第25話 命を懸けて守りたいもの(2)

「クソッ! 面倒なことになったな……」


「ど、どうなっているんだ!?」


「ごめんね咲良、巻き込んだ。これはこっちのゴタゴタだ」


 咲良はローヒールを履いている。これ以上走らせることはできない。


「聞こえているか秀次」


『はい坊ちゃん。関西連合ですね。今どこですか』


「──駅近くの裏路地だ」


『俺と翔馬はすぐに行けます。敵は何人ですか』


「四人だ。だが他にもいるかもしれない」


『近くの組からも挙って動員かけます。少しだけ耐えてください。通話はこのままで』


「ああ。頼んだ」


 耐えると言ったってどうする? 表の通りに出て襲いにくくするか?

 いや、向こうはそんなことお構いなしだから直接俺を狙ったんだ。俺だけならまだしも、咲良をそんなヤクザ同士の騒ぎの中心に放り込めば、彼女の将来に差し障ることがあれば大事だ。


「おい! 向こうや!」


 そう考えている間にも関西連合の奴らはこっちへ向かってくる。

 これは、覚悟を決めなれければならなそうだ。


「咲良はここに隠れていて。危ないと思ったら向こうのビルに逃げてお父さん──警察を呼んで」


「それでは京佑が……!」


「俺のことは気にしなくていいから。それじゃあ」


 俺は咲良を置き、自ら四人組の前へ打って出た。


「目的は俺なんだよな?」


「そうや! ちょこまかと逃げ回らんで観念せいや!」


「逃げも隠れもしないさ。……もちろん、黙って攫われるつもりもないがな」


 俺は拳を構え向かい合う。この狭い路地なら四人に囲まれて袋叩きにあうことはないだろう。

 もちろん不利な状況であることは変わりないが……


「いてまうぞお前ら!」

「うす!」


 見かけによらず達磨がこの部隊の指揮官らしい。達磨の号令で他三人が一斉に襲いかかってきた。

 俺は近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。


「ぐあっ!」


 向こうにとっても逃げ場のない路地ではこれすら避けることができない。

 三人はドミノ倒しになり一番下になった男はコンクリートに頭を打ち付けすっかりノビている。


「やってくれるやないか!」


 起き上がったスキンヘッドが右ストレートを繰り出した。

 俺はそれを余裕で躱すが、続けざまの左ローキックが膝に入りバランスを崩した。


「オラッ!」


「ふん!」


 なんとか敵の膝蹴りが来るよりも先に溝落に一発拳を叩き込み、一々交換でこの場を乗り切った。


「噂通りの強さやな……」


「どんな噂だよ……」


 向こうも関東に乗り込んで来るだけはある手練だ。油断すればすぐにやられる。俺の経験がそう語っていた。

 とにかく俺は耐えればいい。秀次や翔馬、そして他の組員が到着すればこの状況はひっくり返る。


「こちとら時間がないんや……! 一気に行くぞオラァ!」







 それから俺は徹底的に防戦に徹した。


 まだコイツらが武器を持っていなくて助かった。この二人の猛攻を凌ぐだけでも必死だ。今はノビているゴミ山に埋まる男がいつ目覚めるかも分からない。


 俺の体力も限界だ。こんなことなら空手や剣道を続けていれば良かった。


「はあ……はあ……! まだなのか秀次……!」


「やるやないか……。だがなッ──」


 スキンヘッドと揉み合っている隙に背中に蹴りを入れられる。瞬間的に下半身が痺れ、俺は膝から崩れ落ちた。


 その時のことだった。大通りの方から、逆光の中を走る二つの人影があった。


「坊ちゃん!」

「ご無事ですか!」


「秀次! 翔馬!」


「クソ! 流石に時間がかかりすぎたか!」


 やっと見えた光明。それは希望の光、そのはずだった。


「やっと見つけたで〜!」


「京佑!」


「咲良! クソ外道がッ!」


 俺が目の前の敵とやり合っている間、あの達磨は外から回って咲良を探していたらしい。達磨の手にはナイフが握られている。

 達磨に捕まった咲良は涙を浮かべながらこちらに助けを求めている。


「龍門寺のガキは強すぎる! 面倒だ諦めろ! ──そして聞け龍門寺のガキ! この女を預かった! 無事に帰して欲しければ今日の二十二時、八番埠頭倉庫に来いとお前の父親、龍門寺京太郎に伝えろ! もちろん丸腰で、一人で来いとな!」


「お前その子が誰の娘が分かってやっているのか……!」


「知らんわボケ! 退くぞお前ら!」


「うっす!」


 達磨たちは咲良を連れて逃げようとする。


「京佑!」


「咲良!」


「おい待てお前ら! 逃げられると思ってるのか!?」


「待て秀次……」


「坊ちゃん……」


 咲良を人質にされている以上、迂闊な行動はできない。俺たちが奴らを捕まえるより前に、あのナイフは咲良の喉に突き刺さるだろう。


「と、とにかく、ここは一度本部へ戻りましょう!」


「クソがッ!!!」


 命に代えてみれば、騒ぎになろうがどうなろうが安いものだった。彼女の安全を第一に考えて行動するべきだった。

 五十嵐組との一件で、俺は自分が大きくなっていた。自分一人で解決できると思い込んでいた。


 これは俺の驕りが招いた結果だ。


 俺は秀次と翔馬の肩を借り、屋敷まで帰った。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/03/17 09:00頃更新予定!

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