第2話 同居人と新たな新居


 新しい冒険者パーティーがやってきて1週間、俺の方はいうと結構面倒な状況を作り出されていた。


「借金を返済し終わった君に新しいローンを授けようショウくん!」

「ふざけんなお前はどこの世界のタヌキ商店だよ! せっかく依頼報酬と毎日の小銭稼ぎで貯金作って返済したのに追加のローンなんか居るかボケ!」


 胸元の強調されるドレスに趣味の悪い毛皮のマフラーを身に着けた見た目20代の紫髪が目立つ女狐、この女こそクラナドの冒険者ギルドの元締め。

 もとい、ギルドマスターのシェン・ドラグナー。(38歳)


「そんなこと言って格安の2階建てマイホームをこっちで用意してあげたのに」

「俺をこの街に留まらせたい理由はしらんが、そんなことしなくたってふらっと街を出てくようなことはしないっての」

「ふふーん今回はそういうことじゃなくてね、聞いたよ自分のお店を持ちたいんだって?」

「誰に聞いたんだよ」

「ギルド内で君が話すような相手なんて私ともう1人くらいしかいないでしょ」

「だろうな、そんで今回はいくら吹っ掛けられるんだ?」


「吹っ掛けるなんて人聞きが悪い、元々ギルドが副業でお店をやってた所なんだけど街の方がこの廃れようでしょ? 営業が立ち行かなくなって畳んで、そのまま10年くらい定期的な補修以外手を付けてないから手入れが全くされてないのよ」

「俺に店を手入れするほど余裕があると思うか? その日の飯を食うので精一杯なのに」

「元々飲食店でね、キッチンとかも付いてるから住むには申し分ないと思うわ」

「聞けよ人の話!」

「むしろ引き取って欲しいくらいなのよ。そういう事情を込々で20万でどうかしら」

「引き取って欲しいなら手入れをした状態でタダで提供しろよ!」


「そう言っても手入れするほどうちにも余裕のある人材は居ないから、こっちで手入れするのは無理よ、清掃業者に頼んでもいいけどその場合は5万くらい上乗せになるかしら」

「明らかな中抜きをしようとしてるじゃねぇかだいたい定価2.3万程度だろうが」

「まぁまぁ、食材の仕入れ先とかだったらタダで紹介してあげるから」

「まぁ別にいいか。本当は王都に旅行でも行こうと思ってたんだけどな、少し早いけど別に店は持ちたかったし、構わねぇか1週間くらいなら食いつなげる貯金はあるしな」

「じゃ交渉成立ね、あとで書類用意しておくから」

「全く何を考えてるんだかわかりゃしねぇ」


「そういえば話は変わるんだけど、今日はいつもくっついて来てる女の子は居ないのね」

「あ? あぁ、1人で薬草採取でもしてるんじゃねーかな。俺はスキルが高いせいで1時間くらいで籠いっぱいになるけどあいつはいつも夕方までかかるから」

「手伝ってあげないなんて薄情な男だねぇ」

「俺が手伝ってもあいつのスキルは上がらねぇし、俺は今日はキング×キングをやりたい気分だったんでな」

「ほぅ、つまり私が呼ぶ前にここに来たのは私と一局交えたかったってことかい?」

「そういうこった、晩飯でも賭けて、どうだ?」

「書類を作りたかったがそういうことなら致し方無い、その賭けに乗ってあげようといっても私の勝利は決まっているけど」

「今日こそは勝ってやるから安心しろ、それにあんたとやってもキング×キングのスキルレベルが上がらないから、俺にメリットはあんまりないんだが」

「そういうな、キング×キングのスキルはあくまで趣味値で上手くなってるから上がるというものでもないからな」


 そういいながら現代でいうチェス盤のような板と駒の入ったケースをテーブルの上にシェンが広げる。

 キング×キングというのは現代でのチェスや将棋に似たようなゲームで、縦12マス横10マスの盤の上に、自陣の縦2マスに初期配置の駒20個を設置し。

 キングの駒1とベリアルの駒19を自分の好きな位置に配置出来る、もちろん定形のようなものはあるが基本的にキングの場所は使う人によって全く変わってくる。

 相手のキングを取れば勝ちという簡単なゲームなのだが、キング×キングの特殊なルールのせいで勝利は終盤までわからなくなることが多い。


 基本的に前に1マスずつしか進めないベリアルの駒は将棋の歩のようなのだが、味方キングの周囲8マスに居るときのみ縦横斜め全てに1マス動けるようになる金のように性質が変化する。

