第3話

『まだ、現れないか?』


「半年は張ってるんだけどね。来ないな」


 煙草擬たばこもどきをくゆらせながら、定期連絡。


『彼女の心を奪いに来る。組織の分析としては、そうなんだが』


「私の勘も同じだけど」


 ただ、来ない。なぜか来ない。あの化物。


『このまま現れなければいいのにな。彼女の警護だけで済む。おまえが死に急ぐこともない』


「組織に飼い殺しか?」


『居心地は悪くないだろ』


「だから問題なんだよ」


 組織を好きになったら。皆を好きになったら。そう思うと、こわくて、震えが止まらない。だからはやく独りになりたかった。


「彼女が収録から戻ってきた」


 定期連絡はこれで終わり。煙草擬きを素手で握りつぶす。


『しぬなよ』


「しぬためにやってんだよ」


 通信を切る。

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