彼女の行方

春嵐

第1話

 よくここまでやるな、と思う。

 歌って。踊って。モデルとか俳優とかもやって。その全ての隙間に取材受けたりして。

 およそ人間らしい生活ではなかった。2週間ほど寝てないとか、そういうことさえ普通に起こる。


 でも、笑っている。ありがとう。楽しい。あなたたちのおかげ。そう言って笑っている。ちょっとこわい。


 でも、何も知らずに見ている側はそんな裏側なんて知る由もないので、おそろしいほどに集り、もっと寄越せと要求している。


 それでも、まぁ、しなないだけ、自分よりは良いか。


 彼女が袖に捌ける。


「セキュリティ上の問題を検知したので、一時的にこちらで預かります」


 そんな適当なことを言って、彼女を車に押し込む。

 かなり呼吸が浅かった。軽く背中を蹴る。


「ぇぅ」


 声にならない声と一緒に、大量の液体。水とエナジードリンク。余程飲んだらしい。何も食えなくなったから、これで代用しようとしたのか。


声にならない声。えずいているのかも。


 口元をだらだらにしながら、彼女が何かを要求している。こちらを見ている。

 キスを要求しているのか。

 その口許に。

 手を突っ込む。たぶんまだ、胃に何か残ってる。口蓋の上のところ。軽く押して。すぐに手を引き抜く。


「ぇぅ」


 残りが出てきた。


「寝てな」


 口元を拭われるまま、彼女が眠りはじめる。


 難儀だな。そう思うが、べつにこれはこれで、彼女の望んだものでもあるだろうし。女はみんな、ちやほやされるのがさがだろうし。幸せのひとつの形ではあるんだろう。たぶん。


「いや、私も女か」


 忘れていた。

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