 その為キングを前に出さなければベリアルは自由に動けないが、キングを前に出しすぎると今度はキングが取られやすくなってしまう。

 初心者でも入りやすく、その上での異常なまでの戦略性を求められるゲームで。

 その上敵を撃破するたびにクリスタルというアイテムを手に入れ、最大3つまでしかストック出来ないが、それを使用することで特定のベリアルを香車のように動かすか、現代で言うサイコロのような道具で振る前に数字を指定し、その目が出た時敵のベリアルを仲間にするということもできる。

 ちなみにキングは駒を飛び越えることは出来ないが縦横斜めに2マス移動できる。


 まぁここまで説明してしまうと本当に複雑に思えるかもしれないが、基本的にチェスや将棋と変わらないため俺にはすっとルールが入り、物の見事にハマってしまった。


「クリスタルを何個かハンデであげようか?」

「いらねぇよ、序盤にハンデで貰ったらゲーム性が崩壊するんだよこのゲーム」


 ゲーム性が崩壊するというのは比喩表現ではなく、クリスタルを使って香車の動きで1枚落とし、それを永遠と繰り返すことで先手有利のクソゲーに早変わりとなってしまう。

 俺が自陣の後列左から三番目にキングを置き、シェンの方は右から4番目の前列に配置された状態でそのゲームは始まった。


「そういえば彼女、死んでる状態から目覚めたそうだね」

「俺の気のせいだったんだろうな、というかそうじゃなきゃ納得できん、死人に瀕死にされたとかマジで洒落になってねーんだよ、なんてタイトルのバイオ〇ザードなんだよ笑えねぇ」

「その割に仲良くしてるみたいじゃないか」

「勝手について来てるだけだ、それにあいつ自身本当は冒険者なんてやりたくなかったらしいからな。パーティーの奴らには申し訳ないが、一度死にかけた奴をもう1度危険にさらす必要なんてないだろ」


「ふむ、まずは1駒だね。君が誰かに特に女性相手に優しくするなんて初めて見たって街の人たちも驚いていた程だよ」

「やっぱ前列にキング置くメリットって瞬発性だよなぁ、自衛難しくてやってらんなくなるけど。というか基本的に俺は余裕があるときは誰にでも優しいんだよ、今はだけどな」

「それはそうかもしれないが、彼女に対しては特別な感情を持ってるんじゃないかと思うほどだよ。一目惚れでもしたかい?」

「一目惚れって初めましてがそもそも死にぞこないの状態だったんだがな、まぁ自分の経験と少し照らし合わせてしまっちまったのかもな。何も出来ない無力さや、誰かが何かに殺されるのも見るのは初めてじゃなかったし」

「今回は早かったね、これでチェックメイトだ」

「あぁん!? ふざけんなまだ何とかなる! あ、ならないなこれ」

「せっかく家も手に入ったんだし今から掃除して手料理でも食べさせてもらおうかな」

「そんなすぐに掃除が出来るわけねーだろうが」

「なら帰って来た彼女に手伝わせたらいいんじゃないかな」


「それもいいな」


 ※【Tips:女嫌いの効果:女性に対してのスキル使用時の効果激減、及び女性に対しての行動でのスキルレベルの上昇制限】


「帰って来たばっかりなのにどうして家の掃除なんか手伝わないといけないの!」

「俺の仕事を奪ったことに対する迷惑料とついでだから飯でもごちそうしてやろうと思ってな」

「迷惑料って、薬草採取なら楽だからやってみればって言ったのはショウの方でしょ」

「うるせ、この街に滞在する予定があるんだったら尚都合がいいと思ってな、間取りを聞いたら俺1人じゃ広すぎて寂しいかもしれないし」

「それって」


 掃除用具をギルドから借りついさっき我が家となった家へと向かう俺とミスト薬草採取に行ってたというのもあり、戦闘用の服ではなくひらひらとしたワンピースのような服を着ているのを見るのは今日は2回目。朝一緒に薬草採取に向かっているから当然と言えば当然なのだが、ここ一週間ほぼ毎日顔を合わせているが何度見ても腰まで伸びている桃色の髪と簡単に折れそうな程華奢な身体、そして可憐な顔には見とれてしまう。


