第15話

 俺たち店員に重苦しい緊張感が漂う中、新しく入って来た客達は本当にフォーカードやストフラがバカスカ出て、結構皆が勝っていた。

 少なくとも役がかなり出るのでストレートにどんどん負ける客はいなかった。

 負けているのはアホみたいにダブルアップを負けるまで叩き続けるニシカワくらいだった。

 周さんがストフラとフォーカードを出し、フォーカードを叩いて当ててほくほく顔になった。

 ニシカワはまるで逆ATMの様にセカンドバッグから1万円札を3枚、4枚いっぺんに出してはどんどん飲まれていった。

 時間は9時を大幅に過ぎて10時になろうとしていた。


「ストフラだー!」


 ニシカワが叫んだ。


「おめでとうございます!」


 俺が伝票とポラロイドカメラを持って行こうとした途端にニシカワがダブルアップ画面に切り替えてダブルアップを叩いてはずした。

 なんということをする奴なんだ!

 フォーカードやストフラ、ロイヤルなどの役は画面を確認してカメラで撮影しないとご祝儀は出せないのだ。

 ニシカワがカウンターの方を振り向いて叫んだ。


「さっさとご祝儀持って来いよ!」


 ツダが控室のマエダを呼び、俺とワタリがニシカワの方に行った。


「ニシカワさん、写真で確認できないとご祝儀出せないんですよ」


 ワタリがニシカワに言う。


「なんだと!

 そんな説明聞いてねぇぞ!

 お前、チョンだから、俺が日本人で意地悪で言ってるんだろう!」


 ニシカワがヒステリックに叫んだが、そんな事はない。

 ニシカワが最初に入って来た時に、店のシステムの説明を拒否したのだ。

 その時ニシカワはどこの店も同じシステムだろうと言った。

 そのとおり、どこの店でも写真かプリンターで確認しないとご祝儀出したりしない。

 ポーカーゲームで遊ぶ人間ならば当然知っているはずなのだ。


 ニシカワははっきりと言いがかりをつけている。

 ワタリがむっとしてニシカワに向けて一歩前に出た。

 ニシカワはセカンドバッグに入れていた手を出した。

 その手にはあの大口径のピストルが握られていた。

 ニシカワが立ち上がり自分の体でピストルを隠しながらワタリの胴体に銃口をつきつけた。


「騒がねぇでカウンターに行けよ、チョン」


 俺もワタリもその言葉に従うを得なかった。


 驚いたことに客達は俺たちを見て不穏な空気を感じながらもゲームを続けていた。

 こいつらは店が火事になっても焼け死ぬまでゲームを続けるんだろうな、とその時の俺はのんきなことを考えた。

 カウンターにはマエダが立っていた。


「ニシカワさん、何か手違いがあったようですね。

 まぁ、控室でお話を聞きましょう」


 マエダが笑顔で言った。

 ニシカワはピストルを握っていた手をセカンドバッグに入れてマエダに向けた。


「うるせぇよ、ここで話すからお前も座れ」


 ニシカワとマエダがカウンター脇のソファーに向かい合って座った。


「今日俺は大事な用事があったんだがよ。

 ところがこの店のいかさま機械のおかげで遅れちまうんだよ。

 くそが!」


 ニシカワの声を聞きながらマエダは煙草を取り出して火をつけた。

 ニシカワがピストルを握った反対側の手で煙草を出して口にくわえた。


「チョンは気が利かねぇな、火くらいつけろよ。

 バカやろう」


 ニシカワは後ろに立っている俺たちに向かって言う。

 マエダがすかさず腕を伸ばしてライターでニシカワの煙草に火をつけた。


「ニシカワさん、ご祝儀を出せばその物騒な物を引っ込めてくれますか?」


 マエダが聞くと、ニシカワは薄ら笑いを浮かべた。


「いかさま機械で負けた分返したら引っ込めてやるよ」


 マエダがツダに今日ニシカワがいくら使ったか聞いた。


「え~と、43万円です」


 途端にニシカワが怒気を含んだ声で怒鳴った。


「ばかやろう!

 今までいかさまで巻き上げた金、全部返せよ!」


「ニシカワさん、鉄火場でそういう事言われたんじゃどうしようもないですよ。

 あなたもこういう世界を知ってるんでしょ?

