第23話 嫌な予感はよく当たる!
「将軍、そして軍師。来てくれてありがとうございます。」
「私と将軍を呼んでどうしたんだ?また何か問題が?」
「いえ、そうではありません………」
これは……違うと信じたいなぁ……
「それで?我と軍師が態々来てやったのだ。手短に頼むぞ。」
「は!それでは…」
将軍……なんか語気強いけど、内心かなりウキウキだな。やっぱり昨今はどっしりした威厳のある上司より、友人のような上司の方が受けが良いのか?
しかし、仮にもヒール。今の方が良いのかもしれないが、それだと将軍が拗ねるしなぁ……
「…………というわけで茨城県に向かいたく。」
なんも聞いてなかったわぁ………………
ここは何か……何を言おう………そうだ!
「もしやと思うが……前に行った所で何か?」
前に行った。つまりあの喫茶店だ!多分、業務提携とかそんなことだろう!
あの店なら都心部でもやっていけるだろうし、貴族のカフェにも取り入れられる!
「な!?………やはり軍師には隠し通すことは出来ないようですね。将軍も騙してしまい申し訳ございません。……そうです、私は…
フフン、褒められて悪い気はしないな!
…魔法少女ヒミカに会おうと思ってました!」
…………ほえ?
「ほう……訳を聞こうか。」
あ、将軍いたんだ。なんか前傾姿勢になって戦士を睨むように見てるけど、横から見るとすっごい涙目なのが分かる。
「お二人に拾って貰う前、つまり前の会社を退社した理由についてお話しさせていただきます。」
魔法少女ヒミカとはそこからか?
私と将軍は黙って傾聴する。
「私は大学を出てすぐにその会社に入社しました。そしてすぐにブラックであると分かりました。ですが、私はその会社を辞めませんでした。何分元々鈍い性格だったせいで、振られた仕事を苦に思わず、失敗してもノラリクラリとすることで対したダメージはありませんでした。
まぁ、そのせいで社内での評価はかなり低かったですね。
そして私が入社十年目の時に彼女、田島灯美花と会いました。私は彼女の新人指導を担当しました。けれど彼女、フフ、よくミスをしていまして、一緒に上司に謝りましたね。でも、その度にメモを取って少しずつ少しずつ、確実に仕事を覚えていきました。
事が起きたのは彼女が入社して半年後に、突然彼女が退社をしてしまったんです。他の社員から話を聞くと、どうやら社内イジメを受けていたと聞きまして、その時に自分がとても不甲斐ないと感じました。
私と話している時の彼女は笑っていた、でもその裏でずっと耐えていた!悲しんでいた!それが言葉に言い表せない程のモヤモヤを私の心に作りました。
それからはお二人に伝えた通り、何も考えずに勢いで退社して、一年間ネットに入り浸っていました。
これで、私の話は終わります。」
最後に戦士が角度90℃の礼をする。
暗に認めてほしいと言っているのだろう。
「………話は分かった…だが…」
「いいよ。」
「将軍!?」
私が断ろうとすると、将軍が優しい言葉で是と告げた。
「本当に宜しいのですか?」
恐る恐る、戦士が顔を上げながら聞き返す。
「あぁ、それがどのような結果になっても…だ。」
「っ!ありがとう、ございます!」
そう言うと、慌てた様子で部屋を出ていった。
「将軍、本当に良かったので?」
「戦士…賢さんにはお世話になったからね。」
「………ですね。」
出来れば、賢さんが望む結果に………
ー戦士ケンー
手が震える、送信のボタンを押そうとして止めるをさっきから繰り返している。
…いや、敬一くんと太郎くんがくれたチャンス、使わないでどうする!
意を決して送信をする。こんなに心臓が動くのはいつぶりだろうか。
送信をして数分で既読がつく。
この時、彼女はいったい何を考えているのか?
救えなかった私を嫌っていたら?
そもそも忘れられていたら?