 まぁ中身おっさんだし、異世界って美人が多いのは当然だし驚きもしないことが多くなったけども。


「それって私を家に連れ込んであんなことやこんなことをしようっていう下心の現れ!?」

「んなわけあるか! 馬鹿言ってねーでさっさと行くぞ」


 そういえば試そうとも思わないが、俺がもし今後女の子と付き合った場合キスとかするだけで毎回瀕死になるんだろうか。

 種の繫栄とか不可能じゃん後世になにも残せないどころか後世を作れないじゃん。


「ここだな」

「わぁ、本当に大きい家」

「確かにこれを20万マインで売ってくれるってのは条件的には破格なのか? 俺が宿に1000日泊まったらこれが買える値段になっちまうんだもんな。物件の物価ってわからんけど」

「この家が20万マイン!? 安すぎるくらいだよ」

「大丈夫だ、土地代とかは含まれてなかったから多分追加で土地代とか請求されるから、中に入ろうぜどんだけ酷い状況なのか確認しないとな」


 レンガ作りの2階建てそれも結構な大きさで間取りを見た感じ1階部分は大きめのキッチンにカウンター席6に36席分のテーブルと椅子を悠々と置けるほどの広さのホール、倉庫になりそうな六畳くらいの小さな部屋とトイレ、それに風呂までついて2階部分にはもともと従業員用として作られたらしい部屋が5部屋とおまけに屋根裏部屋までついているという周到さ。


「手入れだけで本当に1週間はかかりそうだな、今日はキッチンと自分の寝る部屋だけ掃除することにしよう、それ以上は俺がちまちまやっていくから」

「りょうかい! がんばろー!」

「しっかし、火とか照明、水回りに関してはどうすればいいんだろうな。火の問題が解決すれば照明はランプとかで何とかなるかもしれんが、水道なんてもんがあるわけも無いし、近くの井戸場から持ってくるしかないか? いやでもそれ水保管するスペースだけで倉庫が埋まりそうだし、いやまぁいいや今日の所は井戸水でなんとかしよう、問題は火の方だな、1日1回つけ直してそれを寝るまで絶やさなければいいんだろうけど、そうなったら尋常じゃないくらい薪が必要になるか」


 幸いこの世界にもオイルはあるしロウソクもある問題は種火だけど、この辺の知識に関しては取説でも見て考えていくしかないか?。


「何してるの! 早く早く!」

「わかってるよ」


 幸い店の部分は窓が多く日の光だけで日中は何とかなりそうだが、問題は夜になって真っ暗で何も見えず、ミストに触られて瀕死、倒れた所をテーブルとか椅子の角にぶつけてみたいな即死エンドなんだけど。


「なぁ、いままであんまり気にしたことなかったんだが、ランプの日とか料理用の火って普通はどうしてるもんなんだ?」

「どうって、普通は皆着火剤の1つくらい持ってるものだと思うよ?」

「着火剤? ライター的な? そんなの今まで見かけたことも無いんだけど」

「ライター? 私も持ってるから使うなら使っていいよ? 夜は多分真ん中の大きいランプでどうにかなると思うし」

「あんなんで店中明るくなるもんなのか?」

「壁の上の方とか天井とか見てみなよ、流石元ギルドの所有物って感じだけど、エントの樹液が塗られてるから、光を反射して明るくしてくれると思う、軽くほこりとかを落とす必要はあると思うけど。

 ほら窓の内側にも樹液が塗られてるから入ってる日の光以上にお店の中も明るいでしょ?」

「なるほどそういうメカニズムか、こりゃ現代よりもエコでいいな」


「それにしても本当に10年近く手付かずだったの? 大分きれいなんだけど」

「本当だな、床を軽く掃くだけで終わりそうなレベルだ」

「誰かが最近まで使ってたのかな、それともわざわざ引き渡し前に清掃してくれたとか」

「空き家なのを良い事に浮浪人が住み着いてるとかじゃないならなんでもいいさ、それに手入れされてる分にはこっちには何のデメリットも無いしな上を見て問題なさそうなら、夕飯の買い出しにでも行くとしよう」

