.Ⅱnd 09

 闇の風が吹いていた。黒く、濁りきった闇の風が。二本の刀音が響いていた。闇とチュウカの互角の勝負が続いていた。周囲の人間は周りで見守るばかり。手出しは愚か、もう声を出すことさえも憚られた。



「諦めろ。お前じゃ俺には勝てない。闇に屈しろ。全てを委ねろ。チカラを求めろ、お前のチカラになってやる」


「俺は自分には屈しない。自分には負けない。この街そのものであっても、自分が消えることはない。名前が変わろうと、命を狙われようと関係ない。俺は俺のために生きていく。一度は死んだ命だが、気まぐれで救われた命だが、生きているかどうかすら曖昧だが、契約だからな。ここは俺の街だ。俺が俺自身で守っていく。何かに頼るつもりも、委ねるつもりもない。お前に用はない。とっとと消え失せろ」



 チュウカは蹴り飛ばして距離を取り、そしてすぐにその距離を詰めて斬り掛かった。闇は木刀の刀身でそれを受けて流し、こちらも斬り掛かった。しかし、その攻撃は踏みつけられることで避けられ、そしてチュウカはそのまま木刀を踏み折った。



「じゃあな、闇の、影の俺様よ」


「なに、また会えるさ」


  

 チュウカの一撃を受けた闇は、影のように消えた。観衆からは驚き、困惑し、どよめきが起こったが、しかし、偽中華包丁をくるくると回し、背に背負い直したチュウカを見ると、大拍手が起こった。皆が駆け寄った。そこにはアキラも居た。



「よお、アキラ。サンキューな」


「重かったぜ、へへ。そうだ、飯でも食っていくか? チュウカ」


「ああ、ご馳走になります」



 こうして影の悪童と呼ばれた少年は消え、闇との激闘を制したチュウカがひとり、夜の店へと消えていったのであった。




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