガワと女の子が嬉しそうに話す声が聞こえて来た。
「ファミレスよりも全然美味しいね!」
「だろう?」
俺はコーヒーの用意をしながらニヤついてしまった。
これは何としてもこんなインスタントじゃなく本格的に豆を挽いてドリップできるコーヒーの道具を買わなきゃな!と心に誓った。
「あれ?なんだよこれ!」
ナカガワが素っ頓狂な声を上げた。
俺がコーヒーを用意して6畳間に入って行くと、ナカガワがロレックスを手に取って見ていた。
女の子もその時計を見つめて目を見開いている。
どうやら多少は腕時計の知識があるようだ。
「ソノダ、これ本物?」
「本物じゃない?たぶん本物だと思うよ」
「すっごーい!ロレックスでしょ」
女の子があっけにとられて言った。
「おまえこれ…百万位するんじゃねえの?どうしたんだよ?」
「…アルバイト先の店長から貰ったんだ」
「え~!すごい!どんなアルバイトしてるんですか?」
女の子が尋ねた。
「…なんて言うか、ブザーが鳴るとドアを開けたり…外国人の相手したり…機械に鍵突っ込んでグリグリひねったり…暴れる人取り押さえたり…おかまにあそこ触られたり…ナイフで足を刺された人を追い出したり…やくざから銃を突きつけられたり…お金はすごくいいんだけどね…」
「へぇ…」
「すごい…仕事ですね…」
ナカガワと女の子がぽかんとした顔で俺を見た。
その後、おまけにふざけた態度のくせに喧嘩がまるで弱い酔っぱらいの客から取り上げた、隠し持つのに好都合な握りがメリケンサックの様になっているダガーナイフ迄見つけられてしまった。
俺はポーカーゲーム屋でのバイトの事をぼやかそうとしたが説明しているうちにどんどん泥沼にはまり込んで、限りなく怪しい仕事をしている感じになってしまった。
ナカガワと女の子は俺がまるで北の工作員かショッカーの様な眼で見ていながらも食事を食べる手は休めなかった。
セットしたタイマーが鳴ってプリンが蒸しあがったので、俺は二人の視線から逃げるように台所に行った。
蒸しあがったプリンを大皿にひっくり返して荒熱を取って冷蔵庫に入れた。
ナカガワと女の子が食事を終ったのでお皿を流しに下げて洗っていると女の子が台所に来た。
「洗い物手伝いますよ、スパイさん」
「スパ…いや、一人で大丈夫です。
プリンが冷えるまでもう少し待ってね」
俺がそう言うと女の子は身を寄せて小声で言った。
「友達に優しい人に悪い人はいません。
潜入捜査かなんかしてるんでしょ?
大変ですね。
頑張ってくださいね」
この女の子はどうやら物凄い勘違いをしているようだ。
何かきらきらした目で俺を見つめていた。
ナカガワは6畳間でテレビを見ながらくつろいで、時々大声で笑っていた。
19歳の男の子がそんな大それた事するわけないじゃないですか!と言いそうになったけれど、俺は面倒くさくなったので、洗い物をしながら適当に答えた。
「国民の安全な生活を守るためには辛い事もしなきゃいけないんですよ」
女の子はポケットから手製の名刺を出すと俺の胸のポケットに入れた。
「何か緊急の時や助けが欲しい時は電話して下さい」
「…はい、了解です」
俺はものすごいスピードで洗い物をしながら答えた。
女の子はニコッと笑って私に小さく敬礼をすると6畳間に戻った。
小一時間程3人でテレビを見ていて、そろそろプリンが冷えたので皿に切り分けて、ホィップクリームとアメリカンチェリーを上に乗せて出した。
ナカガワと女の子は喜んで食べてくれて、2回もお代わりをした。
やがて2人は帰った。
俺はサッシの封筒を出してしばらく考えてから、封筒から8万円を取り出して、20万円が入った封筒をまたサッシに隠した。
財布に8万円を入れて、俺の財布の中には13万1000円になった。
そして今夜の合コン用の服に着替えて、悩んだ末にやっぱりキンキラキンのロレックスを腕にはめた、が、学校でこれをはめるとヤバイかな?と思い直してバッグに入れた。
