.Ⅱnd 07

 無人飛行機の攻撃はなくなった。ドローンによる追撃は無くなった。やはり、根源はあいつらだったらしい。いつの日か、黄色いティーシャツを着たガキにカツアゲしているガキの集団を裏街から追い払い、全員昏倒させた事があったような、なかったような気がするが、まあ、それと今回が関係あってもなくても、全然関係ないやと、チュウカは思っていた。そんなことより問題は二つ。懸賞金と闇の存在だ。



 まずは懸賞金。自分にそんなものが掛かっているとするなら、それを狙ってチュウカを狙うやつは今後も出てくるだろう。表からも裏からも、街の外側からも。まあ、それは別に正直どうでもいいといえば良かった。敵となるならそれはわかりやすい。倒せばいいだけのことだ。軍のような組織でもひとりで果敢に立ち向かっていくチュウカである。たとえ国が相手になろうと、きっとすべてを押し退けてしまうだろう。



 だからこそ、闇の存在は気掛かりだった。全てを凌駕する、圧倒するチカラは魅力的で、その身全てを委ねそうになってしまうが、しかしそれは同時に自分を失うことであると、チュウカは戒める。闇のチカラを手に入れた時、闇の自分と入れ替わった時、そこに自分はなく、化け物と化した本当の悪魔がそこに君臨するだけである。暴力と盗みなんて可愛いものじゃない。殺戮と殲滅のみを手にした異形の妖怪、闇そのものと成り果てたその姿は生なるもの全てを死に変えていくことであろう。チュウカはあの存在をひと目見たときから、その全てを見抜いてそして理解した。なぜなら闇であると同時にそれは自分自身、もう一人の自分であるからである。チュウカのもう一つの可能性。そう仮定できるからこそ、警戒して睨み、闇とさえもチュウカは敵対するのだ。しなければいけないのだ。



「クロネコ、もう敵は居ないの?」


「だから、その名前は古いんだよ。今はチュウカって呼ばれるのが流行だ」


「でも、武器はないんでしょ?」


「まあな。まあ、今はこれで十分さ」


「じゃあ、そのうち必要になるんだ!」


「さあな」



 柚涼はいつも居なくて、近くにいることはなくて、それが当たり前で普通だったから、いつの間にか傍にいるようになったのは、住処に住み着くようになったのは何か居心地が悪いような感じがしてしまっていた。



「それより聞いた? 悪童のはなし」


「悪童? 俺のことか?」


「クロじゃなくて、新しい悪童の噂話。この街の裏街の悪童。街の店や家を見つけると片っ端から壊して回るらしいの。全てを破壊して回る。武器は木刀のようなもの。大きな、刀のような木刀らしい。ほら、いつかのチュウカみたいな」


「俺はそんなことしねぇ。街は守る側だ。家や店を壊すことはしたことがねぇ。殴るのは不良と、やさぐれた大人と、ガキどもが大半だ」


「でも、街の脅威なら街の敵なら、チュウカの敵だよね?」


「まあ、そうかもな。そうかもしれないけどな、ケケ」


「それは影と呼ばれているらしいよ。影の悪童。なんか全身黒くて、暗いんだって」


「影?」



 全身黒いやつ。それは、なんか嫌な予感がするな。



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