ありふれた世界で趣味生活
箱丸祐介
第1話 一番の苦行は生きること!?
晴天の青空、自然豊かな森といつもの賑わいを見せる小さな世界。
俺の住むグリーンデイ王国の小さな街、クラナド。
背中に薬草一杯の籠を背負い街にある、冒険者ギルドへと向かっていた。
「相変わらずのなーろっぱだなぁ、まぁ急に方針変えられるよりこのままの方が見慣れてていいが」
いつものようにネットサーフィンをしながら面白そうなネタを探していたある日の事、急にPCのモニターが光って気が付いたら森のクラナド付近の森に一冊の本と共に放置されていた。
こういうのって最初は神様の目の前に召喚されて、チート能力をくれたりとかぶっ壊れアイテム大量にくれて無双できるとかそういうのがベターじゃねぇの? と不満に思いながらも、新しい生活に普通に順応していった。
幸い世界の取り扱い説明書みたいな本が解読可能な言語で書かれていたから助かったものの。
身分証明書が無いのはどこの世界でも共通でうんこ扱いされるようで、2.3か月前までは何もできずブタ箱同然の場所に放置され。
身分証明書を手に入れてからはとりあえずの働き口として紹介された冒険ギルドをフラフラと散策し、ありきたりな害獣駆除とかモンスター退治的なのを行っていた。
が、1週間もたたずにどのパーティにもクビにされ、今では1人で薬草採取に勤しむ日々を送っている。
もちろん最低限のレートでの交換とかが多いので大した報酬は無くその日暮らしの生活が多い、もちろん定住するところも決まって居なければ毎日路地で寝るとか、酒を飲まされた上で変なところで夜を明かしているみたいなのも日常茶飯事だ。
ちなみに説明書に書いてあったのだが、何もないところに右手を振ると自分のステータスとかスキルとかを確認できるらしい。
なんでこういう所だけどっかで見たことあるようなシステムなんだよ、だったらゲームの世界みたいなところに呼んでくれよ、そっちなら知識とメタ読み力で無双できてたわ。
「さて、いつもの兄ちゃんの所は相変わらず空いてんな」
「余計なお世話ですよ、そもそも看板娘が居るなら普通はそっちに向かうんですよ空いてようと、そうでなかろうと」
「お前にも見せたろ、俺にはユニークスキルってのに女嫌いってのが付いてるんだから。実際に女嫌いだししょうがないけど」
「今日も薬草の換金ですか?」
「そうそういつも通りでな」
「朗報ですよ必要以上にいつも持って来てくれているので錬金術師協会からの報酬が2割減しました」
「悲報だろ、これだけの量取ってきていまだにその日暮らしになってるのは絶対この世界の構造がクソだと思うんだが」
「代わりに毒消し草のレートがいつもの3倍になってますね、なんか王都の方で流行り病が出てるそうで、その治療に必要だそうです」
「魔法で治せるのに量産効率のいい薬に頼る辺り本当に商売上手だよなこの国の王様って」
「ま、いつも通り毒消し草もそれなりに持ってきてるから一緒に換金してくれ」
「いつも思うんですが、なんで毒消し草を持ち歩いてるんですか?」
「決まってんだろ食えるからだよ」
「別に薬草も食べられますが」
「同じ葉っぱでも薬草の方はだめだな、薬の味がまんまする。なんなら二日酔いには効くが、怪我にはこのまま食っても何の効果もねぇ!」
「薬草は食べるためにあるものでは無いです、通常の使用法は水などで濡らしてから傷口に巻き付けるんです、って何回言わせるんですか!」
「そんな戦闘中に使えないもん役に立たねぇだろうが」
「その為の錬金術師協会、そのためのポーションです」
「そのポーションを買う金で俺一週間くらい宿に泊まれちまうよ」
これ貧富の差ってやつなんだろうか、現代でそんなもん感じたことは無かったけど。
