ねこねこの、ゆくすえ
サカモト
ねこねこの、ゆくすえ
猫には、縄張りがある。
猫同士において、その確保、維持をめぐって、苛烈な攻防戦が日夜展開されている、時には決闘が行われる。
わたしの住む町にもストリートに生きる猫たちがいる。その日、わたしは遭遇した。近所のマンションの駐車場で、三毛猫と、白地に不規則な柄の入った猫が、対峙していた。両猫ともオス、それは以前から認識している。
両猫とも、身体もなかなか大きい。確実に、どこでしっかり食っている。
三毛猫と不規則柄猫は、マンションの駐車場で対峙していた。互いに、まるでバイクのエンジンを吹かす音をより高音にしたような鳴き声でけん制をしあっている。わたしが知る限り、真昼のこの時間帯は、ここは三毛猫の縄張りという認識だった。不規則柄は、夕方、時折見かける猫だった。
その両猫が、いま、マンションの敷地内でにらみ合う。
絶えやさず、エンジンを吹かすような鳴き声を話し続けていた。その鳴き声は、見る者に高密度な緊張感を与える。
動きはない。唸り合い、視線をぶつけ合い続けている。
それは息詰まる熱戦だった。一瞬が、決まる、勝者と敗者が定まる。
人間が手だししてはいけない世界がそこに展開されていた。わたしには、結末を見届けることしかできない。どちらも、よくここで見かける馴染みの猫、その両猫が、激突を果たそうしている。
見る者にも覚悟を要求する光景。
しかし手に汗握る展開。
魂の揺すぶり合い。
立ち膨らむしっぽ。
敗者が生まれる悲しみ。
なぜか開始される急な毛づくろい。
からの再びのにらみ合い。
緊張は最高潮に至る。
その時だった。このマンションの住人らしき、マダムが買い物から帰って来た。
そして、向かい合う両猫を見ていった。
「あらあらあらー、かわいい、仲良しねぇ、ねこちゃんたち」
微笑んで、近寄る。
マダムに接近され、とたん、両猫は散っていった。わー、にげろー、と、ばかりに。
いくら決闘の最中でも、生態を知らないと、かわいいとしか思えない。
それが、猫。
ねこねこの、ゆくすえ サカモト @gen-kaku
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