龍話 ①

「——以上で報告を終了といたします。現在、龍皇魔法師団及び龍騎隊の連合部隊が消息を追っています」

「ありがと。フィーナちゃんの丁寧な説明は、とても分かりやすかったわ」


 デライアンの中央に位置する、この国を代表する教会——通称ハルファース。

 この建物に入ることを許されるのはごく一部の龍崇者のみ。ざっと数えても全国民の一割にも満たないと言ったところでしょう。

 そのような神聖な場所に私が入れているのは、どれもこれもこのお方のおかげなのでしょう。

 肩まで届く神々しい白金髪。

 年齢不詳の若々しいお姿。

 紅と蒼の二頭の龍が刺繍された真っ白なローブを身にまとっていられます。

 この地を治める最高権力者——龍皇様は玉座を立ち上がられると、光が差し込む窓に足を進めました。


「ねぇ、フィーナ。今回のことは気に病まないでちょうだい。だって、今のあなたは十二分に仕事をしているのよ?」

「そ、そんなことはございません!!私がもっと強ければ、叛徒達に遅れを取ることも無かったはず——!!」


 龍皇様の姿がかき消え、突然私の目の前に。

 体が反応する前に、その優しい御手で私の頭を……あぁ……。

 

「りゅ、龍皇様……あ……その……」

「自分を責めては駄目よ。あなたの悪い癖だわ」


 口から言葉が出てこない。感動のあまり私の体温は急上昇していく。

 私はこのお方の前では感情を隠すことができません。

 ただ頭を撫でられているだけなのに、思考することすらままならないなんて。


「ティアナ達は魔法師団に任せましょう。あなたはゆっくり休んでちょうだい」

「はっ……はい」


 激しい動悸。肩が上下するほどに荒い呼吸。

 私はなんとか笑顔を作ると、龍皇様に返事をすることができました。

 

「そうだわ。私、フィーナに見せたいものがあったの」


 御手が私の頭を離れると、私の体は地面に崩れ落ちました。

 力がまったく入りません。紅潮した頬がとても熱いです。

 気を抜いたら失神してしまいそうです。

 龍皇様が空中をなぞられると、薔薇が描かれた小さな白い箱が姿を現しました。

 

「はい、これは私からの贈り物よ」

「わ、私にですか!?受け取れません!!」

「そう……喜んでもらえると思ったのだけれど……残念だわ」


 あぁ……!!何をしているのフィーナ!龍皇様が悲しんでおられる!!

 輝く瞳と視線が交差し、私は口をぱくぱくすることしかできません。

 私なぞが龍皇様から贈り物を受け取ることは許されない……でも、受け取らなければ龍皇様が悲しんでしまう!!

 気がつけば、私は過呼吸になりながらも両手を前に差し出していた。

 

「りゅ……さま……あぁ……」

「あら?やっぱり受け取ってくれるのかしら!とっても嬉しい!準備した甲斐があったわ」


 私の手に小さな白い箱が置かれます。

 龍皇様からの贈り物からは、暖かい魔力の波長を感じます。

 私の中の龍が何かを訴えていますが、今は気にしている暇はありません。

 私にとって、一番大切なのは龍皇様なのですから!


「フィーナ、よく聞いてね。その箱はあなたの願いを叶える箱。あなたが心から望んだことを一度だけ叶えてくれるの。だから、使い所を考えるのよ?」

「は……は……いぃ……」


 龍皇様の笑顔を見届けると、私の意識はついに途絶えました。

 



 

 

 


 


 

 

 

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