離さないように

「こんなガキ二人に、お前ら全員やられたのかよ。ふざけてんのか?」

「で、ですがそいつは、とてつもない魔法使いで······」

「言い訳してる暇があれば、さっさとこいつらを捕らえろ、できなきゃ殺す」

「は、はい!!」


「ハツキ······」


 エイナも子供達も皆、怯えた表情をしている。わたしはもう一度安心させるために意思を伝える。


『大丈夫。わたしは、絶対に、みんなを、守る、から』


 わたしはみんなに微笑みかけると、盗賊達の方へ顔を向けた。


「諦めて? あなた、達の、攻撃は、効かない、から」

「は? ふざけんなよ!!」


 リーダー以外の盗賊達が武器を振りかぶってくるが、当たらない。空気の壁は、彼らの数倍は力があるであろう、魔物の攻撃すら止めた。こうなるのは当然だ。見えない何かに武器が止められ、盗賊達は困惑していた。


「な、なんだよこれ!!」

「いつの間に障壁を張ったんだ!?」

「言った、でしょ? 攻撃は、効かないって」


 わたしの言ったことが本当だと考えたのか、盗賊達は攻撃を止めようとしたが――


「なにしてんだお前ら。攻撃止めてんじゃねぇよ」

「ですが、どれだけ攻撃してもこの障壁を突破できないですよ!!」

「ア?壊せなくても、障壁を張らせ続けたらいずれ魔力が切れるだろうが。ふざけんじゃねえょ。早く続けやがれ」


 リーダーの言葉に従い、再び攻撃を開始した。


(やっぱり、これじゃあ諦めてくれない、よね。分かっていた。分かっていたことだよね……わたしは――)


 エイナに視線を向ける、変わらず不安そうな表情ではあるが、わたしが見ているのに気づくと、にこりと微笑みかけ、つないでいた左手をさらに強く握ってくれた。

 わたしは前へと視線を向けると、杖に魔力を集めた。そして、カッターを作り解き放った。

 わたしが杖を動かしたのを見て、盗賊たちは何かしてきたのかと警戒するが、何も起きなかったため、焦っていると思ったのか攻撃を加速しようとしたその瞬間、盗賊たちの後ろで、ぐちゃりと何かがつぶれたような音がした。

 何があったのかと振り返った盗賊はもれなく悲鳴を上げた。その悲鳴を聞いた盗賊も振り返り、同じように叫んだ。盗賊のリーダーは、その首を落として絶命していたのだから。

 盗賊たちは、わたしの方を見た。わたしは努めて冷酷な表情をし、呟く。


「死にたく、ない、なら、今すぐ、帰って? この森に、二度と、近づか、ない、と、誓える、なら、見逃す、から。まだ、攻撃を、続ける、なら、殺す、よ?」

「ふざ、ふざけんじゃねぇ!!」


 そう言って一部の盗賊はもう一度飛びかかってきた、が。全員首が落ち、絶命した。


「もう、一度、言うよ? 帰って?」


 わたしがそう言ったのを聞き、盗賊たちは悲鳴を上げながら、逃げ出した。そして、洞窟内を静寂が包んだ。

 わたしは、表情を和らげると、子供たちの方を見て穏やかな声で言う。


「言った、でしょ? 大丈夫、だって。さぁ、帰ろう。みんな」


 子供たちは、帰れることを理解し、半分は喜び大声を出した、また、半分は涙を流していた。そんな子供たちの姿を見てわたしは思う。


(間違ってなかったよね。助けたこと。助けるために命を奪ったこと)


 わたしは自分が奪った命に目線を向ける。わたしがわたしの意思で奪った命だ。彼らの自業自得だと割り切れれば、どれだけ楽だろうか。この選択を、わたしは後悔しない。だけど――


(これが、人を殺すということなんだ)


 わたしはエイナの手を強く握っていた。その手を、何があっても離さないように。





あとがき

 本日二話目です。まぁ仕方ないとはいえ、全然ほのぼのしていませんね、うん。次からはほのぼのが戻ってくるはずなので、どうぞ安心してください。

 ハツキにとって異世界初の人殺しです。エイナのためなら人だって殺せるとは思っていて、実際に殺せたけど、罪悪感は消えないのがハツキらしくていいと思います。

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