一緒にいたいから
こんなに安心して寝られたのは本当に久々だと、まだ眠っているハツキの顔を見ながら思う。どこまでも暖かく、優しい雰囲気をハツキは纏っている。
信じられないほど整った、かわいい顔をしていると思う。その上いろんな魔法が使えて、力があって、料理もできて、ハツキは神様から愛されているんだなと思った。
寝顔を見ているだけで、癒されるというか、安心できる。ずっとこのままでいたいとすら思ってしまうほどに。
(本当に、すごいなーハツキは。私とそんなに年が離れてるようには見えないのに、こんなにしっかりしてる。それに可愛いし……ずっと見ていたいなこの寝顔)
そんな風に寝顔を眺めていたら、ゆっくりとハツキはその眼を開けた。どう見ても寝ぼけているが、私の顔を見ると、その口元を緩め呟いた。
「むにゃ……おは、よう。エイナ。よく、眠れた? むにゃあ……」
「うん。おはよう、ハツキ。ハツキのおかげで、ばっちりだよ。ありがとう!」
「うん、なら、よかった」
そういって微笑むハツキの姿は今まで見た何よりもきれいだと思った。
布団から出て、朝食を食べた。見たことがない食べ物だったが、すごくおいしかった。お米とお味噌汁、だそうだ。変わった見た目の家といい、知らない料理を作ったり、ハツキは何でこんなことを知っているのだろう? そもそも、なんでこんなところに住んでいるんだろう?
そんなことを考えていたのが顔に出ていたのか、ハツキが口を開いた。
「どう、したの? 何か、聞きたいこと、あるの?」
「あ、うん。その、ハツキは何で、ここに住んでるの?」
私の疑問を聞いたハツキは、一瞬悲しそうな、懐かし気な表情をし、すぐにいつもの穏やかな顔に戻ると、疑問に答えてくれた。
「似てる、から。もう、帰れない。故郷に」
「……そうなんだ。ごめん、聞かないほうがよかったよね?」
「ううん。大丈夫。わたしの、ことを、知りたいと、思って、くれるのは、嬉しい、から。遠慮せず、聞いて、いいよ」
「……うん」
きっと聞かれたくないこともあるだろうに、どうしてハツキは私にこんなにも優しくしてくれるのだろう。わからない、けど嬉しい。ハツキの優しさが自分に向けられていることが。
そんな中、ハツキが真剣な表情をして、口を開いた。
「ねぇ、エイナ。もし、あなたが、望む、なら、あなたを、家族の、ところに帰して、あげられる、よ? どう、する?」
帰れる? お父さんと、お母さんのところに? 帰りたい。心の底からそう思う。でも……私は、首を横に振った。
「どう、して? 帰りたく、ないの?」
そう聞かれて私は、奴隷になった経緯を話した。そして――
「きっとお父さんもお母さんも、私が家出したまま帰ってこないだけだと思ってる。怖いの、もう私なんてどうでもいいと思ってるんじゃないかって。だから、まだ帰りたくない」
「……そっか。確かに、怖いね。でも、きっと、あなたの、両親は、どうでもいい、なんて、思って、ないよ」
「そう、かな? でも……」
「安心、して。帰りたいと、思えるまで、好きなだけ、ここにいて、いいから。そして、帰りたいと、思ったなら、私も、着いて行く。もし、ひどいこと、言われても、わたしが、守る、から」
「……本当に?」
「うん。絶対に、守るよ」
その言葉に、涙が出そうになる。ハツキは本当に優しい。ハツキは絶対に、私を守ってくれるのだと、そう思った。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
堪えきれずに、涙を流しながらそう言った。そんな私を、昨日と同じようにハツキは抱きしめてくれた。
私は気づいていた。両親に会うのが怖いというのは、間違いなく本音だ。でもそれ以上に私は、ハツキと一緒にいたいから、まだ帰りたくないと思っていることに。
あとがき
エイナのハツキに対する感情は、かなり重いです。命の恩人ですし、当然ではありますけど。ただ、これは恋愛感情というよりは、安心させてくれる存在だからという側面が強いです。これがどう変わっていくのか楽しみですね。
ハツキがこんなにもエイナに優しいのかは次回で判明します。
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