「そうだね」


 そんな調子で2階にも上がってみたがこっちの方はもっときれいになっていて、生活感こそないものの床まで綺麗な状態だった。


「くせえな」

「ん? 匂いなんか気にならないけど」

「そういう意味じゃねぇよ、ここまで掃除の手がいきわたってるってことは本当に誰かが住んでたか、そうでなくても業者が入ったようなレベルで手入れがされてる。あの女狐め、なんか追加の条件とか提示してこねぇだろうな」

「まぁとりあえず買い物に行こうよ、綺麗ならきれいでこっちとしても都合がいいのは変わらないし」

「だな、ギルドに清掃用具返しに行って適当に買い物してこよう、その内くるだろうしな」


 ※【Tips:瀕死の効果:対象のHPをほぼ無条件で10以下にするレア技能、取得者は世界でも数える程しかおらず、過去の所持者には勇者の仲間が居たとか居なかったとか】


「小麦粉に調味料各種と牛肉と野菜、あと卵。こんなに買ったのはいいけどショウ料理とか出来るの?」

「なめんな、俺が何年1人暮らしで生活してきたと思ってんだ。一時期暇すぎて料理本とか動画とか見まくって作ってた時期があるレベルだぞ」

「定期的にショウからよくわからない単語が出てくるのはどうしてなの」

「ジェネレーションギャップってやつだろ」

「なにそれ」


 流石異世界、現代の意味の分からない言葉が通用しない。

 なんだよジェネレーションギャップって、別に趣味とか見てる物なんて年とか以前に興味の問題だろ。


「ちょっと凝ったもん作ろうと思ってな、パイシチューとパンそれとサラダ、それで十分だろここに来てからの食生活を考えたら贅沢すぎるくらいだぜ」

「質素な気がするけど」

「お嬢様に合わせるならもう1.2品あってもいいんだが、残念ながらこっちに来て料理ってもんをしたことが無いせいで料理スキルがゼロなんでな。失敗したときに責任が取れん」


 それに女嫌いの効果がどういう風にでるかもわからんし。


「幸いこの世界にあって実際に食べたことはあるし、味の再現性だけは保証はされてるさ」

「なんか手伝おうか?」

「料理なんて出来るのか?」

「それなりには出来るよパーティーに居た時は皆で交代で夕飯とか作ってたし」

「そうか、冒険者なんてやってるとそういうことも日常的にあるのか。そもそも俺は女嫌い以前に友達と呼べる奴が居ないからなぁ」

「私はショウの友達のつもりだよ?」

「そうかい」


 ※


 それから程なくしてギルマスの女狐がやってきた、手に大量の酒を持って。


「お待たせー」

「待ってねぇし最悪来なくて良かったわ」

「そんなこと言っていいのかなぁ?」

「そういや聞きたかったんだが、かなり手が入ってるみたいだが誰かに貸してたのか?」

「いや? でもちょっとだけ空いてるスペースを使おうかと思ってね。とある冒険者パーティーが長期滞在する予定に変更したらしくて。長期的に泊まれる宿泊施設の紹介をさせられてね、ここを掃除することを条件に格安の宿として提供することにしたのさ」

「そういう話は先にしてくれると助かるんだがな」

「彼女達とはまだ会って居ないのかい?」

「俺らが来た時には家の中は綺麗に掃除されてて、その後誰かが帰ってくるような様子はなかったぜ? 買い物行って帰ってきてかれこれ3時間くらいは経ってるんだけどな。ん? 彼女達??」