着替えたときにポケットから出した女の子の名刺がテーブルに置いてある。
映像集団Bと書いてあり、時任さやかと女の子の名前が書いてあった。
素朴と言うか垢抜けない感じの女の子にしては煌びやかな名前だった。
先程俺の部屋に来た時は、トレーナーにジーンズで長い黒髪を後ろに纏めて黒縁めがねの冴えない感じだったからだ。
ちょっと地味なアラレちゃんみたいな感じだった。
(今流行りのヲタクってあんな感じかな)
俺はそう思いながら名刺をテーブルの上に放り投げてアパートを出た。
級友たちに合コン用の服装をからかわれながら学校で少々退屈な映像理論の講義を受けてから、俺は少し早く渋谷に行って、ぶらぶらとあちこちを歩いた。
時間つぶしにデパートのウインドウの前などで自分の服装などをチェックしたり、キンキラロレックスが似合っているか見たり、素敵な笑顔の研究をしたりした。
何人かの若い女性が俺を見てくすくす笑いながら通り過ぎた。
俺は合コン間近なのでそんな事も気に留めず、と思いながらもあまり目立たないようにウインドウの端に寄って自分のファッションをチェックを続けた。
丸井の店員さんが見立ててくれたコーディネイトは完璧だと思った。
ただ一つ残念なのは履いている靴が、セキュリテイショップで買ったアメリカ警察特殊部隊用のごついショートカットのコンバットブーツである事だった。
当時は大きい靴と言えばこういうミリタリー&ポリス用の物を扱っている店でアメリカやヨーロッパから取り寄せるか、目ん玉が飛びでる程高い店に行くかしなければならなかったのだ。
(まぁ、しょうがないな、足がでかいんだから)
俺は自分の足元を見ながらため息をついた。
そろそろ時間になのでナカガワが教えてくれた店に行ってみるとそこはお洒落な洋風居酒屋と言うような感じの店だった。
この恰好して来て良かった!と思いながら店に入って行くとナカガワ達、男連中が既に店にいた。
今回は男と女7人づつの合コンだ。
男連中は俺の決めた格好を見て口々にはやし立てた。
少しやりすぎたかなぁ、と思った。
俺以外の男たちは、少しもっさり目のダサい恰好しているのだ。
もっとも、1週間前は俺も奴らと似たり寄ったりの格好だったけど。
奴らは目ざとく俺のキンキラロレックスを見つけ、俺に頼みこんでロレックスを借りて自分の腕にはめてみたり、本物かなぁ?と言いながら時計を手に持って重さを量ったり匂いをかいだりしていた。
「ソノダ!女の子達来たぜ!」
ナカガワがそう言うと立ち上がって入り口にいる女の子達にこっちこっちと手を振った。
俺はこちらに来る御洒落に決めたの子達を見て少しホッとした。
俺達は挨拶もそこそこに席を空けて女の子達と交互に座った。
「こんばんは、スパイさん」
ひときわ大人っぽいシックな感じで決めた女の子が俺の隣に座って声をかけてきた。
「?」
その女の子は昨日ナカガワの部屋に泊まって、今日の朝にナカガワと一緒に俺の部屋で朝食を食べた、さやかだった。
今日の朝のトレーナーとジーパンで黒縁めがね姿とは全然違ってお洒落なお姉さまチックに決めていた。
変わろうと思えばこれほど変るもんなんだなぁ、女の人は恐ろしいと俺はため息をついた。
さやかは細身のメンソール煙草をくわえながら俺に微笑みかけた。
「今日は任務の足手まといにならないようにスパイさんと同じようなコーディネイトで決めて来ました」
彼女は朝食の時に部屋の壁に掛けていた俺の服を見ていたのだろう。
なんか油断ならない感じだ。
確かに俺とさやかが並んで座っていても違和感が無いかも知れない。
2人とも、他のメンバーより少し年上の感じのファッションできめているのだ。
俺はいったい何だかなぁと、思いながらも悪い気はしなかった。
ナカガワが運ばれてきた飲み物を持ち、乾杯の音頭をとった。
さやかはワインのグラスをお洒落につまんで俺のハイボールのグラスにカチンと当てた。
「さすがスパイさんは大人の飲み物飲むんですね~」