 素人じゃあるまいし、今日は43万円持って帰って下さいよ。

 もちろん、当然のことながら、今後出入り禁止ですがね」

「なんだとこの野郎!

 俺は〇〇組の…」


 ニシカワがそう言いかけた時に客の1人が叫んだ。


「入れてー!」


 マエダはワタリに目配せすると、ワタリがゲーム機に行った。


「ニシカワさん、ここでそういう事言うと厄介な事になりますよ」

「お前の方が厄介になってるだろうが!

 おもちゃじゃねえんだぞ!」


 ニシカワがセカンドバッグから手を出してマエダにピストルを突き付けた。

 その時に俺はニシカワがハンマー(撃鉄)を起してない事に気がついた。

 シングルアクションと言うシステムのM1911A1はハンマー(撃鉄)が起きていないと引き金を引いても弾が出ないのだ。

 多少銃に詳しい小学生でもその程度は判る。

 俺は後ろから襲いかかってピストルを奪おうと身構えた瞬間にニシカワが親指でハンマーをコック(起こす)した。

 チッ、チャンスを逃した!と思い、俺は少しズッコケた。

 ニシカワが後ろを向いて俺に文句を言った。


「さっきからそわそわしてんじゃねぇよ!

 素人がピストルくらいでビビりやがって見っともねえな!

 じっとしてろ!」

「ソノダ、そこでニシカワさんの後ろに立ってろ、他の客に見えねえようにな」

「はい」


 ワタリが戻って来てツダにお金を渡した。

 そして、グラスを回収して洗い物を始めた。


「おい!チョン!

 お前も用事がすんだらここに来いよ!」


 ワタリが無表情で洗い物を済ませると手を拭きながら俺の隣に来た。


「変な真似すっとこいつをぶっ殺すからな」


 ニシカワがそう言うと改めてピストルを握りしめてマエダに向けた。

 ワタリが俺の腕をそっと肘でつついた。

 俺がワタリを見ると奴が後ろ手に包丁を持っていて俺にさしだしていた。


(俺が?俺がやるの?)


 俺が目を見開いてワタリを見つめると奴が黙って頷いた。

 俺はそっとワタリから包丁を受け取ると体の後ろに隠した。


(こういう時に先生ならどうするだろう?)


 と必死で考えた。

 古武術の先生の柔和な顔が浮かんで、お逃げなさい、と俺に言った。

 俺は心の中で、役に立たない先生だ!と罵った。

 店内ではおおよその事を知っている筈の客達が、無関心にゲームに熱中していた。

 シュールだよなぁ。


「私の一存では決められないですね。

 オーナーと電話で話さないと…」

「そんな事言ってケツモチ呼ぶ気だろう!

 そうはいかねぇぞこの野郎!」


 ニシカワが押し殺した声で呟いてピストルをマエダの額に突き付けた。


(ああああ、どうしたら良いのだろう?)


 俺は包丁を後ろ手に握り締めながら悩んだ。

 すると、古武術の先生の顔がまた浮んだ。


(いいかね、敵が武器を持っている時は冷静に考えなさい。

 訓練を積んでいない人間は武器に頼るものです。

 しかし、こちらもそれに囚われて考えてはいけませんよ。

 武器に頼る者ほど武器を使いこなせない者ほど体の他の場所は隙があるのです。

 武器の威力にとらわれてはいけない。

 こちらもその武器を奪おうとして取っ組み合いになってはいけませんよ。

 戦いの極意はいかに致命的な所を攻めるかです。

 武器以外の部分を見ていれば必ず隙があるはずです。

 隙があるところで致命的な所を攻めるのです)


 俺は混乱しまくっている頭で必死に作戦を立てた。

 確かに今のニシカワはピストルをマエダに向けている以外は隙だらけではある。

 すかさずニシカワの頭を掴んで首筋に包丁を当てる。

 銃を下ろさないと首を掻っ切ると耳元で怒鳴る。

 ニシカワが逃げようと身をもがいたり、手首を返して銃を俺に向けたら、思い切りニシカワの喉元を掻き切って床に転がりながら銃撃を交わして体勢を整えて、何か物を投げつけるなり、新たに素手で攻撃するなり、悲鳴を上げて逃げるなりする。


 そんな戦術を頭の中で立てた。

 実際に首筋を切られたらよほど訓練を積んでいる人間以外は反射的に利き手で傷を押えて出血を止めようとすると先生が言っていた。

 たとえ手に武器を持っていても、その武器を使うまで数分の1秒は時間を稼げると教わったんだ。


(果たしてそんな事が俺に出来るだろうか?)


