第27話 命を懸けて守りたいもの(4)

 八番倉庫内部には、予想通り大量の関西連合組員が待ち構えていた。

 そして──


「咲良!」


「京佑!」


 倉庫の二階部分、荷揚げ用クレーンの操作室の椅子に鎖で縛りつけられる咲良の姿があった。

 見たところ目立った乱暴の形跡は見られなかった。


「待ってたで〜龍門寺京太郎〜!」


 関西連合組員たちの中央から金髪隻眼のイカつい中年が姿を現した。


「お前、虎澤風雅とらざわふうがか……?」


「誰? 父さん」


「関西連合のトップ、虎澤組の四代目組長だ」


 つまりは敵の親玉ってことか……。


「お前の目的はなんだ! 今回のウチとの戦争の目的は!」


「ワシはなァ、お前と会いたかったんや〜!」


「なんだと?」


「群雄割拠の関東をたった一代でまとめあげたとびきりの極道! ワシはただ自分より強いヤツと喧嘩がしたくてこの世界に来たんや! そして気がついたらこんな所まで来てしもた」


 虎澤はオールバックの金髪に手櫛を通し、髪を整えながら歩き回る。


「せやのに、偉くなってしまったら喧嘩ができんくなったんや〜! 関西に敵が居らんようになったからなァ! ……だったら次は東やろ?」


 俺たちの黒スーツとは対象的な趣味の悪い白スーツを翻し、虎澤は父さんの方を見つめた。


「しっかし龍門寺と戦争した所で、下っ端にチャカ持たせてドンパチし合うなんてつまらんこと、ワシはしたないんや! そないな面倒で楽しくないことやって決着がついたって、それじゃあ喧嘩やあらへん! だからお前と直接会いたかったんや〜!」


「訳の分からねぇ野郎だな」


「だ、か、ら! お前と俺でタイマンの喧嘩で決着をつけようや言うとるんや! それなのにそっちのオマケはなんや」


 虎澤の矛先がこちらへ向いた。


「龍門寺京佑。お前らが人質にしようとした人間だ」


「ほう、お前がな……」


「彼女を解放しろ。人質は俺でいいはずだ」


「まあ確かにお前はどうでもええ。だが──」


「さっきはよくもやってくれたな……」


「お前ら……」


 虎澤の後ろから、例のスキンヘッドたち四人組が現れた。


「そっちの因縁はそっちで勝手にやってくれや! 龍門寺京太郎、お前は俺とやり合うんやで!」


 虎澤はいきなり父さんに殴りかかった。父さんはそれを軽々と躱し、俺と背中を合わせる。


「一体四……。逃げていいんだぞ、京佑」


「自分の女攫われて、その女の前で逃げられるとでも?」


「……ふっ! そいつは面子が立たねぇな!」







「「オラァァァ!」」


 俺と父さんはそれぞれ一気に殴りかかった。戦いの火蓋は、遂に切られたのだ。


 少なくとも、虎澤の言う通り周りの下っ端たちを動かすつもりはないようだ。

 だが関東一らしい父さんでも関西一の虎澤を相手にしていては俺を援護する余裕もないだろう。俺はこのスキンヘッドたちを一人で相手にしなければならない。


「そういえば名乗ってなかったな。俺は虎澤組若頭補佐の──」


「黙れハゲ。これから死ぬ人間の名前を覚えてやる趣味はないんでな」


「──!? このガキャァ!!!」


 安い挑発に乗ったスキンヘッドが単騎で突っ込んできた。


「ボベバァッ!?」


 俺は怒りに任せた雑な拳を見切り、すれ違いざまに顔面に拳を叩き込んだ。

 自分で走った勢いがそのまま顔面に突き刺さったスキンヘッドは一撃でノックアウトされた。


「やるやないか。流石は龍門寺の跡取りや。二人で行けコウキ、ケイスケ」


 達磨は後方で俺たちの様子を伺っている。あの冷静な指揮官は厄介だ。


 コウキ、ケイスケと呼ばれた男たちは、路地裏で戦ったスキンヘッドの相方とゴミの山でノビていた男だ。

 スキンヘッドの相方ことコウキはそこまで強くない。問題は強さを測れていないケイスケの方だ。


「その構え……キックボクシング……? いや……ムエタイか……」


「ほお、詳しいの。これはワシを馬鹿にしてくれた落とし前じゃァ!」


 ケイスケは独特な構えから俺の頭目掛けて回転蹴りを繰り出した。

 ムエタイのキックはガードを突破して脳を揺さぶる。絶対に受けてはならない。


「ふぅッ──」


「これを避けるか……。ほならこれはどうじゃ!」


「ぐ……」


 ケイスケは俺に休む暇を与えず、間髪入れずに攻撃し続ける。相当な訓練を積んでいるらしく、全てを避けることは出来ずに何発か貰ってしまった。

 人間の身体の構造上パンチよりもキックの方が体重が乗る分威力が高い。そのキックに特化したムエタイのキックをもらった俺の足には、たった数発で既に相当なダメージが蓄積している。


 それに後ろからちょろちょろと仕掛けてくるコウキも地味に厄介だ。


 ここはどちらかを先に──いや、ここは……


「どりゃァ!」


「なんや!?」


「ムエタイに寝技はなかったな?」


 俺はケイスケの攻撃を掻い潜り一気に距離を詰め、そのままの勢いで押し倒した。

 そして馬乗りになる形でケイスケを押さえつけ肩を固める。


「ぐがぁぁ! ……コウキ!」


 一体一ならともかく、一対二で寝技は時間がかかりすぎる。最後まで極めきれない。


 ……それは当然分かっていたさ!


 闇雲に蹴りを繰り出し、俺の寝技から逃れようとしたケイスケ。

 丁度そのタイミングで俺は敢えて寝技を緩め、身体の位置を入れ替えた。


「グガっ!?」

「ボヘェ!?」


 ケイスケの蹴りがコウキの脇腹に、コウキの拳がケイスケの顔面にヒットした。


 呻くコウキを横目に、今度はきっちりと落ちるまでケイスケに寝技をかけ決着をつけた。


「さあ次は……」


「こ、降参や……」


「ムエタイのキックをノーガードとはな……。腎臓が破裂してたら死ぬぞ。すぐに病院に行くことだな」


「あ……ああ……うう……」


 これで三人。残すはあと一人。


「最後はお前だな百貫デブ」


「へっ!望むところやで……」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/03/19 18:00頃更新予定!

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