第4話

 彼女。キスを待っている。


 この顔。この顔が、売れているのだろうか。それとも、このキス待ちをするバカさ加減が、愛嬌を生んでいるのか。分からない。


「次の現場に行ったらどうです?」


 彼女。キス待ちを解除し、マネージャーに連れられ次の現場に。


 ばからしい。なぜ彼女とキスをする必要が。ろくに会話したことすらないのに。


 任務に入るにあたって、彼女の来歴と有名なCMをいくつか見た。普通の家庭に生まれ、そして普通の家庭に生まれたことが原因で家族に捨てられ、路上で途方に暮れていたところをたまたま拾われて、今に至る。

 これだけの人気なのだから、生まれた家にいられないのも、分かるといえば分かる。その家族は、彼女の稼いだ金で遊びまくりらしい。どうでもいい。


 普通の家庭でもなんでも。あるだけましだろう。私には家族の記憶も、友達との日々すらも残ってはいない。最初の記憶は、最初の殺戮。私の記憶を食った化物を、なんとかして殺した、それが私のはじまり。それよりも前は、存在しない。

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