手放したくない
泣いているエイナを抱きしめながら思う。
(守ってあげたいな、この子を。望むのなら、ずっと)
エイナが帰りたくないと言ったとき、わたしは安堵した。まだ、エイナと一緒に居られると分かったから。
前世のわたしにとって、家族以外の誰かと仲良くなるなんてことは一切なかった。ほとんどの時間を病院か家で過ごしていたわたしにとって、家族以外の人間関係は、存在しないものだった。
だから、この世界でずっと一人だとしても、大丈夫だと思っていた。前と何も変わらないからって。だけど、エイナと触れ合って、心底理解した。わたしは誰かと関わることを望んでいるって。
神様は、出会いを大切にするようにって言っていた。わたしにとって、人との出会いは、長い人生でほんの少ししかないと思う。だから、そのわずかな出会いを、そこでできる縁を、何よりも大切にしたい。
エイナとの出会いは、わたしの人生で、間違いなく一番大切なものになると思う。だからこそ、エイナのことを、わたしは手放したくない。叶うのならば、ずっと一緒に居たい。そう、思った。
「……もう大丈夫。泣き止んだから」
「うん、わかった……今日は、どうしよう、かな?」
「ハツキは、普段どんなことをして過ごしているの?」
「魔法の、練習を、したり、畑の、水やりを、したり、かな。たまに、釣りも、してるよ。この後は、畑に、行く、予定」
「そうなんだー。だったら、畑の水やり、私も手伝っていい?」
「うん、いいよ。じゃあ、行こっか」
畑作業は全て手動で行うようにしている。やろうと思えばもっと便利にできるのだろうが、必要最低限のもの以外は作らないようにしている。完全に自動化してしまったら、わたしはやることがなくなって、本当に一生寝て過ごすようになってしまう気がするから、こういった感じで、普段からやらなきゃいけないことをいくつか用意してある。
もともとこういう作業は楽しんでやることができていたが、エイナと一緒に作業すると、よし楽しいと感じた。
畑の水やりが終わり、昼ご飯の準備をしようと家に戻っている途中、鳥が一羽、私の肩に乗ってきた。
何かあったのかと聞いてみると、オオカミの魔獣の群れが、ここに近づいているそうだ。
「ハツキ、鳥と話せるの⁉」
「うん……ねぇ、エイナ。多分、エイナが、乗っていた、馬車を、襲った、オオカミの、群れが、近くに、いたって」
「! ほ、本当に? その……大丈夫なの?」
「大丈夫。結界が、あるから、入っては、来れない。万が一、入って、来たとしても、わたしが、全部倒す、から」
そう言って、安心してもらえるように笑う。絶対に、エイナに怖い思いはさせたくない。そう、心の底から思う。
「ハツキがそう言うなら、大丈夫だって思えるよ」
その言葉が本音なのだと教えてくれるかのように、エイナは満面の笑みを見せてくれた。
(あぁ、手放したくないな。本当に)
あとがき
ハツキのエイナに対する思いも当然重いです。まぁこっちもまだ恋愛的な感じではなく、家族愛とかそっちの方が近いと思います。
次回は一年くらい時間が飛びます。一年の間二人っきりで過ごした彼女たちの関係性が、どのようなものになっているか、お楽しみに。
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