「この量だと、薬草が籠いっぱいで150マイン、毒消し草の方がこの小袋だけで150マイン、締めて300マインですね」
「oh、なんて世知辛いんだ、言いたいことも言えないこんな世の中じゃ…」
「報酬の転送と身元確認のため身分証明書かギルドカードをお願いします」
「両方で、いつも通り100だけギルドカードの方に頼むわ」
「はいはい、確かにこの作業だけはあっちの枠でやったら嫌な顔されますね」
「さも自分は嫌な顔一つしてませんみたいに言ってるけどお前も毎度嫌そうな顔してるからな」
「モチヅキ・ショウさん、確認完了しました。報酬の振り込みはもう少し待ってくださいね」
食事のレートがだいたい1食50マインから100マイン、朝夜の飯付きの宿で一泊200マインから500マイン。
ちなみにポーションは1本2000マインほど足元を見てるようにも思えるが、ちゃんと適正価格で害獣駆除やモンスター退治はだいたい国からの依頼のため軽く1万マインを越えることが多く、そもそも害獣程度の傷だったらチームに居るであろうヒーラーの回復だけでなんとかなるという。
平たく言ってしまえば薬草採取のような仕事はだいたい質より量でそれを本職にしている者はだいたい馬車や荷車を使っての運搬をしている。
といってもそんな小銭集めをしている冒険者はほとんどおらず、各地を転々として報酬をもらいながら生活を送るパーティーが多いらしい。
もちろんクラナドに来る冒険者もだいたいは害獣駆除の仕事を片付けては別の街へ向かうという者が多い。
ちなみに、一応薬草採取に関しては需要と供給の関係でレートが上がり下がりしたりそれでも足らない場合は薬草採取の依頼が王都から来るのだが、俺はその需要と供給のバランスをその日暮らしの為にぶち壊している。
「錬金術って自前でできないもんかね」
「そういう相談は王都の錬金術師協会でしてください、免許を取得すれば誰でもできますから」
「でも錬金術師の人口が増えないってことはその免許を取るのがしんどいってことだろ、なんだよ免許の取得で100万マインって、それで年1回の更新で10万マイン取られるとか普通にやってられなくて笑っちまうわ」
「それだけ稼ぎやすく、王都の中核を担う機関だってことですよ、そのために貯金してるんでしょう?」
「いや、自前の店を持ちたくてな」
「このクラナドで? そんなのお客さんが来なくて閑古鳥が鳴くに決まっているじゃないですか」
「一時期詐欺グループ作ろうとして経営の勉強をガチでしたことがあってな、そういうイロハは頭に入ってるんだよ」
「憲兵に捕まらないことを祈りますよ」
この世界に来る前はあと1年で魔法使いになれるような状況だったんだが、この世界ではなぜか若々しい体を手に入れていた。
いっその事赤子レベルまで若くなるか、おねショタ本が作れるくらいの年頃にしてくれれば捨て子か迷子ってことで適度にチヤホヤされた上で住む場所くらいは確保出来たろうに、なんでこの世界の成人は16なんだよ18とか20とかだったら未成年ってことで保護してもらえたのに。
「異世界め、許さん!」
「何か言いました?」
「いやなにも」
「今日はこの後の予定は」
「いい加減3日ぶりだしまともな風呂に入りたいんでな、いつもの宿で世話になって久しぶりに休むとするよ」
「そうですか。あ、そういえば耳寄り情報が」
「おん?」
「明日到着予定らしいんですが王都から強い冒険者パーティが来るそうですよ」
「関係ないね、どうせその手のパーティーはヒーラーも居るしだいたい女が1人や2人居るもんだろ、どっかに居ないかねぇ、ヒーラー不在の男だけのパーティー」
