第五章 逆
何時だっただろうか?
マイちゃんと知り合って数年。
私は彼女に指定された喫茶店で話をしていた。
二人での会話は楽しかった。
コーヒー片手に色々な話をした。
会社の話、家事育児の話、美味しいご飯の話、BLの話(この話は内々で処理したいので秘密)……
不意に私はこんなことを言った。
「マイちゃん、私が死んだら葬式での弔辞は君が読んでくれ」
彼女は突然のことに目を点にした。
「なんで、そんなことを言うの?」
「後のことを考えてみなよ。先に向こうに逝くのは……天国か地獄かは分からんけど、妥当に考えれば私だよ。その時に、君が私をどう見ていたかを知りたいのよ」
「ふうん……」
話題は来週一緒に見る映画の話になった。
まさか、その『逆』。
彼女が先に逝くなんて……
かの時代劇小説の大家であり、私が毎年お墓参りをする柴田錬三郎は生前、かなりの毒舌家として有名だった。
それは政治家や世相、同業者である作家まで毒を吐くに吐きまくった。
その彼の本音がほんの少し露出することがあった。
――自分はきっと、老い先短い。
――だから、若者たちは毒を吐き返して欲しい。
――人間、無気力な社会にいたダメなんだ
もうすぐ、「108年目バースデーお墓参り」があるので(「普通『生誕』とか言わんかい? しかも、仏教でいう煩悩の数である108回目って……」)私を時代劇が好きになり、市川雷蔵の『眠狂四郎』の情報を得れば会社に有休をとってコロナ前の昔の映画館(市内。遠征は無理)で三本連続で観た(一時間半で終わるので結構楽しめた。ただ、食事提供がなく、近くの食べ物屋さんがケーキ屋さん。アップルパイとショートケーキとシュークリームを頂きました。大変美味しゅうございました。血糖値も爆上がりだと思います)レベルで面白い。
でも、一番すごいのは『側にいる』ということだ。
彼は雑誌で若者の人生相談を受けていた。
悟りきったようなこととか上から目線ではない。
罵詈雑言当り前。
怒り、怒鳴る!
スケベな(まあ、ほら、連載雑誌が男性向けなので)な質問にも経験談を交えて語った。
きっと、今の私を見たら悲しみ(なのかな?)の沼で無気力になっている私のところへ着るものが汚れるのも構わず進んで「お前の友だちは死んだんだ!」と事実を突きつけるだろう。
「お前は、これからどう生きたい!?」
今、この難問ほど辛く苦い問題はない。
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