命を奪うということ
あれからしばらくして、いくつかの魔法や道具を作ることができた。その中でも特に使いやすそうなのが二つできた。一つ目は風で作ったカッター。効率よく作れて、視認しにくく、その上威力も高いと、相手を仕留めるのに向きすぎているものだ。威力に関しては、ちょっと高すぎる気もすると木をまとめて3本斬り落としたのを見て思う。
「……これは、絶対に人に向けちゃいけないやつだ。気をつけなきゃ」
そしてもう一つは、空気の防壁だ。風をカッターのように固めるのと同じ原理で、作れた。視線をふさぐことなく防御できるためかなり使いやすい。
こうやって魔法をいくつか作っていくうちに、わたしはどうやら風を操るのに向いていることが分かった。水や火を操るのに比べより早く、正確に操ることができた。
(私自身に風を操る適性があるのか、エルフがそう言う種族なのかはわからないけど、これからは基本的に風を使っていく感じにしよっか)
また、創造魔法の欠点として、同じものを何個か作る場合に、大きさなどにかなり差ができてしまうことが分かった。イメージで作っている分、こういうことが起こりやすいのだろう。
そのばらつきをどうにかするために、わたしはある道具を作った。それは――
「魔法使いっていえば、やっぱり杖だよね」
自分と同じくらいの長さをした杖だ。仕組みとしては、物を作る際に魔力をこれに通すことで、出力を一定にするといった感じだ。
「なんというか、素手でやるよりも魔法に指向性を持たせやすいというか、イメージがしやすくなるね」
こんな感じで最低限だが、戦える用意ができたので、森林の探索を開始することにした。そして、歩き始めて一分もたっていないのにわたしは初めてモンスターに遭遇した。
(すごく大きな、なんだろう。虎から模様が消えて大きくなったみたいな、それはもう虎じゃないかな? すごくわたしのことを見てる。食べようとしてるのかな?)
当然のようにその獣は目の前にいるわたしに向かって飛びかかってきた……が、わたしを喰らおうとしたその口はわたしを捉えることは無く、虚空に衝突した。その大きな虎みたいなのは、何が起こったのか分からず混乱しているように見えた。再び突撃しても結果は変わらず、虚空へとぶつかり続けた。
(びっくりした。この空気の壁ちゃんと通用したね。うん、よかった……分かってはいたけど、友好的に接することは、できないみたいだね……だったら)
わたしは杖に魔力を貯め、風のカッターを作ると、足を狙って発射した。 そしてそのカッターは獣の足を斬り落とした。
(こっちも、ちゃんと通用するね……どうしよう、足を斬り落とした時点で、もうこの子は長くない、よね? なら、殺してあげるのが、優しさ、なのかな?)
足を斬り落とされた獣を見つめる、その眼にはいまだに私に対する敵意を宿していた。わたしは、覚悟を決めると再び杖に魔力を集めた。
「ごめんね。わたしはあなたを殺すよ」
カッターを放ち、その首を斬り落とした。あっけなく死んだそれを見つめ、思う。
(わたしが、殺したんだ。今、この子を。相手が襲ってきたのは事実だけど、食べられないからっていつか諦めて帰ったかもしれない。でも、わたしは殺した)
魔法の実験という名目でわたしは命を奪った。そもそもどうせ殺すなら足なんて斬り落とさずに一撃で仕留めればよかった。中途半端な自分に嫌悪感を感じる。でも、後悔はない。しちゃいけない。それこそが命を奪ったことへの責任だと思うから。
(今のではっきりわかった。この世界は、日本と比べ物にならないくらい命が軽い。わたしもこの空気の壁がなかったら、不老不死じゃなかったら、今ので死んでいた。いつか、人の命もわたしは奪うことになるのかな? それは、いやだな)
たとえ襲ってきた相手だとしても、相手がモンスターだったとしても、わたしは命を奪ったのだとはっきりと理解した。
あとがき
ほのぼの感のない話になっちゃいましたね。不老不死だと、命に対する価値観が低くなるだろうなと思ったので、早い段階で命の重さを実感することになりました。
次回からはちゃんとほのぼのするので安心してください。
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