第33話 これからもずっと一緒に

「今回の一件、龍門寺京太郎の狙いはパワーバランスの調整だろうな。関西連合が壊滅に追い込まれた今、向こうの残党は龍門寺の拡大を恐れている。しかしここで龍門寺が解散すれば日本から巨大なヤクザ組織が消える。──ベルリンの壁崩壊。まさに東西ドイツの統一のように、綺麗な日本として統一される。龍門寺京太郎の描いた絵は冷戦終結からの大規模軍縮だろうな。北の方の様子は知らないが、このご時世を考えれば少なくとも日本に龍門寺と関西連合に並ぶような組織は二度と現れないだろう」


 そんな壮大な話、俺には理解できない。今更になって、父さんって実は凄い人なのでは? などと思い始めた。


「しかし、空白地帯となった関東に外国勢力がなだれ込んでくるのは必至だ。しばらく私も忙しくなるだろう」


「ご苦労様です」


「……何が言いたいかというと、残念ながら俺は君たちの恋愛に口を挟む余裕すらないだろうということだ」


「…………!」


「後は二人で話し合ってくれ」


 そう言い残し、朝日奈正道はリビングを出ていった。

 その不可解な行動を不思議に思い振り返ると、そこにはパジャマ姿の咲良がいた。


「咲良!」


「京佑! ──あ、いや、この格好はだな!? さっき外の騒ぎを聞いて目を覚まして起きたばっかりで……ってうぉ!?」


 俺は咲良を強く抱き締めた。強く。二度と離さないように。


「心配かけたな。私はもう大丈夫だ。お前が来てくれたから、もう大丈夫だ」


「二度と、あんな目に遭わせないから……!」


「分かった。ありがとう。……だから泣くな! お前は強いぞ!」


 そう言いながらも、咲良は泣きじゃくる俺をその胸に抱き、優しく頭を撫でてくれた。


「京佑君」


 後ろからそう話しかけてきたのは咲良の母親だった。

 俺たちはとんでもなく気まずい気持ちになりながら、慌てて平静を装った。


「京佑君のお家も大変なんでしょう? だったら今日、ウチに泊まっていったらどうかしら」


「「え!?」」


 俺と咲良の声が重なる。


「あの人もしばらく家を空けることになるだろうし、そこは大丈夫よ。それに、京佑君が傍にいてくれれば私も安心して仕事に戻れるから」


 そういえば咲良の母親はバリキャリだった。仕事に戻りたいというのは本心だろう。


「た、確かに母さんにこれ以上迷惑はかけられないし? 京佑がどうしてもと言うなら私も構わないぞ?」


「咲良……」


「決まりね! それじゃあ私はお客さん用の布団を出したら仕事に行くわ。咲良の部屋に出しておけばいいわよね?」


「ふぁい!? あっ、いや、僕はどこでも……リビングでも……」


 思わず変な声が出た。


「本当にそれでいいの? あの人は外泊とか絶対許さないタイプよ? それに私も今から仕事に行くなら帰るのは深夜になると思うんだけど……」


「あっ……じ、じゃあそれで、お願いします……」


 俺と咲良は二人して顔を真っ赤にしながら俯く。


「こんな時こそ、せっかくの機会なんだから楽しんじゃいなさい!」


 そういえば咲良の母親はかなりの自由主義者だった。


「あ、でも避妊はちゃんとしなさいね?」


「──ッァ!? 咲良、俺ちょっと買い物の用事思い出したから一旦外出るね?」


「あ、ああ! 私はその間に昼食を作っておいてやろう! ゆっくり買い物してこい!」


「なんだ? 今などという言葉が聞こえてきたぞ!?」


「警察に捕まったら容疑をしなさいって言ってたの! ──ほら早く仕事に行きなさい!」


「いや待て 、この男が帰るのを見届けてから──」


「はい行ってらっしゃい! ──それじゃ、私も行くわね。バアーイ!」


 手を振りながら咲良の母親は朝日奈正道を連れて出て行ってしまった。嵐のような人だった。


「じ、じゃあ俺も買い物に……」


「あ、ああ……。その……待ってるぞ……」


 咲良は俯きがちに、俺の裾をちょっと引っ張ってそう言った。







 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆







 その晩、俺たちは初めて唇を重ねた。


「──全く、どうしてそれが最後なんだ!」


「初めての最後に初めてって、なんかロマンチックじゃない?」


「……もう!」


 咲良が俺の首元に噛み付く。それは触れ合う肌の温もりよりも熱い、燃えるような甘噛みだった。


「ここまで、長かったな」


「どうした急にしみじみと。ヤリ捨てする気なら許さないぞ」


「違う違う! ……ただ、幼稚園の頃から今日までずっと一緒にいて、今こうしているのって不思議だなって」


「何を言っているんだ。これからもずっと一緒にいるんだろ? 何も変わらないじゃないか」


「ふふ。そうだね」


 俺は絹のような彼女の髪に手をやり、もう一度キスした。


「……! そういえば、結局咲良の幼稚園の頃の将来の夢ってなんだったの?」


「……本当に覚えていないのか?」


「うん」


「『お前のお嫁さん』だバーカ!!!」





     ──── 完 ────


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


最後までお読み頂きありがとうございました!是非とも忌憚なき感想、評価、レビューをお願いします!好評でしたらいくつか追加のアフターストーリーの構想もありますのでお楽しみに!


最後に宣伝となりますが、拙作『隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーと知っているのはクラスで俺だけ』がカクヨムコン恋愛部門にて読者選考を突破しました!よろしければ私のプロフィールよりそちらもご一読ください!

また、来月より新作投稿予定です!私をフォローしてお待ちください!


それではまた別の作品でお会いしましょう!

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女帝と恐れられる僕の彼女が本当は可愛いことをクラスの皆は知らない 駄作ハル @dasakuharu

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