あり得る、全てのネガティブな考えが私を襲う。
フ、フ、フ、と呼吸が早くなる。
この時間が永遠とも錯覚する。
あぁ、嫌になる。何も出来なかった自分が無駄に足掻いて、救った気になろうとしていることに。
なんて傲慢なんだろう……彼女のことを考えずに、自分のために行動し、あまつさえ救えるのでは?と悦に浸るとは………
ピロン
私の妄想など無駄だとばかりに無機質な通知音が耳に入る。
答えは出た。
「"思い出の喫茶店"……」
私が紹介したあの店だ。まだ覚えていたなんて。
その事実に私の胸は軽くなった。
「…行こう、待たせるわけにはいかない。」
「先輩、お久し振りです。」
遂に来てしまったか。
会えた喜びと後ろめたさで頭がおかしくなりそうだ。
「久し振り、田島さん。さぁ、かけて。」
「失礼します。えっと注文…」
「あぁ、コーヒーを二つ勝手に頼んでしまったが良かったかな?」
「え?……それってぇ?」
田島さんがニコニコしながら訊いてきた。
「もちろん、ブラックだよ。」
「わぁ、覚えててくれたんですね!」
あぁ、私の方こそ嬉しいよ。こんな中年のおっさんをまだ先輩と呼んでくれて。
その後、会社を時代の表の話やお互いの近況を話していると、コーヒーが来た。
口に含み、のどを潤す。
……ここからだ。
「「あの…」」
く、被ったか…
「いいよ、お先に。」
「では、………実は私…魔法少女、なんです。」
「ヒュ」
危ない、まさか向こうから言ってくるとは。
「だから……」
「ごめん、田島さん。その……先に良いって言ったけど言わせてほしい。それと、もし私のことを知りたいと思ってくれるなら何も言わずに聞いてほしい。」
「?」
「私は、あの会社を辞めてから他の企業に入ったと言ったけどそれは嘘なんだ。
私が所属しているのはニューワールド、なんだ。」
「っ!?なら、私のことも……」
田島さんが息をのむ。目を回しているから付近の人質等の目算をしているのかな。
「それは、ついこの前に初めて知ったんだ。」
私のさっきと変わらない声を聞いて、浮かしかけた腰を元の位置に戻した。
「いったい、何が目的ですか?」
「睨まないでよ。そんな風に言われると悲しくなるな。」
私は残りのコーヒーを飲み干し、軽く笑いながら答える。
「…私は今、先輩ではなくニューワールドの人に言っているんです。」
「……そうか、なら悲しくならないね。
話し合いがしたくてね。」
「?……どういう?」
「どういうって言われると困っちゃうな。その、何て言うか……」
難しいな。このモヤモヤとした感情を言い表せないからこそ、こうして会おうと思ったんだけど。
やっぱり私は考え無しの勢い人間みたいだ。
「……分かりました。とりあえず先輩はニューワールドの人間なんですね?」
「ま、まぁ。」
考え込んだ後に天井を見上げ、コーヒーを飲み干すと小さく呟く。
「ニューワールド、そして魔法少女が対面するならそれは戦場でしょう?場所を移して戦いましょう。」
「んえ!?どこからその流れに?」
話し合いのつもりだったのに……
「考えるのは苦手なんです、さあ!」
「……あぁ、そうだね、知ってるよ。行こうか。」
「はい!」
「あれ!?三十円高くなってる!?」
「あ、奢るから良いよ?」
「お、ありがとうございます!」
田島さんに連れられ、人気のない浜辺に来た。
「さあ、先輩!ここなら二人きりです!」
「……先輩?」
「あっ!……ええと、じゃあ……」
「戦士。それがニューワールドでの名前だ。」
「えぇ!?戦士って幹部の!?」
驚愕といった表情を浮かべる。
「結構、有名だった?」
「そりゃそうですよ!まさか先輩が幹部だったなんて!驚きです!」
「確かに、前は平社員だったもんね。」
「そうですね!」
「……ちょっと、否定が欲しかったかな。」
「あ……ごめんなさい!」
「いやいいよ、事実だし。始めよう。」
私の言葉に深呼吸をして胸のネックレスに触れる魔法少女ヒミカ。
「フゥー……彼方に祈りを!」
眩い光が収まると、今まで茶髪だった髪が紺色になり、グレーのスーツだった服も白とモスグリーンと濃い赤の三色を中心としたミドルスカートのドレスを着ていて、二刀流の剣を持っていた。
「さあ。戦士、あなたも!」
「……そうだね。」
私はブレスレットについたボタンを押し込む。ブレスレットが黄色に光り、私の身体を包む。
慣れないな…使うのは騎士に強制された時以来か。
私の服装が黒のスーツから黄色のローブとなり手元にはアサルトライフル(AK47)とハンドガン(M1911)を握る。
「いきます!」
「教えてくれるなんて丁寧だ、ね!」
ヒミカが二刀を突き出すように突撃をしてきた。
牽制のために一発。
表情一つも変えずに片方の刀身で弾道を逸らされる。
ならここで!
