epilogue & prologue. 彼女の行方と街の景色

 街は、化物だらけだった。


 自分の戦ってきたこれまでが。自分の過去が。力が。とても、ちっぽけなものに思えてくる。


『ほら行くぞ。次だ次』


 これまで必死になって殺してきたでかい化物が、毎日のように出てくる。


「なぁ。この前のクッキーに使ったやつ、買い足しといて」


 忘れてた。彼女が、また急にクッキー食べたいとか言い始めるかもしれない。


『買い足してあるよ』


「そっか。ありがとう」


 彼女。

 いま、自分の目の前にいる。戦っている。


「ぇぅ」


 声にならない声を出しながら、こっちに逃げてきた。


「食えない。あれ。食えないよぉ」


「そっか。じゃあ、増援を呼ぼうか」


 通信をする前に、増援がきた。

 ばかみたいな速さで、化物が消し飛ばされていく。


 この街に来て。

 同じような人間が、たくさんいることを知った。

 しに向かって、ただただ走る。それが、この街では肯定される。そのために化物が毎日出てくるのではないかと、錯覚するほどに。仲間がいる。増援を呼ぼうとすると、すぐに誰かが駆けつけてくる。


 増援に助け起こされて。なんとか立ち上がる。

 増援は彼女のファンだったらしく、にこにこしながら彼女がサインを書いている。この街に来てから、彼女はまた歌い始めた。そこそこの人気で、駅前でひとりで歌ってると哨戒がわたしの代わりに守ってくれたりもする。


 いい街だった。ネオンの灯りと、星空が、両方見える。


 今日もまた、無事だった。しねなかった。


「クッキーたべたい」


 それでもいい。また明日、戦えばいい。そう思えるだけの日常が、ここにあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女の行方 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る