第5話 こ…怖くないよ?

 ジュゥゥ……ジュゥゥ……

 私とダイゴは食べ放題の焼肉屋に来ていた。もちろんこいつの奢りだ。ついでに前回の件も聞こうと思っていたのだが。

「ダイゴ、ちょっといいか?」

「今はタン食ってるから無理~」

「………そうか。」

 ずっとこんな感じだ。正直困るんだが……ここはこっちから切り出すべきか。

「前のナズサって人に関して……」

 ミシ…

 私が前置きを振り切って問い掛けると、ダイゴが持っていた箸から嫌な音が聞こえた。

「ダイゴ、私の名誉に誓って言う。彼女に特別な何かはしないと。戦場では分からんが。」

 私がダイゴの目を見つめると、ダイゴも私の目を見つめる。これが俗に言う深淵を~だろう。

「……………………分かった。仲間のお前を信じるぜ。」

 この感触、これならハナコの二の舞にはならないのでは?そんな気持ちが芽生えた。

「なら聞かせてくれダイゴとナズサって人の関係をさ。」


「あー、ハハ。ちょっと恥ずかしいなぁ。



 俺と菜梓は所謂腐れ縁ってやつでさ。中学の時から仲が良いやら悪いやらとよく周りに言われたもんよ。

 一度離れてもいつの間にかまた一緒にいる。そんな感じでした。

 そりゃあもちろん菜梓は可愛かったから、女として見てた時もあったよ。けど、なんとなく、ホントになんとなくだけど、そういう関係になりたいとは思わなかったんだ。

 まぁ、そのまま大学までは一緒になったけど、流石にお互い自分の道を探してる内に交流も減っていって、大学の一年までしか関わってはないんです。

 


 でも、久し振りに会えたことが嬉しくてあんなことをしてしまいました。

 本当に申し訳ありませんでした。」

 懐かしそうに話した後、珍しく真剣な顔をして頭を下げた。

 本来なら菜梓さんを拉致し、ダイゴを完全なる支配下に置くのがおそらく正しいのだろう。

 ………けどそれは美しくない。美しくないね。

 それに、苦しむ友達なんて見たくないもんね。

「それはどうかな?」

「っ!?おい!どういう…」

「だってまだ奢って貰ってないからな!」

「こと…………ありがとう。

 へへ、ジャンジャン食えよ!」

「言ったな?」

 ピーンポーン

「ご注文をお聞きします。」

「ハラミ四人前と野菜焼き一皿。」

「あ、俺は牛タンとカルビ三人前で。」

「かしこまりました。」


 ダイゴがこちらを見ている?なんだ?

「どうした?」

「お前ハラミと野菜しか食わねぇのか?」

「そっちこそタンとカルビしか食ってないくせに。」

 人の物にイチャモンをつけるとは……戦うべ!?

「おい、馬鹿!火上がってんぞ!」

「おあ!?やべー!やべー!どうしよ!?」

「あぁ!もう!」

 俺はハイボールに入っていた氷を箸で取り出して、焼肉の網に放り込む。

 すると、段々と炎が弱まり、やがて元に戻った。

「よく知ってたな。」

「やったことないのか?」

「いつも、水かけてた………。」

「いや、火消える……なんで今日はやり方を変えたのさ。」

「だって食べ放題だし、タロウが分かってくれたのも嬉しかったし、豪勢に焼こうと思ってさ。」

「おぉ………まぁ、何も言わないでおいてやるよ。」

 芽生えた私の気持ちに今、花が咲いた気がする。

 



 お互い心も身体もスッキリしたせいかそれなりに食べたのだが、会計の金額を見て驚いた。あんなに食べてあんなに安くて良いのか?食べ放題、恐るべし。
















「……ということがありました。」

「………………………………。」

 ダイゴの件は将軍にのみ伝えた。プライベートではあるが、魔法少女との戦闘において、菜梓さんがいる戦場にダイゴを送ったとしたらダイゴの判断が鈍……いや、絶対鈍る。言いきれる。

「以降から魔法少女ナノハ及びナズサがいる戦場を事前に知るべく、極小型ドローンの改良とモニタールームの資金増加をする事を提案致します。ダイゴにはこれからも戦闘面において飛躍してもらう必要がありますから。」

「……たかった。」

「はい?」

「焼肉…食べたかった!」

「………ハァー。」

「俺も皆で焼肉行きたい!」

「私も将軍以外と食事をしたのは今回が初めてですから。」

「羨ましい限りだ。」

「じゃあ、今度空いてる時に三人で焼肉行きましょう。条件は…」

「ふ、分かってるさ。私が奢る!」

 将軍は身に付けてるマントを靡かせて、部屋を出ようとする。

「今日は戦闘演習のため騎士はいませんよ。」

 キメ顔をしていた将軍がピタリと止まる。

「…………そうか。」

 将軍は前髪を掻き上げ、天井を見つめながら定位置に戻る。

「今度聞いときますね。」

 私はスマホを取り出しメールを送る。

「ほう………」

 将軍は私の、主に手元を見ながら自身のスマホをプラプラさせている。

「連絡先、教えますね。」

「分かってるじゃないか。」



 後日、三人で焼肉に行った。

 最初は畏まっていたダイゴもケイイチのオフの振る舞いに慣れたのか後半は対等な友人となっていた。

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