第20話 一人目

ー魔法少女イサドラー


 アカギとワタナベは逃げてくれたし、許可?も取ったから暴れれるけど……アイツはいったいなんなのかしら。

 死角からの火も避けられたし、襲ってくるとも思ったけど黙ったまま何もしてこない。ただただ、異様なオーラを纏いながら黙ったままだ。

 そもそも言葉が通じるのかしら?


「そこのあなた、ハイキング?ここは私有地なんだけれど、どこの誰かしら?」

 私も、カザリもナギサも固唾を飲んで相手の出方を伺う。すぐにでも攻撃に移れるように。

「……グュン…タァ……」

「グュンタァ?……ギュンターね?

 あなたの目的は何?」

 さぁ、どう出る?

「………………!」

 突如、ギュンターが動き出す。

 交渉は決裂かしら。そう思い、ギュンターの周りを火で覆う。すると……

「上に行くしかないよね!」

 ナギサが見計らったようにギュンターに肉薄し、日本刀で斬りつける。

「イサドラさん!一緒に!」

 その間にカザリが私の手を握る。

「いいわね!ぶっつけ本番、ヒリヒリするわ!」

 私とカザリで手を繋ぎ、お互いに力を放出する。

 ギュンターの牽制の為に使った火をカザリが風で巻き上げ、私がさらに火力を強める。

 出来たのはうねりを上げながら爛々と輝く炎の渦。そのまま、ギュンターとナギサを飲み込もうと下から燃え上がる。

「うっはぁ!凄い!」

 ナギサは歓声を上げながら、ギュンターの腕を蹴った勢いで私達の所まで戻ってきた。ナギサは戦闘になると感情が昂って性格が少し変わるみたいね。

「どうでしょうか……」

 カザリが不安そうに尋ねてくる。

「ダメみたいね。

 ……カザリも前に出なさい。じゃないと負けるかもしれないわ。」

「分かりました。」

「だね。」

 どうやら二人もなんとなく感じていたみたい。言い表すことが出来ない程の恐怖を。


「………!」

 ギュンターが喋ったあと、両手を拡げて力を収束させている。

 ギュンターの声は小さくくぐもっていて聞き取ることが出来ないのが辛いわね。けれど、あれは使わせてはいけない気がする。

「カザリ、お願い!」

「分かりました!全力で参ります!」

 カザリが大きく深呼吸をして掌を前に押し出すように動かす。

 ゴウッ!と強風が起こり、私達三人の走りを加速させるように補う。

 カザリが中心に格闘を行い、私とナギサが不意打ちをするが、それでもギュンターの動きに無駄がなく、まるで食後の運動と言わんばかりに軽くあしらわれる。なんとか力の収束を止めさせることは出来たけどここまでやって、この差……私がヒートアップすれば埋められるかもしれないけど、オーバーヒートして二人を巻き込みかねないし、なにより得体の知れない相手には悪手かもしれない。長期戦になればますますこちらが不利だ。あまりギュンターが反撃してこないとはいえ、既にカザリとナギサは疲れが見えてる。どうすれば………


"「我々のせい?ハハハ!それはキサマが臆病だったからだろう?そうでなければ、仲間も民間人もそれなりに生き残ったかもなぁ!?」"


 あぁ…嫌なものを思い出した。これは過去の過ち。自身への戒めの記憶。追い詰めて、追い詰めて、追い詰めて、ようやく仕留めた男の最後の捨てゼリフ。


 ……でも、今は感謝しよう。お前のせいで私の心は燃え上がった!


 火を巻き上げギュンターを私達から離すように放つ。それを避けたギュンターは狙った通りにバックステップを踏んだ。

「カザリ、ナギサ。ここからの私は制御不能のマシーンになるわ。入院費はださないわよ?」

 カザリとナギサは私から距離を取る。私の考えは伝わったみたいね。


 私は地面を踏む。何度も。何度も。

 呼吸をわざと小刻みにして心臓の鼓動を速くする。

 全身から熱気を放つように体温を上げる。


「フウゥゥゥ……Seize Wishes.Turbo!」

 いつもならヒートアップ、けれど今はこれにした。前は無意識に使って倒れてしまったけど今なら出来る気がする。誰でもない、自分への怒りをバネに。


 意識がある時に使ったのは初めてだけど、仲間が教えてくれた通りこの状態だと火の色が深紅になるみたい。どこまで強化出来たか分からないけど、身体は軽いわね。


「フッ!」

 一気に地面を蹴り上げ、ギュンターに近づく。

 っ!?ギュンターが……いや、私の速度が速すぎるのね。

 瞬きした瞬間、ギュンターとの距離が肉薄していたことに驚いて思わず退いてしまった。

 これを制御か……ふ、してみせよう!

 私は決意を固める為に握った拳に火を集め、ボウリングのように地面を滑るように投擲し、その火に隠れるように後ろから少しゆっくり走る。

 ギュンターは跳躍して避けると、突如身体が光だした。

「なん…ぐ!?」

 やられた!

 腹に衝撃が走り、そう知覚した。まさかここにきて目眩ましとは思わなかった。

 

 視覚が戻った時には既にギュンターはいなかった。

 私は身体からゆっくりと息を吐き出し、冷たい新鮮な空気を吸い込む。私の身体は少しずつ冷却され、元の身体に戻った。

 ギュンター、いつか…この手で!

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