そういったさやかは早くも自分が作り上げた妄想世界に酔っているような感じだった。
俺も俺であるいはさやかは実は本当に某国の工作員じゃないかと少しだけ真剣に疑った。
ここ1週間の、日常生活から銀河の遥か彼方にぶっ飛び出た生活を送っている俺にはそんな事もたいしておかしく感じなくなっていた。
俺は、影の本当の姿を見破られない様に慎重にこの女に接しないと今回の任務が失敗すると覚悟した。
…あほか。
今回の任務って何だろう?自分で言って置いて非常に気になる。
乾杯の後、メンバーがそれぞれ自己紹介をしていった。
合コンのメンバー全員が自主制作映画の製作をしていたので、それぞれ会話がどんどん盛り上がって行く。
呆れた事にナカガワは私の隣のさやかに目もくれず、ちょっとポッチャリめの胸が大きい女の子と楽しく話しながらしきりに口説いていた。
俺は向かいに座った黒いタートルネックの上品で知的なほっそりした女の人とフィルムノワールの話題で盛り上がっていたが、やたらにさやかが話に割り込んできて、少し持て余していた。
「この人、実は亡国の工作員なの」
俺が向かいのほっそりさん、三浦美樹という名前の女性と話し込んでいる時にいきなりさやかが言った。
俺は飲みかけのハイボールをむせて噴き出しそうになった。
美樹はくすくす笑ってくれたので助かったが、俺は少し嫌になって来た。
俺はナカガワとシモの兄弟になるつもりはなかったのでなるべくさやかを無視した。
そして、トイレに立った時に、やはりトイレにいた幹事を務める男に声を掛け、そろそろ席替えをするように段取りを頼んだ。
合コンの時に男女共にするようにトイレタイムは貴重な情報交換&戦略会議の場なのだ。
そいつは俺と俺の隣に座っているさやかがうまく行っていると思っていたのだ。
そいつはさやかの事が凄く気になっていると言う事なので、俺が旨く取り持ってやるよ、と言い、俺は向かいに座っている美樹を狙っている事をそいつに伝えて共同戦線を張る事にした。
そう、今回の俺の任務は向かいに座っている知的で素敵な美樹をモノにする事だと今、気がついた。
これはこれからの俺の人生を決める極めて重大な任務かも知れない。
俺達が席に戻るとトイレで一緒になった男が早速ノートを取り出して何やら書きこむと立ち上がって叫んだ。
「席替えターイム!席替え阿弥陀だよーん!」
いきなりさやかが、「席替えはんたーい!」と叫んだが、俺はすかさず「いいじゃんいいじゃん!席替えターイム!」と叫んだ。
さやかが般若の様な顔をして俺の顔を睨んだが、俺はそれに気が付かない振りをした。
向かいの美樹も笑顔で「席替えターイム!いぇ~い!」と叫び、みんなで阿弥陀を引いて、出た順番で座る事になった。
阿弥陀を作った奴は阿弥陀に細工をしていて俺と美樹、そいつとさやかが隣同士に座るように細工をしてくれた。
座る順番が決まり皆が立ち上がるとそれぞれ新しい席に座った。
俺は美樹の隣に座り、美樹は嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。
さやかはトイレで一緒になった男の隣に座りながら時々俺と美樹の会話に割り込もうとしたが俺たちは聞こえない振りをして色々な映画の話で盛り上がった。
美樹は「鬼火」とか、「橋」とか、「キャッチ22」、「ソルジャーブルー」、「スローターハウス5」、「博士の異常な愛情」とか色々と渋い映画を観ていて、原作の小説とかも読んでいて、俺は久々に話が合う人を見つけて凄く嬉しかった。
美樹もこんなに話が盛り上がる人は初めてです、と嬉しそうにしてくれた。
俺はこの上品で知的な感じがして映画のセンスも会う美樹と、なんだか今夜はいけそうな気がする~!と言う感じがした。
俺は美樹と電話番号の交換をし、今度高田馬場の名画座で上映するフランス映画特集を一緒に見に行く約束を取り付けた。
任務成功だ!