「そもそも女性以外のヒーラーが珍しいですからね、ほとんどの男性ヒーラーは自分にヒーラーの適性があることを知ると引きこもるか農夫になっちゃいますし」
「どこまでも世知辛ぇ世界だわ。じゃ、また明日くるわ」
「別に来なくてもいいですよ~」
※
翌日———
いつものように薬草の採取をし終わりギルドへと向かうとギルドの前に人だかりができていた、野次馬達はギルドの中を見て様子を伺っているらしい。
「ちょーっと失礼しますよー」
野次馬達をかき分けギルド内の掲示板に軽く目を通し受付へ向かう、そんなのが俺の日常。
「お、思った通り毒消し草の採取依頼来てるじゃん、宿屋のおばちゃんに使ってない籠10マインで借りたかいがあったってもんだぜ」
「兄ちゃんいつも通り換金と依頼報酬を頼むぜ」
「よくこの騒ぎの中堂々と入って依頼書取って受付に直行なんて出来ますね」
「なに、いつも通りの冒険者同士が喧嘩してるとかそのレベルじゃねーの?」
クラナドの治安は王国内でもかなり良く冒険者ギルド以外で犯罪とか殴り合いとかが起きることはまずない。
その上で言うが2日に一回くらいは冒険者同士がギルド内で殴り合ってるみたいなのが平気で起きるので、これも日常の1ページってことで慣れてしまった。
「違いますよ、昨日王都から冒険者が来るって話したじゃないですか」
「あーしてたな」
「そのパーティーがここに来る道中モンスターに襲われたらしく、ヒーラーが死亡、コマンダーとナイトが重症で今はもう1人のナイトとマジシャンが敵を引き留めてるらしいんですが」
「ほぅ?」
「足の速いレンジャーがギルドへ応援を要請しに来たんですけど、うちは常駐の冒険者はショウさん以外居ませんし昨日まで居た冒険者パーティーも彼らが来るからって朝一で街を出発しちゃったんですよね」
「それって滅茶苦茶に俺に美味しい状況ってこと?」
「奇しくも」
「強い冒険者パーティーって言ってませんでしたっけ?」
「バウンドウルフ30体に奇襲されたそうです」
「クソ雑魚じゃねぇか! 俺でも倒せるわ」
「話と違ったんですかね」
「誰か! 誰か戦える者は居ませんか! 誰でもいい助けてくれれば報酬はいくらでも出します! だから仲間達を助けてください!」
「その話乗った!」
「本当ですか!!」
「僕は知りませんからね」
捨てられた子犬のような不安そうな瞳が一変する冒険者、完全に知らんぷりな受付。
そんでもって正面から冒険者を見た俺も、割と度肝を抜かれた。
「ごめんやっぱ無理!」
「え」
「遠目からみた姿と声で男かと思ったんだが、女じゃん無理無理。俺死んじゃう」
これが俺の最大の欠点であり最低最悪。現代以上のデバフをユニークスキルで持ってしまっているが故どのパーティーをも1週間でクビになった。
女嫌いは別にネタでは無い、恋愛対象は間違いなく女性だし、過去にごちゃごちゃあったとはいえそんなものは過去の話。
この世界に来て手に入れてしまった最弱のスキル【瀕死(対被女性)】これさえなければ別に生まれ変わってまで女嫌いになる理由は無かった。
「そんな、上げて落とすなんて」
「いや、わかって欲しい、俺はどうしても女とパーティーは組めない性質なんだ、ほら、俺のスキル欄を見てくれ」
モチヅキ・ショウ クラス:ヒーラー Lv15
HP500(割と通常のヒーラーよりは多め)
MP130(平均)
筋力:30 速力:15 魔力65
ユニークスキル
女嫌い・精神的苦痛(対女性)・???・制限解除・プレイヤー・精神感応・精神順応・瀕死(対被女性)・精神崩壊(対被女性)・???・???SP50
スキル
治癒Lv4・指揮官Lv10・薬草採取Lv200(カンスト)・ナイフ術Lv1・剣術Lv1・
槍術Lv9・キング×キングLv25・跳躍Lv30・登攀Lv40・???・???
