第23話 一緒にいる理由(3)
それから俺たちは毎週末デートを重ねた。今まで出来なかったことを取り戻すように色々な場所へ出向いた。
電車に乗って隣の県まで遊びに行ったりと、今までの俺たちでは考えられないくらい大胆なこともした。
もちろん、お互いにずっとベッタリという訳ではない。
咲良も友人とカラオケに行ったり、普通の女子高生のように遊びに出掛けていた。俺もたまに流星の練習ライブに誘ってもらい、見に行ったりした。
そんなことができたのも互いの親が忙しくなっているからに他ならなかった。
もっとも、警察とヤクザが忙しいというのは一般市民にとってはたまったものではないが、俺たちにとっては結果的に良い方向へ運んだ。
龍門寺組は無事に五十嵐組と同盟を結んだ。
盃ではなく、俺に免じて口約束で同盟の内容が交わされた。と言っても明確な取り決めをせず、互いにその勢力圏を保障し、外部とは手を結ばないというだけの同盟だった。
俺は幸か不幸か内側の人間であるためその内容まで知っているが、外部の警察にとってみれば関東一のヤクザと東北一のヤクザが手を組んだというとんでもない事態だ。
警察も週刊誌も大忙しで両組長を追っており、組員もその対処に当たっているという状況だ。
「もうすぐ体育祭だな」
「そうだね。生徒会は忙しくなりそう?」
「うーん。できるだけ京佑と過ごす時間は確保したいと思っているが……、しばらくはいつもの近くのデパートでデートだな」
「デートはするんだ……」
「当たり前だ! それが最重要だからな!」
「学生の本分は勉強、じゃなかったっけ?」
「いつだかもそんな言葉で私を弄んだな? ──今の私は勉強も、恋愛も、どちらも全力だ! 人生は一度しかないのだからな!」
それは彼女にとっての成長なのだろう。俺が彼女をライブに連れ出したあの日から、止まっていた俺たちの歯車は動き出したのだ。
「──それじゃあ、また明日。ここで」
「ああ。今週末のデートコースは私に任せてくれ。次の数学も真面目に受けろよ」
「はいはい」
変わらない日常。
それが永遠に続くことなど有り得ないと、分かっていた。特に俺のようなヤクザ者の血縁者となれば、平穏な日常など簡単に壊せるし、壊されると知っていた。
知っていたはずだったのに……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「そういえば坊ちゃん、この前のお金はどうしたんですか? 風俗からはそれらしい人間が来たって連絡はなかったんですが……」
今日もいつものようにデパートに行こうと着替えていると翔馬に話しかけられた。
普段は上品な感じだが、暑くなり半袖を着ると腕の筋肉やチラリと覗く刺青から彼が正真正銘のヤクザなのだと実感する。
「やめてくれよ翔馬。そういうのが嫌だから別の店にしたんだ」
「おっと、これは気が利かなくてすみませんでした。お金は気にしなくていいんですけど、これ以上の融通はちょっと難しそうなんで、節約してくださいね」
「何かあるのか?」
「ええ。ちょっと関西の連中ときな臭いことになってまして……。軍資金が必要なんですわ」
「ふーん」
またくだらないことをやっているな、と思った。
確かに最近屋敷では「関西連合」だとか「抗争」だとか不穏なワードが飛び交っていた。まあでも俺には関係のないことだ。五十嵐との同盟がこれを見越してのことだとしても、俺はキチンと自分で落とし前をつけた。
「坊ちゃんも十分強いですけど、気をつけてくださいよ。鈍ってるようならまた鍛えるんで裏庭に来てください」
「俺は抗争には参加しないから勝手にやってくれ。じゃあな」
「あの五十嵐の本部で大立ち回りを見せた坊ちゃんがいれば百人力なんですがねぇ……」
俺は翔馬の言葉に後ろ手に手を振って応じた。
「今日もお出かけですか?」
「……暑苦しいぞ秀次。そろそろ諦めて夏服に着替えたらどうだ」
屋敷を出ようとした時、玄関で今度は秀次と出会った。
服装を一番に気にする彼はもう六月も下旬だというのに未だにスーツにジャケットスタイルを貫いている。彼にとってはそれが正装らしい。
「これはちょっと走っただけなんでね! まだこれでイケますよ」
「上着を脱いで袖を捲っても十分カッコイイと思うぞ」
「おっ? まさか坊ちゃんからファッション指導が入るとは! 最近自分で服を買うようになりましたもんね。今日もそれですか?」
「まあな」
咲良とのデートでは俺の服を買うことが多くなった。自分は母親が買ったものを着ている分、俺を着せ替え人形にして楽しんでいるらしい。
今日着ている服も、つい先週買ったものだ。
「俺は坊ちゃんがファッションに目立てて嬉しいですよ! 落ち着いたらまた一緒に服買いに行きましょうね」
「……本当に忙しそうだなお前たち。そんなにヤバいのか?」
「……坊ちゃん、チャカ持っていきます?」
「え……」
ちょっと世間話のつもりで振った話題に拳銃が出てきた俺は思わず固まってしまった。秀次は真剣な顔でこちらを見つめている。
「じ、冗談はやめてくれ。もう行く。じゃあな」
「はは! そうです冗談ですよ坊ちゃん! 俺がそんなもの持っている訳ないじゃないですか! お気をつけて〜!」
そう笑う秀次。
なあ、お前が持っているそのトランクケースには何が入っている?
そんなこと、俺に聞けるはずもなかった。
やめだやめだ。考えるだけで頭が痛くなる。
父さんたちには勝手にやらせておけばいい。俺はただ、普通の高校生のように、これから咲良とデートなのだ。余計なことに巻き込まれたくない。
俺は逃げるように屋敷を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
次話2024/03/15 18:00頃更新予定!
評価は後から変えられます!星1でも嬉しいので今のところの評価を是非お願いします!
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