第11話 妖精の尋問

「よし!まずは尋問だな。練習の成果を見せてやるっ!」

「テラ、気合い入れすぎ……空回り」

「二人とも集中しなさいよ。ファイゼル様から任された仕事中なのよ?」


 勝手に植物を傷つけた罰として私達が運ばれたのは、暗い洞窟に造られた檻の中だった。

 空気がかなり湿っている。近くに水脈でもあるのだろうか?

 私は何やら言い争っている妖精達を傍目に、壁に寄りかかっているゼクに謝った。


「ごめん。私が迂闊だった。分からないものに警戒心を抱くのは当然なのに、何も考えてなかった」

「謝ることはない。伝えそびれていた俺が悪かった。一度も来たことがないお前が好奇心を抑えられないのは分かっていたことなのに」

「……ねぇ、後半から貶してない?」


 私が眼を細めると、ゼクは苦笑しながら手招きをした。

 耳元で静かに囁かれる。

 

「……いざとなったら、この檻を壊して逃げる。ここは鉄格子ならぬ石格子だ。龍化を阻害する蔦もようやく外れた。お前の蔦も外すから、さっさと逃げるぞ」


 ゼクは私の後ろに回り込むと、手を縛っていた蔦を緩めてくれた。

 鏡の妖精達には気が付かれていないようだ。


「ボル!ミーミ!とにかく今はこいつらの尋問を済ませる!俺とミーミはこっちの女を相手にするから、ボルにはその男を任せたい」

「分かった……」

「いいわ。早く終わらせましょう」


 ミーミと呼ばれた女妖精が手を叩く。すると、石畳を突き破って伸びた蔦が私の体を壁に押さえつけた。

 これじゃあ、手を縛る蔦が緩んでも逃げられない!!


「お前はこっち。言い訳は別室で聞く……」

「は、離せっ!!」


 今度はボルと呼ばれた少年の背後に、巨大な岩の腕が出現。

 豪快に石格子を突き破ってゼクを捕えると、そのまま洞窟の奥へと運んでいった。

 この場を取り仕切っていた妖精——テラは歌い出す。


「暗い洞窟。縛られた罪人。冷たい石の床。そして——喉元に突きつけられる刃」

「ひぃっ!!」


 動けない私の喉元に、突如現れた刃の先端が触れる。

 小石ひとつ分の距離もない緊張に、冷や汗が流れた。


「嘘をついたらこの刃がお前の首を貫く。いいな?」


 私は返事をせず、唾を飲み込むことで了承を示した。

 テラは満足気に頷き、ミーミは懐からメモ帳と筆記物を取り出す。

 心拍数が跳ね上がる。手汗もひどい。私は静かに眼を閉じる。

 大丈夫。ゼクはきっと無事。だから私も大丈夫だから!


「よし、まずは最初の質問だな」

「はい」

「名前と出身国、それと——」

「この尋問に私が参加して良いかの許可をもらおう。最初に言っておくが、首を縦に振るまでこの場を離れる気はないがな」


 ………………え?

 私は恐る恐る眼を開くと、目の前に立っていたのは私たちと同じ人間。

 しかし、テラやミーミと魔力の雰囲気が同じなので、この人も妖精なのだろう。

 顔は控えめに言っても美形。着ている服は間違いなく上物。光を反射したような白髪は肩まで伸びている。


「ほれほれ、速く決断せよ。その胸に付けた”四葉のクローバー”は飾り物か?我が戦友達の目を疑うぞ?」

「ガレニアさん——この、バッジの送り主を知っているの——痛っ!!』


 私が前のめりになると、喉元の刃が少し刺さった。

 暖かい血が流れるのが自分でも分かる。


「ぶ、無礼だ!侵入者がファイゼル様に話しかけるなんて!!」

「そうよ!私達ですら話しかけることは出来ないのに!」

「私が許す。テラ、ミーミ、この者の束縛を解いてくれ。私の大事な客人なのだ。奥にいるボルにも伝えよ」


 絡みついていた蔦が解け、喉元の傷が癒やされていく。すっかり刃も消えた。

 喉元をさすっていると、ファイゼルと呼ばれた男性が手を差し伸べてきた。

 

「娘、少し話をしないか?無論、断られても連れていくがな」




 


 

 

 

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