1次会が終わり、盛り上がったメンバー全員は2次会でカラオケに行く事になった。
皆でぞろぞろとカラオケがある店に行った。
この当時はあまりカラオケボックスとかが無かったので、カラオケが置いてある飲み屋さんに行くのが一般的だった。
俺と美樹が並んで話しながら歩いていると後ろからさやかが走って来て、俺の首筋にいきなりウエスタンラリアットをかました。
酔っていて無防備だった俺はいきなりの攻撃に首を押えてうずくまった。
「スパイの癖に弱ぇええ!」
さやかがけらけらと笑った。
美樹がちょっと大丈夫?とうずくまる俺に手を掛けた。
さやかが美樹の手を引っ張ってどかすと、いきなり俺の足を両手でつかんで力任せに引っ張った。
俺はバランスを失って転んだ。
「うわぁ!ごつい靴!
これってプロ!プロフェッショナルが履く靴なのねぇ!」
俺はさやかの手から足を引き抜いてなんとか立ち上がって叫んだ。
「誰かこいつを何とかしろよぉ!」
皆はげらげら笑っているだけだった。
美樹も笑っていたのでそれ以上俺も怒れずに、苦笑いを浮かべた。
カラオケのお店に入り俺たちはがやがやと盛り上がりながらカラオケを熱唱した。
俺は美樹の隣にびったりとくっついてカラオケの本を見ながら好きな歌の事とか話し込んだ。
さやかはさっきの事で気が済んだらしく、プリンセスプリンセスとかアニメソングとか中村あゆみとかを熱唱していた。
俺はぽっちゃりした女の子を口説いているナカガワにそっと小声で文句を言った。
「おい、ナカガワ、さやかの事、あれ何とかしろよ、一応彼女だろ?」
「ん?別に彼女じゃないよ。
一晩泊まっただけじゃん。
俺はこの子が大好きなんだよぉ!」
ナカガワがぽっちゃりした女の子に抱きついて胸に顔を埋めながら言い、かなり出来上がっている女の子がけらけら笑った。
俺は呆れて美樹との会話に戻った。
ちらりと見るとトイレで一緒になった奴はさやかに手ひどく振られたようで隅の壁際でどよ~んとしていた。
俺は美樹とアンルイスの「六本木心中」を歌う事にした。
何曲も曲が入っているので俺はトイレに立った。
トイレを開けると合コンの面子の男女が鏡の前で熱烈にキスをしながら抱き合っていた。
この当時の合コン2次会あるあるなんだよな、今はどうなんだろう?
あの頃は現在よりも性意識はオープンな気がした。
結構気軽に皆がくっついたり離れたりしていた気がする。
俺は抱き合っている二人を避けながらトイレを済ませて美樹の隣に戻った。
やがて、六本木心中が掛かって俺と美樹がステージに立って歌い始めた。
さやかがきゃぁあああ!と言いながらステージに上がり込んでマイク無しで横でがなり始めた。
俺と美樹は顔を引き攣らせながらさやかに負けじと熱唱した。
皮肉な事に3人の息が合ってそれぞれのパートがしっかりとはまって凄く良い感じで歌えた。
皆が拍手喝采をしてくれたが俺は複雑な気持ちでステージを下りた。
2次会が終わり、残念な事に実家に住んでいる美樹は家に帰る時間になった。
俺は美樹に近いうちに映画に行く約束をして電話番号を交換してさよならした。
美樹が可愛い笑顔で手を振ってくれた。
これで今夜の任務は完了だと思った。
俺も今日は帰ろうと思い、皆とさよならして、渋谷のタクシー乗り場でまだ空いている間にタクシーを拾おうとした。
俺がタクシーに乗り込んだ途端にさやかが俺を奥の席に押しやりながら乗り込んできた。
「スパイさん、どこいくの!
どっかに行こうよ!」
続く
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