 俺が考え込むと、古武術の先生が、死ぬかも知れないならおやりなさい、と笑った。

 俺が覚悟を決めたその瞬間にマエダが強気でニシカワに身を乗り出して言った。


「ニシカワさんよ!

 こちとらチャカが怖くて鉄火場なんてやってられねぇんだよ!

 撃てるもんなら撃って見やがれ!」


 さすがにヤクザ者はこういうときに度胸があるんだなぁ~!と、俺は頭の片隅で感心した。

 テレビやドラマでは大抵こういう時には悪役は引き金が引けないものだ。


 だが、ニシカワは違った。


「この野郎!」


 ニシカワの馬鹿がピストルの引き金を引いた。


 それから一度に色々な事が起きた。

 ピストルはガチッと音がしただけだったが、マエダが、キャァアアアア!と女のような悲鳴を上げて頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 ニシカワが素っ頓狂な声で。あれぇ?と言って自分のピストルを見た。

 俺は後ろから左腕を回してニシカワの右耳の辺りを鷲掴みにして胸元に引き寄せると包丁を首筋に当てて怒鳴った。


「動くと喉掻っ切るぞこの野郎!

 耳から耳まで掻っ切ってやる!

 動くなぼけぇ!」


 ワタリが慌てて、固まっているニシカワの手からピストルをもぎ取った。

 マエダが身を起こすとワタリの手からピストルをひったくった。

 マエダがピストルを眺めてからスライドを引いて弾倉の中の弾丸を薬室に送り込んだ。

 これではじめてピストルは撃てるのだ。

 初歩の初歩だよ。


「ニシカワ、ちっとでも動くなよ」


 マエダがピストルをニシカワに向けて言った。


「ほうほうほう!カッコ良いねぇ!」


 周さんがゲームをしながら言った。

 なんとなく店内の客たちがほっとため息をついたような気配を感じた。

 やはりゲームを続けながらでも不穏な空気を感じていたのだろう。

 それからマエダはニシカワが置いていった名刺の番号に電話した。

 そして、俺とワタリに、ニシカワを見張っていて少しでも動いたら包丁をぶっ刺せと言った。

 ワタリが流しからもう一つ包丁を持ってきてニシカワの胸に突き付けた。


「動くなよこの野郎、人の事チョンだチョンだと言いやがって!

 動いたら根元までぶっ刺してやる。

 俺はあんたにコレをぶっ刺したくてたまらねえよ」


 ニシカワがさっきまでの威勢も消し飛んで汗びっしょりで固まって座っていた。

 しばらく経つと入口のブザーが鳴った。

 マエダがモニターを見て、ワタリに開けるように言った。

 スーツをビシっと決めた、いかにも任侠映画に出て来そうな迫力ある大柄な男がチンピラ風の男を3人従えて入って来た。

 竹内力の迫力が、「1竹内」だとするとその男の迫力は優に「5.7竹内」位はあった。

 ワタリもツダもマエダも顔見知りの様で久しぶりですと言った。

 鷹揚に頷いた男はマエダが渡したピストルとセカンドバッグを受け取って、チンピラ風の男に渡してソファーの所に来ると、ニシカワの向かいの席に腰を下ろした。

 ニシカワが男を見ると明らかに怯えた表情になり、小刻みに震えだした。

 男は俺をじろりと見てにやりとした。


「にいちゃん、もう刃物しまえよ」


 男は静かに言ったが、物凄い迫力だった。

 俺はニシカワから手を放して包丁を下げると1、2歩下がった。

 男がニシカワの前に座って煙草を咥えると、チンピラ風の男がすかさず火をつけた。

 その男はこの前にニシカワのお供で店に来たチンピラだった。

 「5.7竹内」の男は煙をフゥッとニシカワの顔に吹き付けた。


「ニシカワ、ずいぶん半端な事するじゃねぇか。

 オヤジの面子丸つぶれだぞ、こら。

 おめぇ、9時にはおやじの迎えに行ってるはずだろう?

