きっとこれは運命の
死にたくない。私は心の底からそう思った。だけど、当然そんなことを思っても現実は変わらない。追ってくるモンスターはわたしの見逃すことなくその距離を詰めてくる。必死に走るが、躓いて転んでしまった。振り返ると、すぐそばにモンスターがいた。いやだ、まだ死にたくない。だってまだ、お父さんに謝れていないから。
あの日、些細なことで喧嘩して家出をした。けど、私はその日のうちに帰るつもりだった。だが、私は帰れなかった。私は奴隷商に捕らえられた。突然意識を失ったかと思うと、首と手足に枷をつけられ牢屋に入れられていた。同じような目にあった子供たちが何人もそこにいた。もう二度と家族に会えないかもしれないという現実から目をそらし、私たちは自らの心を慰めた。
その日、私たちは馬車に入れられ、運ばれていった。本当に二度と家に帰れないんだという実感が私たちから、生きる意志を奪っていった。そのまま街へ運ばれ、貴族に売られることになると思っていた。だが、そうはならなかった。
悲鳴が聞こえた気がした。それ以降も悲鳴が聞こえ続け、そして、それは姿を現した。馬車の壁が壊れ、外を見ると、何匹ものオオカミの魔物が周囲を囲んでいた。
その後は、よく覚えていない。ただ私は無我夢中になって走り出していた。奇跡的に私は、その包囲を抜け出すことができた。数分間もの間、私は逃げ続けた。そして、私は今にも喰われるのだとわかった。
すべてを諦めかけていたその時、一筋の風が、吹いたような気がした。私を食べようとしていた二匹のオオカミは突然その首を落とし、崩れ落ちていた。
何が起こったのか全く理解できずにいるわたしの前に、彼女は現れた。白金の髪に輝く緑の目、そして尖った耳を持つ、エルフの女の子がそこにいた。
(助けて、くれた? 私生きてるよね? 幻覚を見てるわけじゃないよね?)
目の前にいる彼女がわたしを見つめたまま何もしゃべらないため、これが幻覚なんじゃないかという思いが強まっていく。そんな中彼女がゆっくりと口を開いた。
「えっと、大丈夫? けがとか、ない?」
その声はどこまでも優しく、私を心の底から気遣ってくれているのが分かった。
「う、うん。その、ありがとう。えっと、なんで私を助けてくれたの?」
ハツキと名乗った彼女は驚くべきことにこの森に棲んでいるらしい。そのうえ彼女はどうやっても取れなかった枷を、いとも簡単にとって見せた。さっきオオカミを一瞬で仕留めたのも含め、彼女は私に想像できないくらいすごい存在みたいだ。
また、彼女は本当優しいと思う。見ず知らずの私を助けてくれたのを始め、泣いているわたしを抱きしめてくれたり、家に入れてくれようとしたり、今も、何度も振り返って私のことを気遣ってくれている。
きっとこれは運命の出会いというものなんだと思う。私にとってハツキは、間違いなく運命のヒトなんだろう。そう思いながら、私は彼女の後ろをついて行った。
あとがき
エイナ目線です。こういう経緯があって彼女はこの森に来ました。次回からはハツキ視点に戻りますが、エイナ視点の話もいくつか混ぜていきます。
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