(尚、制作段階の状態でメモを取り忘れていたのでユニークスキルに関してはこれからもっと増えるかも)
「瀕死スキル、こんなレアなスキルを持ってるなんて」
「よく見ろ普通相手に適応されるのは対の方なんだ俺のは対被なんだ、俺は女に触れられるだけでHP1になり精神崩壊を起こす。もう俺はこれ以上彗星なんてみたくないんだ、だからわかって欲しい、俺は! お前に! 力を貸せない!」
精神的苦痛の方は言動に気を付ければ発生することはほぼゼロということが実験の結果わかっているが、瀕死と精神崩壊に関しては事故だろうとなんだろうと女から指を触れられたり肩がぶつかったりするだけで反応する。
ただ、あくまでも相手から触れられなければ大丈夫という条件付き、といっても条件の穴はかなりシビアで、例えばこちらから手を握った場合、相手が握り返しただけで発動し、精神崩壊の方は気を確かに保っていれば問題は無い。
「クラスヒーラーで指揮官Lv10なんて、そうそう見れないですよね」
「ちなみにユニーク過ぎて気が付きもしないと思うが、女嫌いの効果は女とパーティーを組んでる場合。指揮官のバフが相殺されると思ってくれて構わない」
「そ、そんなに重々しいんですね」
「だからどうしてもというのなら条件は2つ、報酬はたっぷり払ってもらうってのと、あんた達から俺に決して触れないこと、そしてこれが終わったら他人って事だ。
あ、ごめん3つだったわ」
「それでもかまいません、だから仲間を助けてください」
「わかった」
正直冗談抜きで戦闘中に触れられようものなら完全に死ぬパーティーメンバーと害獣で半自前の即死コンボが成立するレベルに。
いや、というか多分瀕死になって倒れた先に岩とかがあってそれにぶつかっただけでKOなんじゃなかろうか。
「兄ちゃん預けてる俺の装備と仮面取ってくれるか?」
「壊れたら質入れ出来なくなるんで、死んでもいいから壊さないでくださいね」
「冷たいねぇ、大丈夫だよ俺は死なねぇ!」
「はい、あちなみにギルマスに確認したらあと一か月で10万マイン揃えられなかったら質入れするそうです」
「おう、じゃあ1人で行ける仕事紹介しろハゲ! って言っといてくれ」
「良いのかなぁギルマスにそんなこと言って」
「あの人ポーション持ってるのを良い事に人の事平気で触ってくるからシンプルに嫌いだよ」
※
街を出て10分、俺の足が遅いのもあり目的地にはまだ着いて居なかった。
「おい! まだかかるのか! 割と近場って言ってなかったっけ?」
「すみません、私の足で30分程度なので」
「ぜんっぜん近くねぇよ!」
「すみません!」
「クソ、出発前に聞けばよかった。こっから見える範囲でいいんだが、どの辺だ?」
「あの正面の森を少し中に行ったところです」
「仕方ねぇお前先に行って目印上げてこい!」
「でもここからだと私の足でも20分はかかりますよ!」
「俺はずるできるからお前より早く走れる! でもお前より先に行っても場所がわからん。だから、放り投げてやるから目印だけ出せ!」
「わ、わかりました。って放り投げる?」
「言葉遊びだよ」
停止した冒険者の胸ぐらを掴み背負い投げの要領で正面の森へと放り投げる。
「投擲制限解除。いってこーい!」
割とライナー性の弾道で森の中へと放り投げ入れられた冒険者を横目に近くにあった木の枝を集める。
ユニークスキル制限解除の効果は特定の行動、現象に対して制限解除を使うことで威力を高めたり無効化したりと要は言葉遊びの要領で限界を突破して能力を発揮することが出来るというもの。
これだけ聞けばかなりのチート能力なのだが、使用した瞬間に強烈な吐き気と眠気に襲われ、その上で自身の身体や現象にかなりの反動が来る。
