.Ⅱnd 08

 ネオンが光り、客引きが蔓延る通り。通称エロ通りとチュウカが呼んでいる通り。そこにアキラという男の経営する店はあった。店の外に立って来店を、来客をそれとなく待っていると、通りで悲鳴が聞こえた。誰かが、誰かを殴っている。喧嘩か? まあ、喧嘩なんてのは珍しくもなんとも無い場所ではあるが、しかしそれは、相手が悪かった。一瞬、チュウカのように見えた。背格好が、体格がそれに近いように見えたのだ。しかし、異様さは遠くからでも分かる。あれは影だ。影の悪童と最近呼ばれている悪童だ。フードを被り、全身黒く、異様なオーラを放っている。街の立て看板から壁やドア、ガラスも破壊している。あんな乱暴なやつは、秩序を守らない無法者は、他には誰もいない。「やめて」「なにをする」「ふざけるな」怒号と悲鳴が交錯する。止めに入ろうとする男たちがつぎから次へと殴られ、木刀で殴られ、流血騒ぎになっている。チュウカはあんなことはしない。あれはチュウカじゃない。アキラも店の中に声をかけて戸締まりさせ、そして現場へ向かっていった。



「あ、アキラさん」


「あいつは止められないのか」


「ねえ、あれってチュウカなの?」


「いや、違う。影だ。影の悪童と呼ばれる別物さ」


「なんでそんな子が」



 治安悪くさせるの、と。声にならない声で嘆いた。



 チュウカのときは笑って済ませることができた。警察官とも鬼ごっこするのが大抵、ガキ同士でも喧嘩が精々、軍の時は体を張って街を守ってくれた。チュウカは突然この街に来て、この街で暴れたが、そこには道理がある。街のためという理由がある。無闇やたらと暴れているわけではない。街の人のために動き、ためをを思い行動して、時には礼儀正しいような、そんなやつなのだ。だから、こんな無秩序な乱暴とは違う。



 影の悪童は一人の男に執拗に寄ると、そのまま殴り倒した。その一人の男に馬乗りになり、意識も朦朧としているのにさらに殴り続けていた。あのままでは死んでしまう。どうにか、どうにかしないと。



 情けない大人だなと思った。何もできない、何もすることのできない、見守ることしか無い、そんな大人でしか無いなと、情けなく思った。



 天を仰ぎ、祈るような時、その時だった。空から降ってきたのは。飛んで、飛び降りるようにやってきたのは。



 チュウカだ。




 チュウカは着地して、その影の悪童を見つけるや否や、すぐに飛びかかって、大人から影を引き剥がした。二人は、団子になり、転がって離れていった。それからチュウカが蹴飛ばして、その距離を作った。影はそろそろと立ち上がり、抜刀。木刀を手にした。チュウカは、ビニールパイプを手にして応戦の意を示す。



「チュウカ! そんなやつやっつけちゃえ」


「チュウカ、たのむぞ!」




 チュウカに対して様々な声が飛ぶ。街が一団となっていた。軍を敵にしたときも一致団結していたように思う。その時以来だ。



 やっていることは暴力で、喧嘩でしかないことはその通りなのだが、しかし、今この場所においての意味合いと、この時の状況としては最適の、最適解としてのチュウカの登場なのであった。



「チュウカ……」



 しかし、影は強く、チュウカとのチャンバラを制すると、チュウカの武器を飛ばした。チュウカは後退していた。




 アキラは走った。店へと走った。そして店に入り、目的のものを取ると、すぐに店の外へ出た。チュウカは屋上に逃げていた。影はまだ下の通りにいた。



「チュウカ……くそっ、重いなこれ」




 チュウカの忘れ物。置き忘れ物。それを、渡さなければいけない。そう、思った。なんとしてでも、どうにかしてでも。




「くっ、くそっ、ちくしょおおおお、チュウカ受け取れぇぇぇ!」



 遠心力でブンブンと音を立てながら、回転しながら投げられたソレは、チュウカのいる屋上へ一直線。パシリと受け止められた、巨大偽中華包丁は、チュウカの手元へしっかり渡された。それは巨大な鉄屑。鉄の塊。中華包丁を大きく巨大化したようなフォルムをしており、それが故に彼のことは、チュウカと、そう呼ばれるのが最近の呼び名であり、彼いわく流行なのだそうである。



 チュウカは飛び降り、獲物を地に突き立て、そして抜刀。相手にそれを向けた。それを見て影の悪童は言葉にして煽った。



「ククク、チュウカ復活だな」


「おい、闇。いや、影の悪童か? まあ、いいや。ケケケ。さあ、決着つけようぜ」


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