竜の契約
「それで、お前が竜であるのと私の目が治るのがどう関係しているのだ」
「ああ、そうそう。竜と契約すると、契約した人間は体が強化される。怪我や病気が治って健康体になったり、身体機能そのものが強化されて寿命が延びたりするみたいなんだ」
「……確かなのか?」
「お前の祖先のニコラスもそうだった可能性が高い。神殿の記録によると、鉱山で働いていたニコラスは肺の病に侵されていたが、エフィの見舞いを境に急に体調が良くなって、最後は九十三歳の大往生だったらしい。
文字通り寝る暇を惜しんで働き続けられたのも、恐らく竜の恩寵のお陰なんじゃないかな」
「なるほど」
ラグナーは起こしていた身体を横たえると「そういう事か」と独り言を言う。
「竜の恩寵を受けた人間とそうではない普通の人間が同じ働き方をしたらどうなるか。……つまり、竜の恩寵、異能は遺伝しないということか」
「……そういう事になるな」
「知っていたのか?」
「……ああ。成人の日におっさんに教えて貰ったよ。『番』に与えられた異能は一代限り。遺伝はしないって。だから不思議だったんだ。お前が何で『異能』を使えたのか」
「……」
「ラグナーの目は異能では無く、お前自身の努力の賜物だったんだな」
「……そうか」
家業に興味が無い者には遺伝しないのも当たり前である。収蔵庫は宝石に興味があれば誰でも入る事を許されていた。宝石や鑑別に興味が無ければ足を運ばないし、自らニコラスの書を手に取らなければ鑑別の知識も身に着かない。
「竜眼は人を選ぶ。自ら学び、研鑽を積む者のみが得る事が出来る知識や観察眼。それを竜眼だと思い込んでいたんだな」
「思い込みだけで出来る事じゃないさ。宝石に対する好奇心や熱意、あれだけの知識を自分の物にするなんて、誰にでも出来る事じゃない。凄い事だよ。代々知識を蓄え、後世に繋いできたんだから」
歴代当主が時間が無い中で記した本。ニコラスに比べれば量は少ないが、自分が得た知識や情報、技術を子や孫に伝えたいという確固たる意志を感じる。それらを収蔵庫という形で残し、伝えてきたのは尊い事だとフレムは言った。
「ニコラスやエフィは知っていたのだろうか」
「神殿から説明はされているはずだとおっさんは言ってたな」
「……何故そんな嘘を」
「竜が人である」など、ラグナーにとってはどうでもよい事だった。祖先が「竜眼」を賜ったのには変わりないからである。問題は、その「竜眼」を賜った祖先が子孫に対して嘘を吐いていたことだ。
「竜眼は遺伝しない。それを知っていれば、このような事にはならなかったはずだ。父も祖父ももっと長生き出来ただろうし、母だって寂しい思いをせずに済んだ。
何故だ? 何故竜眼は遺伝するなどという嘘を吐いた。一族が特別な物だと見栄を張りたかったのか? それとも、一度築いた富を手放すのが惜しくなったのか? そんなくだらない物のために、子孫に不幸を強いたのか?」
「今となっては分からないが、俺は、嘘を吐くのは間違っていたと思う。ニコラスは息子を早くに亡くしているんだ。自分と同じ働き方をしたらどうなるかその目で見ていたはずなのに、『竜眼は遺伝する』という嘘を撤回しなかった」
「……」
「その結果、ニコラスの死後、誰も真実を知っている人がいなくなって間違った情報と間違ったやり方だけが継承されてしまった」
「……どんなものであれ、我々はそれを誇りに思っていた。我が一族だけが受けた誉であり、誇らしい事であると……」
「竜眼は不幸をもたらすって言ってたな。お前は今、その不幸を断ち切る事が出来る」
「……どういう意味だ?」
意気消沈するラグナーにフレムはある提案をした。神官との話で得たヒントを元に、今フレムがラグナーにしてやれる事と、ラグナーに受け入れて欲しい条件の事。
ラグナーは黙ってそれを聞いていたが、しばらく考えた後、「分かった」と短く答えた。
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