第25話 strategy

__2050年 1月 DAMIAの隠れ家__


モニターの明かりに照らされた一角。

暗がりに置かれている小さなテーブルを囲み三人が座る。

その前にはDAMIAの特性モニターも設置されている。


「今日は俺が見付けたNCCB内の情報を二人に話そうと思う。Rayはもう分かっていると思うけど、ネットワーク侵入で失敗すればすぐに排除される。だからこそ、俺達に与えられたチャンスは1度だけ。中に入ったら生きるか死ぬか、それ位の覚悟でやってよね。」


「うん、分かっている。もう死ぬのは兄貴だけで十分だよ。何も恐れる事なくやるだけだよ。」

Rayが真剣な眼差しでDAMIAに返事をする。


「僕も、Rayのお兄さんが亡くなった姿を見ているから、失敗したらもう後がないのは分かっているつもりだよ。だからこそ、今回は死を恐れる事なくやり遂げたい。」


「ならいいけど、念の為に言っただけだから。このゲームは一度スタートボタンを押したら戻る事も出来ない、ただ進むだけ。ある意味単純なゲーム。」


DAMIAは本当にいつも冷静かつ端的に伝えてくれる。でも、この冷静さが今の僕らにはとても有難い。動揺せずに済むからだ。


「まず、俺の調べた所によると、NCCBの総スタッフ数は数千人の元から部内で働いている人間達、そして新しく政府がテストして集めた3人の凄腕がいる。正直、元からいる数千人のスタッフは眼中にない。そもそも、その人間達で対処出来ていれば、政府も新たに対策チームなんて作ったりはしなかったと思うけど。問題はそいつらではなく、チーム作成の為に加わった3人だね。」


「政府が集めた「特別害虫対策遂行チーム」だね。政府下にも能力が優れている人達がいるのは当然だからね。でも、3人だけなんだ・・・。思っていたよりも集まった数は少なかったね。」


「そう、だけどたった3人と思うかどうかだけど。その3人は格段に能力が優れている。政府のプログラムをハックして分かった事は、そいつらはイニシャルを使ってそれぞれを呼び合っている。そのイニシャルが意味するのはそれぞれの能力的特性。」


「そうなんだ。それで、そのイニシャルって?」

RayがすかさずDAMIAに尋ねる。


「まず一人目は(S)、イニシャルの意味はスピード。とにかく俺達の仲間が侵入した時にもそうだったけど、想像以上のスピードで行く先を察知して侵入者の進行方向を見極める事が出来る。だから俺らは、「S」以上のスピードで捕まらないように前に進まなければならない。そして二人目の(C)、意味はクラッシュ。敵をネットワークの行き止まりへと追い詰めていき、身動きが取れない状態にしてしまう。まるで蜘蛛の巣にかかった虫のような状態にしてしまう。「C」に捕まると俺らの情報がすぐに抜き取られちゃう。だからその前に色んな対処をしないといけない。最後の三人目の(K)、意味はキル。何も言わずに追い詰められた状態の侵入者を直ぐに殺す。ただ殺す為だけに生まれてきたような奴だ。(S)、(C)がそれぞれ連携して追い詰めた後、(K)によって瞬殺される。だからそれ以上の速さで奴らから逃げないといけない。それぞれが似たような能力のようで微妙な能力の違いを上手くカバーし合っている。互いが瞬時に状況判断をし、各能力に合わせて動き、侵入者を僅かな時間で仕留めていくんだけど、凄いのはとにかく仕留めるまでの時間。この三人が来てからは、誰も第一ゲートを突破出来ていないというのが今の現状。」


「なるほど、そんなに早いんだ。兄貴が第二ゲート過ぎた所で排除された後は、誰もそこまで辿り着いていないという事か。その先には第五ゲートまであるから、相当な戦いになるよね。」


「本当に、今の話を聞くと、自分にどこまで出来るかちょっと不安になるけど、僕はRayとDAMIAを信じている。だから全てを突破した事だけをイメージしていこうと思う。」


「でも、二人なら不可能ではないと思うよ。Rayのお兄さんの後は、俺は誰もサポートしていないから、その結果、誰も第一ゲートを突破出来ていないという事に繋がっているというのもある。正直、第一ゲートなんて簡単に通れるからね、俺らなら間違えるわけがない。まあ、それは置いといて、実際にその三人の詳しいスキルを俺の方でもテストしてみたから伝えておくよ。それぞれが特化した能力はあるにせよ、どれもSORAの能力から比べると僅かだけど下回っているのが分かった。そして、こちら側の適正能力として言い換えれば、Rayの能力でズバ抜けて優れているのは、迷路の様になっているネットワークの罠を見極めて、本当の道筋を瞬時に選べるという所はとにかく規格外。だから奴らが張ったトラップには引っかからずに前進出来ると思うんだ。多分、Rayの持っているこの能力は生まれつきなんだろうけど、お兄さんとネットワークに忍び込んでいるうちに、仕掛けられたトラップを見極める能力が更に身に付いたんだと思う。」


