第2話
中学生になった。
背も少し伸びて、髪も肩くらいに伸ばした。
お母さんは相変わらず体調が良くなくて、入退院を繰り返してる。
でも最近は安定していて、退院期間が伸びていた。
あれから私は家の手伝いをやるようになって、それも様になってきたけど、小学4年生の頃からずっと、夏は田舎のおばあちゃんの家にいる。
「ミヨちゃん、いつもありがとうねぇ」
「もう中学生だからね!おばあちゃんも歳なんだし、あんまり無理しないように」
「ええ、気をつけるわね」
かき氷の皿を2つ分下げて、洗う。
家事を覚えてからは、おばあちゃんの手伝いもするようになっていた。
おばあちゃんはまだまだ元気だったけれど、今年八十云歳だって言ってたから、あんまり無理をさせたくない。
「ねぇ、おばあちゃん」
「なぁに?」
「ちょっと出かけてもいい?」
「あら、いつものところね。いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
皿を洗い終わっておばあちゃんにそう言えば、ニコニコと返事が返ってくる。
そうと決まれば、さっそく準備だ!
今日は暑いとテレビで言ってたから、水筒にお茶を入れて。
あとあのキャップ……は、小さくて入らなくなったから、おばあちゃんの麦わら帽子。
これが結構様になるのだ。
赤いリボンがかわいくて。
ポシェットは去年紐がちぎれてしまった。
今年からはトートバッグだ。
半袖のセーラー服に袖を通した。忘れないうちにスカーフも結ぶ。
そして、おじいちゃんの仏壇に手を合わせた。
きちんと線香も焚く。
おじいちゃん、今年もあのひまわり畑に行ってきます。
本当に、ほんっっっっとうにあの場所残してくれてありがとう!
そうして家を出ていく。
少し歩けば、ほら。
もうそこは、ひまわり畑だ。
今年も太陽の照りつけがキツい。
それにもめげず、相変わらず太陽の方を向いてるひまわり、すごい。
去年作った獣道のような小道を歩く。
今年のひまわり畑も、一度入ったら二度と出れないみたいな気がした。
でも、目的地を知ってる私にとっては、そんな気分もちょっとしたスパイスでしかない。
やがてひまわりの道は開けて、木の小屋が見えた。
「あ、」
「ふは、似合ってる」
笑いかけてきたのは、黎也だった。
彼はひと足早く小屋に着いてたみたいで、周りのひまわりの一輪を手で弄っている。
「ありがと。黎也も似合ってるよ!」
「そう、かな?」
黎也もまた、中学の制服だった。
去年の夏。おばあちゃんの家から帰る日も、彼とこの場所にギリギリまでいた。
だから、約束したのだ。
来年の夏の初めは、お互い制服で会おうと。
「超似合ってる。イケメン。学年中の女の子にモテそう」
「あはは、なにそれ」
こっちは真面目に言ってるのに、黎也ってば笑ってばっかり。
なにそれ、はこっちのセリフだよ!
だって、ちょびっととは言え、私よりも背が高くなってて。
髪は相変わらずサラサラの黒髪だし、顔はお人形さんみたいにめちゃくちゃ綺麗だし、身体は細いし白いし。
そんな美少年の黎也くんに、学ランなんて、女の子みんな注目するでしょ!
今は夏服だから、白シャツだけどさ。
「もー……とにかく、中入ろ!」
「うん」
小屋の中に入れば、日陰になって暑さが少しマシになった。
この小屋は不思議なことに、最高に暑い真夏日でも少しの涼しさを感じるくらいなのだ。
多分、冬にここへ来たら寒くてカイロ手放せない。来たことないけど。
小屋の中は、最初に来た時より居心地が良くなった。
トゲトゲしかった机や椅子は、テーブルかけやクッションを敷いてトゲを解決。
棚には小説と漫画、あとお菓子を入れるかごがある。お菓子は腐るといけないから、毎年食べきってるけど。
そうして今年は、机の上に新たな物が置かれてた。
「わ、これ、黎也が持ってきたの?」
「そう。いいでしょ、この花瓶」
「すごくいい!綺麗な柄だ……」
置かれていたのは花瓶の中では、中くらいの大きさの花瓶だった。
白地の青で何か模様が描かれてる。
「これにひまわり生けて、こう置いたら、良いと思わない?」
「うわぁ、黎也天才!」
例えながら花瓶を机の真ん中に置いた黎也。
想像してみる。
黄色いひまわりと、青と白の花瓶。
窓から射し込む太陽の光に照らされて、それはそれは綺麗な光景だろう。
「よし、じゃあ今日はいい感じのひまわり探しね!」
「うん」
笑う黎也の手を引いて、二人でひまわり畑に駆け出して行く。
結局その日は、ひまわりを刈り取るはさみがなかったから、ひまわりを花瓶に生けることは出来なくて。
代わりに山の麓に流れる小川で水遊びをして、一日が終わった。
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