.Ⅲrd 02

 パン、パン。


 

 くるっと回転して回避して、二回転目で二発目を避ける。



 パン、パン。



 片手で逆立ちして避けて、頭だけを内側に入れてまた避ける。



「やあやあ、おじさん。そんなおもちゃじゃ、俺のことは殺せないぜ」


「ふぅ、どうにもそのようだ。やれやれ、大人だってビビって両手を上げるっていうのに」


「ククク」



 その大人は拳銃を捨てて、今度は警棒を取り出して勢いをつけてその長さを伸ばした。



「へぇ、やるんじゃん。いいよ、いいよ、ほら、これ知ってるか?」


「……ボウリング?」


「ジャグリングだよ、ジャグリング。ほらこれを三本でこうやるのさ」



 クロはボウリングのピンを三本取り出し、それを交互に投げた。宙に舞ったそれは、やがて一本をバット代わりに掴むと、舞ったその宙から落ちてきた一本を振り抜いて打った。その勢いは凄まじく、普通なら片手で掴むことは無理なのだが、その男は尋常ではなかったため、片手で掴んだ。



「ひゅー、やるー」



 それからは鬼ごっことボウリングのピンと警棒の交戦だった。クロが飛んで屋根に飛び、走り、待ち伏せて飛び降りて襲撃。地上のスーツを決めた男に攻撃した。クロはそのまま、勢いのまま、押し、男を圧倒した。男はなかなかに苦戦した。クロは運動神経がずば抜けていて、するりするりとすべての攻撃を避けて、そしてボウリングのピンを投げてぶつけては掴み、振り回しては投げて、それから自分が飛んできてそれを摑みなおした。



 埒が明かないなと、そう思ったクロはボウリングピンを諦めた。すべてを男に向かって投げつけて、気を反らしているうちに、ストラップをつけて先ほどから背負っていた、中古のオンボロエレキギターを手に取った。そしてそれを文字通り叩きつけるかのように、ネックを持って、そのまま、振り下ろしたのだ。



「このっ、乱暴な、ガキ……!」



 男はエレキギターのこの振り回しに振り回される形となった。男としてはなんとかしてクロを取り押さえて組み伏せ、その身柄を確保したいところだったのだが、そのなりふり構わない攻撃に苦戦することになった。



「仕方ない、子供相手にとは思ったが、お前は格別だ。どんな手でも使う」



 クロがエレキギター叩き潰すように、ネックを掴んで本体を真っ二つにしたときだった。それは男の手によって投げられた。刹那、閃光が走り、まばゆい光が当たりを照らし、強烈に視界を奪っていった。閃光弾だ。



 光が収まった時、いや、光に目が慣れたときというべきか。感覚が戻った時にはもうクロは組み伏せられていた。取り押さえられてしまっていた。男に腕を後ろに縛られ、上から押さえつけられた。



「お前は無茶苦茶すぎる。鍛えれば、もっと強くなれるはずなんだがな」


「くっそ……」



 クロは連行された。それは男の雇い主のところであった。幸いにも、場所はここ、裏街にあったのでそう遠くはなかった。



「連れてきたぞ」



 どさっ。


 

 そこはヤクザの事務所だった。そこにはたくさんのスーツの悪そうな男たちがいた。それはクロにとっては見たことのあるような顔ばかりで、きっと見たことがあるのだろうなとそう思っていた。



「報復かい、お兄さんたち」


「カラスの坊主、だったか。この間はうちの者が世話になったな」


「喧嘩のひとつやふたつなんて、覚えてやいないね」


「そうかい。でもこっちはしっかり覚えてるんだよ」



 ヤクザの男はクロの腹を蹴り、怯みさせると、別の男がその拘束させられた体をつまみ、持ち上げた。



「ガキ相手にも、そんなことをするのか」



 連れてきたスーツの男は問うた。



「ガキ相手だからこそ、やられっぱなしは有りえないんだよ」



 ヤクザの男は、金属バットを持ち、ぶんぶんと素振りしていた。



 クロは捕まった体をジタバタとさせている。それをヤクザの若い男が抑えるように、押さえるように掴み直している。


 

「まずは足からだ」



 クロを抱えるようにして、足が見えるように向けると、男が構えた。そしてそれを振り抜いた時、その男は同時に天井を見ることになった。



 スーツの、クロを捕まえた男がヤクザの男を殴り倒したのである。それを機に、クロは抑え込んでいた男の首を両足ではさみ、そしてひねった。両腕の手首で縛っていた縄を力技で引きちぎるようにして破り、飛び上がって着地した。若いヤクザの連中が恐る恐る、クロを見ている。様子を見る、といったところだろうか。クロは一人に飛びかかると、それを殴り倒した。馬乗りになって数発殴ると、耐えかねて後ろから襲撃してきた数人をまとめて一蹴。蹴り上げた。次から次へと飛びかかっては殴り倒し、蹴りで隙を作り、そして殴った。全員を伸した、倒し終えた時には、残っていたのはスーツの男とクロであった。



「行こうか」


「ああ」



 二人は、扉をぶち壊してその部屋を出ていった。



「ジロだ」


「名前は……わからない。この街じゃぁ、ケモノとかカラスとか呼ばれているが、前の街ではクロとかノラとかネコみたいな名前だった。主に柚涼が呼んでいたわけだが。まあ、こっちでも今はクロネコとか、そんなんでいいよ」


「じゃあ、クロネコの少年。カラスの坊主。俺はお前を弟子にしてやろうと、鍛えてやろうとそう思って助けたわけだが、本人の意向としてはどうかな?」


「ああ、いいね。それ。さいっこうにイカしてるぜ。ジル。あんたは俺の師匠ってわけだ」


「そうだな、クロ」



 こうして二人は師弟となった。街を見渡せる看板の上まで来ると、二人でこの街を見下ろした。ジルはタバコに火を点けてふかし、クロは双眼鏡で覗き、下の街を確認すると、「ククク」と笑って覗くのをやめて遠くを見た。


 

 陽が昇る。夜が明ける。



 良い子はそろそろ寝る時間だぜ。



 

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