「転換!」
アサルトライフルを前方に放り投げ、能力を使う。
アサルトライフルの輪郭がボヤけ、九十二式重機関銃に変え、即座に撃ち込む。
「っ!」
ヒミカは危険察知をすると横に飛び出し避ける。
勘が鋭いな……最初の牽制も目ではなく直感で手を動かしていた。
ヒミカを追うように私はハンドガンを撃つが、全て避けられ間合いも詰められる。
どうする?……転換も警戒されているだろうし……
「く!転換!」
「ふ!せい!」
九十二式重機関銃をアサルトライフルにし、ヒミカの斬撃を銃身で辛うじて受け止める。
「幹部なのにこの程度ですか!」
「悪いけど、非戦闘員なんでね!」
私はアサルトライフルを思いっきり上に放り投げ、片手で側転をしながらハンドガンを横一列に撃つ。
浜辺だから動きづらいな………
しかし、ヒミカはスライディングをすることで速度低下を最低限にして私に迫る。
「転換!」
ハンドガンをグロスフスMG42機関銃に変え、足元目掛けて打ち続ける。
「きゃ!」
流石に驚いたのか大きくジャンプをして避ける。
「良かった、そこに行ってくれて。転換!」
アサルトライフルを砲弾に変え、自重により真下にいるヒミカを狙う。
「っ!てりゃ!」
一度止まり、砲弾に目掛けて剣を振ろうとするヒミカ。
「今!」
グロスフスでヒミカもろとも砲弾に弾を撃ち込む。
それにより砲弾に入っていた火薬が爆発する。
魔法少女は命の危機になると変身が解けることでその危機を脱すると聴いているがどうなんだ……
黒煙が晴れると片膝を付き、肩で息をするヒミカがいた。
「…まだ解除されないのか。」
「へへ、あなたは魔法少女を舐めすぎです!」
速!?まだこんな余力があるのか!
ここは、後ろにズレながら転換を…うわ!?
「ふふ、考えすぎですよ。そのせいで足元が疎かになりましたね。」
気付けば首にヒミカの剣が添えられていた。どうやら考えすぎて足が砂にとられたようだ。
「あぁ…年はとりたくないものだ。」
私は精一杯の言い訳を呟き、ブレスレットに触る。立ち上がりながらもう一度封印し直し、スーツ姿に戻った。
「もしかして、すごい快挙じゃないですか!?幹部一人を倒して仲間に引き入れるなんて!」
「あれ?そうだっけ?」
「え?違うんですか?」
首をかしげ、おや?と呟くヒミカ。
「…………そうだね、もう私の完敗だ。
でも、一日だけ猶予をくれないかな?」
「えぇ?もぉ、一日だけですよ?それまでは報告を待ってあげます!」
ヒミカが嬉しそうに笑いながら答える。
「ありがとう、恩に着るよ。」
「じゃあ!さっきの奢りはチャラですね!」
「……ふふ!そうだね。」
この子は…本当に……
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