そしてどんなに調子が良くても1日2回程度しか使用できない、これは俺が未熟なのかそれとも単純にそういう仕様なのか。
「安全性度外視の事やったけど生きてっかな」
他人の心配をしている間に右腕の方からぽきっと何かが折れる音がした。
「右腕1本で済んだなら安いな瞬発的に使うなら特に問題もありゃしねぇな」
事前に集めていた枝と嚙み千切った服の布で簡易的に骨を固定し森の方を見続ける。
ついでにステータスを確認するが、骨が折れたというのにHPは1も減っていない。
「労災って降りんのかな。そもそも存在しないか?」
冗談を言ってる間に正面から発煙筒のようなものが打ち上げられた、距離は思ってた以上に近い、負傷した仲間を引きずりながら森を出ようとしたのかそれとも。
「よし、行くか」
クラウチングスタートのような体制を取り勢いよく走りだす。
あとは3歩目で飛ぶことをイメージし。
「ホップ、ステップ、ジャーンプ!」
3歩目で両足を着いて勢い良くジャンプする、俺が必要に跳躍のスキルを上げているのはこういうことを現代でしたかったからというのもあるが、単純に角度次第で弾道ミサイルの要領で障害物を無視して目的地に到達するというちゃんとした目的がある。
普通の冒険者はLv5以上上げることは無いと言われているクソスキルだが、使い方次第で単身での高速移動に使える、ということだ。
もちろん安全性は度外視。
「俺もケツワープみたいなことできればいいんだけどなぁ」
理論上は制限解除を使えばできないことも無いのだが、どんな反動が来るかがわからないことをそうそう出来ないのは当たり前で。
「上手く減速してくれよ!」
半ば祈りになりながら木々をクッションにしつつ森の中を突っ切って、というか切り開いて進んでいく。
「見えた!」
バウンドウルフと戦う冒険者たちを目視で確認し枝を掴んで完全に勢いを殺し、別の枝を蹴って跳躍する。
「いい加減目覚めろ俺のスキル!」
ユニークスキル以外のスキルは???マークで表示されるようになった瞬間からもう1度そのスキルを発生させる特定の行動を行うことで。
【スキル開眼:強襲Lv1】【スキル開眼:奇襲Lv1】
「キタコレ!」
背負っていた槍を空中で手に持ちそのまま地面へ向けて一直線に降下する。
そして俺の足と槍が地面に刺さった時、地面が軽く抉れ、衝撃波が発生した。
落雷のような激しい音と共に周囲に群がっていたバウンドウルフ達が吹き飛ばされる。
「待たせたな!」
衝撃波にビビったのかそれとも伝わるはずもないネタが滑っているのか、よくわからないが、冒険者たちはキョトンとしていた。
「1.2.3.4あー数えるのも面倒なくらい居やがるな。ガキと女の子守は趣味じゃねぇが金のためだ。任せたぞお前ら!」
「「ええー!?」」
「戦ってくれるんじゃないんですか!?」
「いや、俺の本職はヒーラーだし。今のやつはただ俺が竜騎士ごっこしたいが為に開眼させたスキルだし、この槍3万マインくらいでギルドに買ってもらったレンタル品だし、そもそもが戦闘向きのスキル持ってないし(オタク特有の早口)」
「圧倒的に後衛向きなのはわかってますが、今の私達じゃとても」
「わかってねぇなぁ。俺は史上最高峰のコマンダーヒーラーだぜ? 俺のスキルを持ってすればいくらお前らが雑魚でもこんな犬畜生共に負けるわけねぇんだよ!」
さっきから定期的に精神的苦痛の発生通知が出てるんですけど今のそんなに口悪かった?。
「ナイトのあんたはまだ戦えるな?」
「あぁ、問題は無い」
鎧に兜そして長めの片手剣と盾を装備したナイト、流石に外見だけで性別はわからんが指揮官のLvが10も上がってれば女だろうと男だろうと関係は無い。