 務め果たさずに博打打ちやがって…チャカなんか出すんだったら店ん中皆殺しにして有り金全部取って逃げて来るぐれぇ出来ないんか?」


 男は平然と恐ろしい事を言った。

 男の後ろでセカンドバッグを調べていたチンピラが男に言った。


「かしら、金が足りませんよ」


 男はニシカワに小さい声で聞いた。


「使っちまったのか?」


 ニシカワが震えながら小さく頷いた。


 男は後ろにふんぞり返って天井に向かってタバコの煙を吹き出してテーブルの分厚いガラスの灰皿でもみ消した。

 そして、灰皿を掴んで思い切りニシカワの横っ面をぶん殴った。

 ガギャン!ともグャシャン!とも聞こえる不気味な音がして、ニシカワの顔がはっきり判る位に歪んで、ごごごごごごご、と変な唸り声を上げて痙攣した。


「連れてけ」


 男はソファーにもたれて言った。

 チンピラ風の男たちが乱暴に、痙攣しているニシカワを立たせて店の外に連れて行った。

 いつかニシカワに連れられて店に来たチンピラが思い切りニシカワの尻を蹴とばした。


「うちのもんが厄介掛けたな」


 男がマエダに言って店内を見回した。


「俺も久々にゲームやるかなぁ~」


 男が言うとマエダが苦笑いを浮かべて答えた。


「出入り禁止の人はゲームできませんよ」


「そうだな、帰るよ」


 男が立ち上がって、ふと足を止めて俺を見た。


「新人か…サクチャンより強そうだな」


 男が俺に笑いかけて、そう言うと店から出て行った。


 店内は再び平静を取り戻した、と言うか、客たちは相変わらずゲームに集中しているようだった。


「さっきの人って常連だったんですか?」


 俺はツダに尋ねた。


「あれ?ソノダさん、知らなかったですか?

 佐久間さんの腹をナイフで搔っ捌いた人って、あの人ですよ」


 ツダが当たり前のように言い、俺はへなへなと、さくちゃん事件の犯人を見たショックでカウンターにもたれた。


「ソノダ、いつまで包丁持ってんだ、物騒な奴だな」


 店に戻ってきたマエダが笑いながら俺に言った。


「あと、俺がキャァアア!って言ったの内緒ね」


 マエダが照れくさそうに言う。


 俺たちが苦笑いを浮かべて頷くとマエダが絶対内緒だからな!と念を押した。


「ソノダ、ちょっと控室に来いよ」


 俺はマエダに言われて控室に入った。

 控室に入るとマエダが先ほどのロレックスを俺に差し出した。


「これ、受け取ってくれや兄貴」


 マエダが少し照れくさそうに言った。


「ニシカワの野郎が本当に撃つとは思わなかったぜ。

 少しちびっちゃったよ俺。

 まぁ、ソノダは命の恩人て言う事で、感謝の印だよ。

 …受け取ってくれねえと俺の顔が立たないだろう?」


 俺は本当にこのキンキラキンの時計が苦手だったのだがマエダの顔を見ると断りきれなくなった。


「ありがたく頂戴いたします」


 俺が時計を受け取るとマエダが凄くうれしそうな顔をした。


「また、何か会ったときは頼むぜ!

 俺は今死ぬ訳にいかねぇからなぁ」


 マエダは病気の子供の面倒を見なければいけない事を言ってると思い、俺は少ししんみりとした。


「早速着けて見ろよ。

 早く早く!」


 俺はキンキラのロレックスを腕に巻いてみた。


(うぇ~趣味悪~!)


 俺は少し嫌な気分だったが無理やり嬉しそうな顔をしてマエダに見せた。


「どうですか?

 似合います?」


 マエダがほんの一瞬複雑な顔をしましたが無理やり嬉しそうに顔をほころばせた。


「合ってる!

 似合ってるよぉ!

 さぁ、仕事に戻れ、サンキュウな」


 俺は店内に戻った。

 ワタリが目ざとく俺の左手首を見た。


「おお!貰ったんですね!

