初めての出会いは唐突に

 転生した日から大体五年くらいが経った。もしかしたらもっと経ってるかもしれない。長いときは一ヶ月くらい寝続けたこともあり、本当に時間の感覚が狂っているため、正直よくわからない。


 で、あれからいろんなものを作った。まずは家だ。記憶にある祖父母の家をほぼそのまま再現した感じだ。異世界の雰囲気にはちょっと合っていないかもしれないが、良い感じの和風建築の家だと思う。

 次は、防衛設備。害意のあるものは入れず、弾かれるといった仕組みの結界だ。害意の判断方法は、鳥たちの野生の勘的な危険感知を参考にした。作って以来一度も侵入を許していないため、精度は完璧に近いと思う。

 また、畑や家畜小屋とかも作った。作物は森林を巡っているうちに見つけた食べられそうなものを植えている。わたしは毒を食べても死なないため、実際に食べて大丈夫そうか確かめてみたり、見分けるための魔法を作ったりして分類した。多分、きっと大丈夫だと思う。家畜に関しては小屋を作っただけで何も飼っていない。必要があるときに捕まえようと思う。

 当然設備だけじゃなく、魔法もかなり作った。その中でも特に愛用しているのが飛行魔法だ。自らに風を纏わせることで浮かぶという、シンプルな方法だ。ただ、イメージを途切れさせると落ちるという欠点があったため、身に着けることで自由自在に風を纏うことができるブローチを作った。作った時、これ人に売れそうだなと思った。正直お金なんて使わないから、売ることは無いんだけど。

 空を飛べるようにもなったため、わたしはかなり広範囲を探索することができた。周囲に国をいくつか発見したが、眺めただけでまだ入ってはいない。常識とかは全く分からないし、正直怖い。人と交流しろとは言われているけど、前世を含め家族や病院の先生を除き、まともな人間関係なんてわたしは築けたことがない。そういうわけで、いまだにわたしの交友関係は鳥たちのみだ……寂しくなんてないから。

 5年くらいの時を過ごすうちに鳥たちが変わっていくのを実感した。この前まで会っていた子が急にいなくなるなんてことも何度もあった。命は限りあるものなんだと、彼らはわたしに教えてくれた。不老不死だからこそそういうことを正しく認識している必要があるのだと、そう思う。


 そんな日々が続いていたある日、鳥たちがわたしにそのことを告げた。獣人の女の子が、モンスターに追われているのを見たと。


『本当に? いつ、どこで見たの?』


 聞いてみたところ、2分くらい前に見て、ここからかなり近い位置にいるらしい。


(どうしよう。助けに、行く? 助けなきゃいけない理由は、わたしにはない。それに、もう襲われて死んでいる可能性だってある。わたしは……出会いを、大切に、か……うん、行こう。きっとそうすべきだよね?)


 わたしは家を飛び出すと迷いなく鳥たちの言っていた場所へと向かった。かなり練習したこともあり、森の中でもスムーズに飛ぶことができるようになった。結界を作った際にできた生命感知の魔法を用い、少女の場所を把握し、進んで行った。


(よかった、まだ生きてる。でも、動きが遅くなってる。急がないと)


 さらにスピードを上げ進んで行った先に、二匹の獣と、それを見て、怯えた表情で座り込む少女の姿が見えた。迷いなく杖に魔力を込めるとその獣たちの首にカッターを飛ばした。獣たちは崩れ落ち、少女は突然の出来事に困惑していた。

 わたしはその目の前に降り立ち、少女を見た。犬のような耳と尻尾を持ち、ボロボロの服を着ており、首と手足に枷をつけていたその少女は、わたしを見て大きく口を開けていた。


(…………どうしよう。どうやって話しかければいいんだろう? あれ、最後に人と話したのっていつだっけ? 異世界に来てからは鳥としか話してないし、話すって言っても直接意思を伝えてる感じだから、口を開いて話すの、神様と話した時が最後?……いやいやそんなわけが……あるね)


 久しぶりの会話に死ぬほど緊張しながら、恐る恐る口を開く。


「えっと、大丈夫? けがとか、ない?」

「う、うん。その、ありがとう。えっと、なんで私を助けてくれたの?」

「近くに、いるって、わかった、から。それだけ」

「それだけで? 近くにいたって、こんな森の奥深くに、どうして?」

「住んでる、から。この森に。ちょっと、さわる、ね。枷、はずして、あげる」


 わたしは少女の首と手足についていた枷に触れると、それを取り外した。それを見て、少女はとても驚いていた。


「……すごい。どうやっても外せなかったのに。ありがとう、本当にありがとう‼」


 そうやって喜ぶ彼女の笑顔を見て、助けてよかったと、心底思う。


「ねぇ、何で、こんなところに、いる、の?」

「……逃げてきたの。私、奴隷だから。馬車がモンスターに襲われて、運よく私だけ逃げれたの……でも、他のみんなは……」


 そう言うと、彼女は涙を流し始めた。いきなり泣き出したので驚きつつも、わたしは恐る恐る彼女を抱きしめた。


「つら、かったね。だから、好きなだけ、泣いて、良いよ」

「うん……うん……」


 数分間、彼女は泣き続けた。それでも彼女の涙は枯れることは無いのだろう。泣き疲れたのか、彼女は座り込んだ。


「大丈夫? えっと、どう、する? これから。わたしの、家に、来る?」

「……いいの?」

「うん。広いし、安全、だから」

「……じゃあ、お願いします‼ えっと、私はエイナです。お姉さんの名前は?」

「わたしは……」


(名前……考えてなかった。え、どうしよう?)


 彼女は、黙ってしまった私を見て、聞いちゃダメだったのかと思っていそうな顔をしていた。滅茶苦茶焦りつつも何とか思いついたその名前を口にした。


「わたしは、ハツキ。よろしく、ね」





あとがき

 なんか名前思いついたので投稿します。理由は正直ないです。完全に語感だけで選びました。

 ハツキの話し方は前世の時からの癖です。喉が弱く、一気に話すことができなかったため、あんな感じになっています。神様と話していたときは、そういう体質が改善されていたのと、テンションが上がっていたこともあり、普通に話せていましたが、5年間誰とも話さなかったことで、緊張という形で再発しました。人と話すときは、今後もこういう話し方になります。ただ、テンションが上がると普通に話せます。

 これから始まる、ハツキとエイナの物語をお楽しみください。

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