第29話 命を懸けて守りたいもの(6)

「貴様ら何をしている!」


「け、警察やと!? なんでここに!?」


 ヤクザで溢れかえる埠頭に、サイレンも鳴らさず大量の警官が乗り込んできた。パトカーに覆面、更には装甲車ととんでもないラインナップだ。

 暴徒鎮圧用のシールドと警棒を構える隊員たちの後ろにはスーツ姿の刑事も複数いる。


「龍門寺テメェ!」


「ウチじゃねえ! お前らじゃないのか!?」


 父さんと関西連合の組員が言い争っている間にも倉庫内へ警官が続々とやって来る。

 そしてさらに奥から一人の男の叫び声が聞こえてきた。


「どこだ咲良ァァァ!!!」


「と、父さん……!?」


 そう。警官を押しのけてやってきたのは咲良の父、朝日奈正道だった。


「無事か咲良!? ──誰だ横の汚いのは! ……!? 咲良、服がボロボロじゃないか! さてはお前よくも咲良を!」


 警官の制止も聞かずに一人で突っ込んできた朝日奈正道は俺を咲良から引き剥がす。


「待ってくれ父さん! 違う! その男の子は、京佑は私の彼氏だ! 私を助けに来てくれたんだ!」


「かっ! かかかかかかか彼氏だとぉぉぉぉぉぉ!?」


 咲良、その一言は悪手だったよ。


「待て、まさか貴様があの……! 貴様、龍門寺京佑だな!? まさかとは思ったが、あれが龍門寺京佑のことだったとは!」


 何を言っているかさっぱり分からなかったが、朝日奈正道の中では俺が何者か分かったらしい。最悪の結果だ。


「まあいい! 貴様のことは一旦後だ! ……それより咲良、咲良は無事か!?」


「あ、ああ……。何ともない……。しかし、どうやってここが……? スマホは奴らに取り上げられて……」


「ヒールの中にGPSが入っている! その辺の店ならまだしもこんな時間まで埠頭にいるのはおかしいと思って部下を連れてこれるだけ連れてきた!」


 そこまでいくと歪んだ愛を超えた狂気の沙汰だ。だが、今はその狂気に感謝したい。咲良を無事に救い出すということにかけては、朝日奈正道の力がなければ達成できなかっただろう。


「とにかく! ここから早く帰るぞ! ──お前ら! ここにいる全員捕まえろ! ムショにぶち込め!」


「はっ!」


 警官たちは一斉に虎澤を始めとする関西連合の組員たちを取り押さえる。

 流石に天下の桜の代紋に逆らうような人間はおらず、次々にパトカーへ連行されていった。


「そしてそこの男が龍門寺京太郎だな。当然お前にも来てもらうが、まずはこの周りにいる組員どもを帰らせろ」


「……選択の余地はないようだな。──秀次! 全員引き上げろ!」


『しかしそれじゃあ親父が……!』


「構わん! ……組のことは頼んだぞ」


 そう父さんが言い切り通話を切ると朝日奈正道はすぐにそのスマホを没収した。


「龍門寺京太郎。貴様を女子高生誘拐及び監禁事件の容疑者として連行する。龍門寺京佑、当然貴様も来てもらうぞ」


 父さんは朝日奈正道が直々に手錠を掛けた。俺は手錠こそなかったが両脇をスーツ姿の刑事に固められ、無理矢理連行される形になった。


「待ってくれ父さん! その二人は何も悪いことをしていない!」


「ヤクザが悪いことをしていないだと……!? コイツらはな! 存在自体が悪なんだ! 咲良、お前と一緒にいてはならない存在だ!」


「そんな……! 私の大切な人になんてこと言うんだ!」


 咲良は朝日奈正道の背中を殴りつけた。


「いい加減にしろ!」


「…………!」


 咲良の必死の抗弁も、朝日奈正道の一喝で踏みにじられる。立ち竦んだ咲良はそれ以上の言葉を発することができず、泣き腫らした目でただ俺の後ろ姿を追っていた。


「連れて行け」


「そんなことが許されてたまるか! ──触るな! ……待ってくれ京佑! 行かないで……!」


「ありがとう咲良。……じゃあね」


 女性警官に付き添われ安全な場所へ退避させられる咲良の様子を見送り、俺は大人しく朝日奈正道の部下に投降した。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/03/21 08:00頃更新予定!

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