「君も知ってる女の子たちだよ、そっちの彼女もね」

「え?」

「ってことはあのクソ雑魚ナメクジ共か」


「お邪魔しまーす」

「噂をすればなんとやらか」


 そこに現れたのは予想通り以上に予想通りの連中だった。


「お前らコテンパンに受付嬢に怒られてまだ懲りてなかったのか、さっさと王都に帰れよ無能共」【精神的苦痛:発動】

「帰りたくても帰れないんですよ、商隊のキャラバンにお世話になるつもりが王都の方で出た流行り病のせいで、今王都は立ち入りが規制されてるそうで」

「こりゃ毒消し草は高騰しそうだな、しばらく生活には困らなそうだ」

「そもそも王都の方で異常状態治癒系のヒーラーを募集してるよ」

「俺はその辺はさっぱりだな、治癒のレベルが10まで上がれば自動で習得されるらしいんだが、そもそも俺のスキルはそこまで行ってねぇ」

「ちなみにヒーラーでも覚えれる人とそうじゃない人は居るらしいから、異常状態治癒も結構レアな魔法なんですよね」

「私も治癒はレベル38まで上がってるけどまだ習得出来てないからなぁ」

「女相手に、それもカモみたいな弱さの連中相手でレベル上げれるって羨ましい」

【精神的苦痛:発動】


「私達だって好きでこんなに弱いわけじゃ…」

「まぁいいわくだらない話は、これ以上この空間に居る方が俺にとって苦痛だから」

「ちょうどシチューもできたし、パンももうすぐ焼きあがるから皆でご飯にしよう?」

「はぁ、多少は色々と多めにするしかないな。ごねてどうにかなる話でも相手でもないし」

「1人が6人になっても特に問題はないでしょ?」

「大問題だわ」


 全員で食事を済ませ(俺は少し離れた席で)団欒というか楽しい感じの食事を楽しみ、女子連中が寝室へ向かい、1階にはギルマスと俺だけになった。


「さっきの話なんだが」

「王都での流行り病の方か? それともバウンドウルフ如きに負けるくそ雑魚共の話か?」

「ふぅ、流行り病の方だよ」

「なんか俺に関係でも?」

「どうも意図的に他所から持ち込まれた病気のようでね、王都内で流行る1週間ほど前に同じような症状の老人が国外からやってきていたらしい。

 身元は不明で死んでまもなく火葬されたそうで詳しい調査はしなかったらしいんだが、どうも隣国からの刺客かもしれないという噂が王都の方で出ているそうだ」

「バイオハザード狙いの攻撃ってことか? そりゃ無茶苦茶だろ、流行らせたって誰を殺すんだよって話だ、戦争してるわけでもないのに」

「そうか、ショウくんは知らないんだったね。今うちの国は1年前から停戦状態ではあるが隣国のレッドアイと戦争中なんだよ」

「初めて聞いたぞそんな話」

「元々このお店は経営が成り立つくらいにはにぎわっていたんだがね、隣国との境界線に近いここから逃げるように人が減り今の状態ってわけさ」


「どうでもいいんだが、本命の話をしてくれないか?」

「この国には医療所が無いのは知っているね?」

「ギルマスのあんたがヒーラーだからギルドが併設で医療所もやってるって話じゃなかったか?」

「そういうことだ。ただ私は王都に招集されてしまってね、君が良ければなんだが私の仕事を不在の間だけ引き受けてくれないだろうか」

「正直断りたいわな、医療所なんて絶対女が来るし、俺じゃなくてミストの方に頼めばいいじゃねぇか」

「よそ者を歓迎しないのは君が知っての通りだよ、彼女は上手くやってくれるかもしれないが、そうもいかないだろう?」

「俺もかなりの間ブタ箱にぶち込まれてたしなぁ、しばらく食い扶持に困らないって考えりゃいい話かもしれないが。条件がある、女が来たときはミストに治させろ、俺の今の治癒レベルじゃあ女の傷は控えめに言って治せねぇ」


「そういうことなら仕方がないような気もするが。彼女は…」

「不服ならこの話は無し、それにもし戦争が再開されるなら俺のスキルは必要になるときがくるかもしれねぇ、その時はどの道この街に居るヒーラーを頼ることになるだろうからな」

「わかった確かに君のスキルは戦争では必要になるかもしれないし、そうなったときの為の君からの推薦だと思っておこう」

「ならOKだ、よろしく頼むぜ大将」

「あぁ、こちらこそだ」


 そういいながらシェンは俺の肩に手を置いた。


「おい、なんで俺の肩に手を」

「あ、すまないついギルドの子達との癖で」

【瀕死:発動】

「ふざけんな…ばか…やろ…う」


 HPが1桁まで減り立つ力すら出てこなくなった俺はそのままテーブルに突っ伏し意識を失った。


「頼んだよ、彼女の事もこの街の事もね」

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