第2話

 任務に彼女の警護が入ったのは、半年前。

 人ではないものから、人を守る組織に所属している。元々は独立不羈どくりつふきでやっていたのが、たまたま出会でくわした感情を食う化物にかなり心を食われて、仕方なく組織の傘下になった。


 一時的なものだ。

 あの化物を殺したら、私の心を取り戻したら、また独りに戻る。


 独りが心地好かった。誰かと一緒にいると、好きになってしまうから。そして、好きになった相手は心を食われる。その繰り返しのなかで、独りの良さを知った。


 今は、この女の警護。


 この女のことは、好きではなかった。周りの求めるままに歌って踊って。自我と呼べるものも、人としての生活も、存在しない。虚無の機械。何も食えないからって飲めないエナジードリンクをがぶ飲みして、その結果が、これ。


 眠っている。


 彼女の眠り顔は、好きだった。この顔にだけ、彼女の感情が映っている。眠っている間だけ感情を発露できるというのも、おかしな話だけど。彼女の寝ている姿は、それだけ、安らぎに満ち足りていて。眺めているだけで。幸せな気分になる。


 彼女。起きた。


 車から飛び出ていく。


 彼女が次に眠るのは、いつになるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る