「前衛に立て、レンジャーは中衛でナイトの死角を援護、マジシャンは今持ってる全部のMP使って敵を薙ぎ払え!」
【精神感応】【プレイヤー】【指揮官Lv10】【女嫌い】発動。
「俺は回復しながらマジシャンの護衛をする、できれば近づけないのがベストだが」
「ぜ、善処します!」
「いくぞ!」
※
「ひー疲れた疲れた、MP30も使っちゃった」
大分余裕のある状態で勝利したが、予想以上に動けていたナイトとレンジャーの組み合わせを俺の精神感応でサポートできたのが大きく、時間を稼ぎ切った上でマジシャンの魔法で薙ぎ払って戦闘は終了。
既に受けていたナイトとマジシャンの治癒をしていただけで俺の出番は終わってしまった。
「もう無理、動けない」
「周辺にはもう群れは居ないだろうから少し休んでろ、俺はあとの3人を探してくる」
「わ、私も行きます!」
「お前も休んでていいぞ、俺以上に戦闘はしてるだろうし街の往復で疲れてるだろ」
「でも、負傷してる2人も女性なので多分」
「そういうことは先言えよお前」
「ご、ごめんなさい!」
探し始めて数分で他の2人を見つけ止血程度の治療とそれなりの傷の治癒をしたのち、死亡したというヒーラーの元へ向かった。
「こいつか?」
「はい、ミストちゃんです」
「こりゃダメそうだな、脈も止まってるし。何より出血が酷い街に戻ったら傷を治す、弔い方はお前らで決めてやってくれ」
「はい」
「死んでいれば触れるんですね」
「別に生きてようが死んでようが関係は無い、こうなっちまったら俺にできるのは傷を治してやって綺麗な身体で弔ってやることくらいだからな」
なにも言わず目を閉じ手を合わせる、残念ながら現代ですさんでた俺も多少なり人間の心は残っているようでこの世界ではあんまりないらしい合掌なんかをやってしまう。
俺がもう少し早く来ていたらなんてのはただの偽善で、救えない命はいくらでもあるし救われない命もいくらでもある。
人が死ぬのはいつになっても慣れるもんじゃないし、この世界じゃ冒険者なんてやってる以上なにもかもが覚悟の上と思わざるを得ない。
「だから特別、死者に対しても悲しみはしても、前に進むことは辞めないか。全く嫌になるなこの世界は」
自然と目からこぼれ落ちた涙が、眠っている彼女の手に落ちる。
「なぁ、満足か? こんな死に方で」
「え?」
「何でもない。こいつは俺が担ぐから街まで戻ろうあと一時間もすれば日が落ち始めちまうからな」
「はい」
※
【ユニークスキル???発動】
「お疲れ様でした、バウンドウルフの討伐報酬の方も上乗せしておきますので。薬草が150、毒消し草が500と報酬の5000、バウンドウルフの討伐報酬が15000で報酬は全部ショウさんに付けていいそうなので合計で20650マインになります」
「・・・・・」
「ショウさん?」
「あ、あぁ悪いボーっとしてたわ、久しぶりのまともな戦闘だったからかな」
「報酬の分配はどうなさいますか?」
「半分ずつで、それで貯金の方がちょうど10万になったと思うからツケもを引いといてくれ」
「えー、ギルマスにあれはショウさんをここに留まらせるための金だから簡単に返させるなって言われてるんすけど」
「じゃあ、払わなくていいよ。何考えてんだあの女狐」
「さぁ?」
「この時間でもまだ花屋ってやってるかな?」
「大丈夫じゃないっすか? 店じまい始めてるかもしれませんけど、誰かへの贈り物っすか?」
「いや、ちょっと行ってくるわ」
俺は何のためにこの世界に呼ばれたんだろうか、神様の気まぐれとかそんなくだらない事なら勘弁してほしいものだが。
