.Ⅲrd 04

 クロは飛んだ。それはその街の裏側。裏街の裏の裏側にある裏山。そこの誰もしれないひっそりとした場所に小さな墓がある。クロは飛び降りてそこに着くと、近くでとってきた花を供えて手を合わせた。



「これはしばらく借りていくぜ、ジロ」



 それは墓の目印に突き刺していた鉄の塊だった。それは引き抜いて、良く見てみると、それは剣のようでもあった。大剣のようにも見える。以前、修行していた時に、使っていた武器の一つである。墓を立てる時に使ったのだ。そしてジロがこの武器を使うクロのことを、チュウカと呼んでいたのだった。それは中華包丁を大きくした風体で、まるで偽物の中華包丁のようだと、笑っていたのをクロは覚えていた。偽物中華包丁を抜き取った代わりにスコップを突き刺し、そして再び手を合わせると、大剣を背にかけて、仁王立ちで師匠のジロに向かって言った。



「じゃあ、行ってくるわ」



 クロはまた街へと戻るために再び飛んでいった。









 ※ ※ ※














 裏街は夜になった。すっかり日が落ちて真っ暗なはずなのだが、しかしその街は明るかった。照明やネオンで轟々と神々しく照らされていた。



 そんなメイン通りにある八百屋はほとほと困っていた。さっきからヤクザが店の前を占領しているからだった。この時間になると、八百屋ではなく、もはやフルーツ屋なのだが、しかしどちらにしても状況は変わらない。この街では知らない奴はいない。その名前は裏のこの街では最大限に幅を利かせている、そういう男だった。そういうヤクザだった。だから、誰も手を出せない。逆らえない。仕方のないこと。そう思っていた。商品のフルーツを言われるがままに切り分けて差し出し、その残骸を捨てられる。店主は怯えながら拾って片付ける。男は店先の品物台に腰を据えて座り込み、周りに弟子を連れて有意義に過ごしていた。



「おいおい、うまそうだなぁ、そりゃあ」



 声がした。しかし姿は見えない。目黒という男と周りの男は、訝しむようにキョロキョロと、少し周りを見る。



 空から飛翔、着地。



 クロは八百屋やや後方の、メイン通りど真ん中に着地した。



「うまそうじゃないか、俺もほしいな、フルーツとか」


「なんだ、小僧? っていうか誰だ、お前」



 抜刀。構える。クロは問いに答える。



「俺か? 俺の名前か? そうだな、名乗るとしたら」




 チュウカだ。



 よく覚えておけよ、三下。


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