 似合いますよ!」

「そう?」


 ツダも笑顔で、似合うよ、と言った。

 周さんがおしぼりで顔を拭きながら俺の所にやって来て、左の手首を掴んで時計を見た。


「おおお!ロレックス!これは香港製じゃないねぇ!

 本物だよ!質屋持ってけば100万位するかもね!

 これすれば女の子にもてもてよ!

 女の子、キンキラが大好きよ!」


 俺は少し面映ゆいようないたたまれない様な感じがして手を体の陰に隠した。

 客達は何事も無かったようにゲームを続けていた。

 やがて午前一時近くになり、遅番こわもて軍団が出勤してきて、口々に俺の腕時計を褒めた。

 だんだん慣れてきて悪い感じはしなかった。

 交代の時間が来て、俺たちは控室で給料を貰った。

 今日の日当1万6000円、交通費1万円、大入りは客達がかなり勝ったので2万円。

 そして、マエダからのお小遣いが2万円。

 今日の稼ぎは6万6000円だった。

 慣れと言うのは恐ろしくて、大入りが2万円も出たのに少し物足りない感じがした。


「もう少し色つけてやりたいけど、今日はニシカワのバカ以外は結構皆勝ってったからなぁ。

 また、今度色つけっから頑張ってくれよ」


 俺たちは、はいっと答えて解散した。

 マエダが店を出ようとする俺に声をかけてきた。


「ソノダ、お前明日休みだったよな?」

「はい、すみません」

「謝る事ねぇよ、しっかり体を休めて明後日からよろしく頼むぜ」

「はい」


 店を出た俺をツダとワタリが待っていてくれた。


「今日はどっかに飲みに行きます?」


 俺が聞くとツダが照れくさそうに言った。


「今日はかみさんが誕生日なんだ」

「俺も…ソープランドの女と待ち合わせなんすよ」


 ワタリがそう言ったので、俺とツダが目を見開いてワタリを見た。


「ちょちょちょ!女の方から誘って来たんですよ!」

「ふ~ん、頑張ってね」

「しっかり口説けよ」


 俺たちは店の前で解散してそれぞれ家路に向かった。

 帰りのタクシーの中で俺はマエダから貰ったロレックスのキンキラキンの腕時計をマジマジと見た。

 周さんがこれをはめてると女の子にモテモテだと言った事を思い出した。


(明日の合コン、これをはめて行こうかなぁ?でも、金持ちのボンボンに見られても厭だし…どうしようかなぁ?)


 俺はニヤニヤしながら時計を見ていた。

 タクシーを降りてアパートの階段を上がりながら、俺は歌った。


「ローレー!ロレロレロレー!ローレー!ロレックスー!」


 俺がドアの鍵を開けていると、隣のナカガワの部屋のドアが開いて、女の子とナカガワがはしゃぎながら出て来た。


「バイトお疲れ!」とナカガワが俺の肩を叩き、女の子が軽く会釈して、二人ははしゃぎながら階段を下りて行った。

 俺は部屋に入るとサッシの封筒を確認した。

 封筒には26万円がきちんと入っていた。

 俺は今日の稼ぎと財に入っていたお金を出してテーブルに広げた。

 財布に7万3000円あった。

 俺はかなり悩んでから封筒に2万円足して28万円を入れてサッシに隠し、財布の中に5万3000円を入れた。

 そして、壁の衣紋掛けに掛けた服にロレックスを当てて見て似合うかどうか見た。

 う~んと悩んだ末に明日の合コンにロレックスをしてゆく事に決めた。

 俺は「ローレーロレーロレロレー!」と歌いながらお風呂を沸かした。

 お風呂に入っていると、コンビニから帰って来たらしいナカガワと女の子が俺の部屋の前を他愛もないおしゃべりをしながら通り過ぎて隣の部屋に入った。

 俺はお風呂から出て布団を敷いてテレビを消すと、隣からナカガワと女の子がエッチな事をしているらしい喘ぎ声が微かに聞こえて来た。


 俺は先月別れたばかりの、高校生の後輩の女の子の事を思い出した。

 それから布団の中でもぞもぞと若い男が寂しい時によくやる、以下略な感じの事をして寝た。







続く

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