あのまま無駄な時間を浪費するのも別に悪くはなかった、今みたいに複雑な感情を抱くこともなかっただろうし、人の死に直面するなんてこと中々なかったし、なんかあってもうまくかみ砕いて、生活費は適当な金持ちの口座から盗んで。
いや、かみ砕けては無かったか。
「むしろ拗らせ回してたよな」
「あら、ショウくん今日はなにか用かい? もう店じまいにしようと思ってたんだけど」
「5000マインで適当な花見繕ってくんねーっすかね」
「そんなに出されてもうちにはそんな高級品は無いんだけどね」
「そうでしたっけ」
「なにかあったのかい?」
「まぁ、ちょっと。薬草拾って生きてるだけならすげぇ楽なんすけどね、家が無い事以外は」
「そうかい、ほらできたよこんな花束で良かったかい?」
「ありがとうございます、いくらですか?」
「お代はいいよ、どうせ明日には枯れちまう花だったからね」
オレンジのマリーゴールドのような花弁の花、クラナドの名産花になっているこの花はモルデロットという名前の花で、王都でも人気の花らしい。
「なにがあったかはわからないけど元気だしな! あんたが憎まれ口をたたかないなんてこっちの調子がおかしくなっちまうよ」
「はい、明日にはいつも通りになってると思います」
花を持ちギルドの方へと戻る。
「約束だしな、ガラじゃないが俺の女嫌いはわざわざ死人にまで発動しないし」
※
「ごめんねミストちゃん、私をかばったせいで」
「そう気に病むな、元より覚悟の上であったろう」
「ヒーラーが居なくなっちゃったら私たちの旅は一時中断になっちゃうしね」
「ノーツ、お前は少し黙って居ろ」
「はーい」
「待たせたな」
「あ、さっきの、まだ名前聞いて無かったですね」
「モチヅキ・ショウだ」
「私はシルフィって言いますさっきのナイトの方がローザさん、マジシャンの方がノーツちゃんです」
「別にお前らの名前はどうでもいいさ。これが終わったら赤の他人だ」
「そうでしたね」
「ここに来たのはこいつとの約束、というより俺の矜持だからな。燃やすにしろ埋めるにしろ、それまでは綺麗な体でいさせてやりたい」
「ありがとうございます、ミストちゃんも喜ぶと思います」
花を横に置き手に触れる、遠隔で治すよりは直接手で触った方が効果が高くなるのが治癒というのもので、俺の根本的なヒーラーの欠点として挙げられる部分でもある。
「今度は、冒険者なんかじゃなく平和に生きろ。いつかきっと冒険者なんて要らなくなるくらい平和な世界になるだろうからよ」
バウンドウルフに食いちぎられたのであろう腹部の傷と全身の傷がみるみるうちに塞がっていく様は、これが魔法なんだということを実感させてくれる。
魔法が必要になるような世界の残酷さと、世界の優しさを実感する、心地よくも嫌な時間だった。
「これで大丈夫だろう、俺のMPもすっからかんになっちまったしな」
立ち上がろうとしミストの身体から手を離した時だった、彼女の動くはずの無い腕が俺の腕を掴んだ。
「ありが…とう…」
「え、、、」
一瞬気を取られた瞬間、スキルの発動音が鳴った。
【瀕死(対被女性)】
「い、生きてる!? いや生き返った!? いやそんなことより――――」
「ミ、ミストちゃん!? あ、ショウさん!? 倒れないでください!! 誰かー!男の人呼んでください!!」
今思えばこの時から始まったんだろう、すごく残酷で気持ち悪いくらい生きづらいこの世界での俺の物語は。
スキル開眼【強襲】【奇襲】
スキル発現数1
スキル成長【治癒Lv4→6】【跳躍Lv40→41】
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