.Ⅱnd 06
チュウカは、高いところに居た。工場の煙突のその頂上。腰掛けて、双眼鏡で街を見下ろしていた。敵の正体が知りたかった。ドローンは見るからに機械だ。ならば、どこからか操縦しているやつが居るはずだ。双眼鏡を使えばこの街であれば、表も裏も、この人並み外れた、人智を超えた視力のチュウカに見えないものはない。大事なのは文明の利器と、長さと頑丈さによる暴力だ。
下の街をあのおもちゃが何台も飛んでいるのが見える。俺を探しているのだ。何を必死に、今更俺なんかを執拗に狙うのだ。それはわからなかった。でもわからなくても良かった。敵がいるなら、眼の前に居るなら捻り潰す。叩き潰す。わかりやすくて良い。
「いた。いたいたいたいた、いた」
表街のタワマン中層階。部屋に集まってるのは……ガキだ。中学ぐらいのガキどもじゃないか。窓開けて、あのおもちゃをまた一台飛ばしている。パソコンかなにか、モニターでカメラをチェックしているのだろうか。画面に釘付けだ。しかし、どこかで見たようなガキどものような気がする。まあ、いいや。どうせ自分たちの金でやってるんじゃないんだろう。親の金使い込んでるんだろう。その程度なら、壊すのは簡単だ。後始末もいらないだろう。厄介なのは表街の真面目な警察官たちだが、それもなんとか煙に巻けるだろう。よし、なら、即実行だ。
チュウカは双眼鏡を腰に挿して、それから飛んだ。大ジャンプ。それは宙を飛ぶような、飛び降りるような大飛躍だった。ひゅーひゅーと風を切って、風を受けて、空気を真っ二つにして飛んだ。街から街へ。ピンポイントに降りるところだけ見定めて。
タワーマンションの狭いベランダに音もなく着地したチュウカはそのでかい窓から中の様子を見た。片側はおもちゃの出着地として使われているため開いている。とりあえずは、様子見で、窓から見てみようと、そうしたのだ。ガラスは曇りなくクリアで、良く見えた。それは中からも外がクリアに見えるということで、そのガキが、にたりにたりと笑うチュウカを窓の外に見つけた時は、焦り焦り、青ざめて手元のコントローラーを放り投げたほどだった。
窓ガラスを、パイプのフルスイングで割った時、派手な音はしたが、警報音や通報音は鳴らなかった。こんな高いところに、窓から侵入しようとするなんて想定もしていなかったのだろう。
割れたガラスに驚き、ガラスを避けようとするガキどもにチュウカは襲いかかった。二人をすぐに昏倒させて倒し、ちびっているガキを蹴り飛ばして冷蔵庫まで飛ばして卒倒させ、もうひとりを見つけると襟を掴んで尋問した。
「お前ら四人か」
「は、はい」
「てめえらが俺を狙ったのか。誰かに指示されたのか」
「ぼ、僕たちがやりました。ごめんなさい」
「何が目的だった」
「こ、この間やられた仕返しと、それと、お金」
「お金?」
「裏街の虞犯少年には懸賞金が掛けられているって。すごい金額が。だから、お小遣いほしいねって、冗談半分で」
「はっ、くだらな」
けけ、くだらないね。実にくだらない。
チュウカはそのガキをぎりぎりと持ち上げるとそのまま床に叩きつけた。そして、馬乗りになってボコボコに殴った。ガキの気を奪っても、失ってもなお殴った。ある程度やったら、辞めて立ち上がった。周りを見渡し、ガキが四人倒れているのを眺めた。こんな奴らに、俺は殺されかけたっていうのか。命を狙われたって言うのか。
「だから言ったろう? もっと圧倒的な力が必要だって」
「……またお前か」
闇の自分。もう一人の自分。影の自分。可能性。圧倒的可能性。誰も手を出さないような、挑むことすら恐れるような、治安やら法律やらに縛られず、警察やら軍やらに制圧されないチカラ。それが、もし自分の中にあるとしたら。あるのだとしたら。
「あるんだよ、間違いなく。闇に身を委ねろ。闇に生きろ。それだけですべて手に入る」
「おいっ、大丈夫か……いや、違う。誰だ、そこで何してる」
大人と警察が来た。随分と早いな。警戒しながら、恐る恐ると様子を窺ってやがる。チュウカは、「ケケケ」と笑うと、カーテンを引きちぎり、マントにして飛んだ。裏街へと帰っていくために、飛んだ。その様子は表街の多くの人に目撃されており、ニュースにもなって、注目された。
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