第15話 デート(2)

「最後にこのプリクラというものを撮ってみたいのだが……」


「いいよ。やってみようか」


 俺はお金を投入し咲良と共にプリクラ機に入る。


「い、意外と狭いんだな……」


「これはカップル向け──つまり二人用だからね。隣に友達向けの大人数用のもあったけど……敢えて咲良がこっちを選んだと思って何も言わなかった」


「わ、私がそんなこと知っているはずないだろう! ……ま、まあ? 結果的に合っていたのだからいいけれど……」


 咲良は先程までの某太鼓ゲームで乱れた髪を整えながらプイと顔を背ける。

 その間に俺はポチポチとタッチパネルで設定を済ませておく。


『さあ、撮影が始まるよ! カメラの位置を調整して、ポーズを決めてね!』


「も、もう始まるのか!」


 機械音声と画面に表示されたカウントダウンに急かされ、咲良は慌ててワンピースの裾や襟を正す。


『撮影開始! 3・2・1!』


「待ってくれポーズはどうすれば──」


 俺は適当にピースをしたが、ポーズを決め損なった咲良は証明写真のように直立不動の状態で一枚目が撮影された。


「ピースでいいんだよこういうのは。……それとも、二人で大きなハートでも作る?」


「そ、そんな恥ずかしいこと私がするはずないだろう!」


『さあ、二枚目の撮影が始まるよ!』


「ほら、カメラの方見て、笑顔でピース」


「ピ、ピース……」


『3・2・1!』


 二枚目はあまりにぎこちない笑顔と自信なさげに微妙に折れたピースという、いささか卑猥な雰囲気のある写真が撮られた。


「だ、駄目だッ! 最初から撮り直そう! な? 京佑!」


「まあまあ、一旦最後までやってみよ?」


『さあ、最後の撮影だよ!』


 今度こそ俺たちは落ち着いて、プリクラ機の内側に張り出された撮影例を参考に無難なポーズを試す。


『ポーズは決まったかな? それじゃあいくよ! 3・2……』


 しかしこのままでは面白くない、初めて撮るプリクラなのだからどうせなら思い出に残るようなものにしたいと思った。

 俺は咲良と組んでいた腕を外し、素早く彼女の背後に回る。


「な、何をして──きゃあッ!」


『1!』


 最後の一枚は、俺が咲良にバックハグして顔を並べるようなポーズでシャッターが切られた。


「随分と可愛らしい声が出たね」


「撮り終わったんだから離れろ!」


「ゴハッ!」


 俺はみぞおちに咲良の鋭い肘打ちを食らい、よろめきながらプリクラ機の外へ出た。


『落書きタイム! 写真を選んで好きなようにデコっちゃおう!』


「さ、咲良が描きたいように描いていいよ……」


「ほう、これが撮れた写真か……。かなり加工されて原型を留めていないな。これ以上加工の必要はないだろう」


「じ、じゃあ、せっかくだから、今日の日付けだけ空いているところに書いといて……」


「分かった」


 咲良はタッチペンを持ち、まるで証拠写真かのように年号から曜日まで仔細に書き記した。


「はは……。じゃあ最後にどの写真を一番大きく印刷するかだけ選んだらこの印刷ボタンを押して」


「じ、じゃあこれにしようか……」


 咲良は恥ずかしそうに一番最後の写真を選んだ。

 俺も、彼女が一番自然な表情をしていて良い写真だと思う。頬を染めながらこの写真を選ぶ彼女の横顔も写真に収めたいぐらいだ。


『落書きタイム終了! 印刷中! 取り出し口の前で待っていてね!』


 機械案内がそう告げると程なくして光沢紙に印刷されたプリクラが二枚取り出し口に落ちてきた。


「はいこれ、咲良の分」


「ああ。ありがとう……」


 咲良は完成したプリクラを心底嬉しそうに眺めている。


「そこのテーブルで好きな大きさに切れるみたいだね」


「そんな! 大切な写真なのにどうして切ってしまうんだ!」


「ほら、選んだ大きい写真だけ切るとさ、スマホのケースに入れるのに丁度いい大きさになるでしょ? まあ咲良のスマホケースは手帳型だから、半透明のケースで外から見る、みたいなことはできないけどね」


「ああ、あれはそういうことだったのか……! そうだな……、私はこのICカードを入れているこのポケット部分に入れておこう!」


 納得した咲良は意気揚々とプリクラを二つに切り分け、バックハグの写真をスマホケースに、残りを財布に仕舞った。

 特にバックハグの方は本当に気に入ったらしく、ICカードの後ろに隠した写真を何度も取り出して見てはすぐにまた大切そうに仕舞う、を繰り返している。


「──どうでしたか、プリクラは?」


「そうだな……。京佑が妙に手馴れていてどことなく前の女の香りを感じたよ」


「いや咲良それは……、ごめん……。それは言わないでく!……」


「分かっている。さっきの仕返しにちょっと意地悪を言いたくなっただけさ。……感謝しているよ。おかげで宝物ができた……」


 プリクラ一枚でこんなに喜んでくれる彼女が他にいるだろうか。

 俺はそんな、学校での様子からは想像もつかないくらいどこまでも純粋で、可愛い笑顔や驚いた顔と表情豊かな咲良が好きなのだ。


「それじゃあ咲良さん、次のお店へ行きましょうか」


「ああ!」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/03/07 07:30頃更新予定!

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