「あ、ありがとう。僕って、謎解きは得意だけど、そんな能力もあるんだ。確かにトラップには掛からないというのもある意味、謎解きを瞬時にしているのかもしれないね。気付くとこれは怪しい!とか感じちゃうんだよね。」

Rayが少しだけ嬉しそうに答える。


DAMIAが続ける。

「SORAに関しては全ての能力がズバ抜け過ぎているから、俺からしても何に特化しているのかもわからない。テストでも凄さは分かったけど、実際に侵入しているのを見た事がないから本当のSORAの実力は?と聞かれたら分からない所だらけだけど、とにかく相手が手出しが出来ない位のスピードで罠を超えて行けると思う。そこにはRayの瞬時の謎解きも大切になってはくるけどね。」


あまりのDAMIAの誉め言葉に自分でも驚いてしまった。


「そんなに、自分の能力があるとは今まで思ってもいなかったよ。ただ、単純に日々政府のネットワークに忍び込んではその中の「歪み」を見つける事ばかりしていたから。それがいつしか自分の能力レベルを上げていたのかな?」


「普通の人は、その「歪み」を簡単に見つけるなんて事はそもそも出来ないから。SORAは侵入する度に政府のネットワークの特定の「歪み」を気付かないうちにすぐに見つけられるようになっていたんだと思う。政府としては、ネットワークを構築する際にその「歪み」がある事なんて気付いてもいない。だからこそ、よそ者が侵入後に荒らしたその足跡を見付けては自分達のネットーワークが完璧でないという事に毎回気付かされる。そしてすぐに修正する。それの繰り返しだから。

その度にバージョンアップしているつもりだろうけど、それでもSORAはいとも簡単にプログラム操作を行って、自分の行動に有利になるように勝手に自分でも考えないうちにしていたんだろうね。その練習みたいなつもりで行っていた事が、政府にとっては脅威でしかなかったんだよ。俺もSORAの能力をテストした時に、SORAが無意識的に同時に複数の処理を行っている事を確認した。正直、「AI」以上の処理スピードで行動を起こしていたから思わず「え!!」みたいな感じになっちゃったけど。

間違いなくSORAという人間は「AI」を超えた能力の持ち主だという事。結果を見るまではそんな奴いるとは思ってなかったけど、もしかしたら俺が行ったテスト以上の能力を発揮するんじゃないかって、その時は正直・・・感じたよ。ある意味恐ろしすぎる能力だよね。SORAが味方でよかった、っていうのが一番の俺の感想。政府側にいたら俺でも直ぐに殺されるね。」


「なんだか、そんなに褒められて良いのか分からないけど、素直に嬉しい。皆の役に立てたら。でも、その恐ろしすぎる能力って言われると自分としても怖いけど。」


素直にその言葉を信じていいのかは分からなかったが、DAMIAから聞いた自分の能力の事をとりあえずは信じてみようと思った。


「そこで、ここからが問題なんだけど。侵入してからどうやって各ゲートを突破したら一番いいのか、それぞれのゲートに隠されているトラップの説明をしたい。」


僕ら二人はじっとDAMIAの説明に集中する。ここからが本番だという想いが強くなる。


「最初の第一ゲート、これはRayがそのトラップを、得意の謎解きで迷いなくすり抜けてもらいたい。簡単に言うと本物と偽物のゲートが二つあり、2分の1の確率で正解なんだけど、他の侵入者達はこのゲートすらも本物が見極められなかった。だからそこまでの能力だったって事だけど。偽のゲートには、何かしらのプログラムの「歪み」があるからRayとSORAなら簡単に見極められると思う。相手もゲート手前で仕掛けてくるからその前に抜ける事。その時には俺が第二ゲートにあるプログラムを先回りして操作する。」


「うん、分かった。それは大丈夫だと思う。迷いなく第一ゲートは突破するよ。」


「そして第二ゲート、ここのプログラムは元々あるプログラムに、足りない部分を書き込まないとゲートが突破出来ないようになっている。それを正しいプログラムに書き換える事できちんとしたゲートが作られるってわけ。だから俺が先回りしてプログラムを正しいゲートの入り口として作り変える。その後に、そのままじゃつまらないから追ってきた相手に逆にトラップを仕掛ける。少しでも相手の動きを遅らせたいからね。その間にSORAが突破してくれるかな?多分、SORAの場合、俺がプログラムを正さなくても自分で直して簡単に抜けると思うけど。どっちかっていうと、その後の追跡時間をトラップを仕掛ける事によって遅らせたいのが一番の理由かな?」


「実際にやらないと何とも言えないけど、相手がDAMIAのトラップに惑わされている間に先に進めばいいんだね。」


「うん、でもかなりそのトラップで動揺すると思うけど、それは当日のお楽しみで。」


どんなトラップか気になるが、とりあえず第二ゲート迄は過去にRayのお兄さんも突破しているから、ここからが肝心だ。


「ここからが大切。第三ゲート。初めて見るトラップに遭遇すると思うけど、多分俺が確認した所によると、第一ゲートと違ってフェイクのゲートが第三ゲートには4か所ある。そのうちの一つだけが正解。残り三つはドボン。単純に相手はゲートの数を増やしてそこで立ち止まる時間を長くする事で追い詰めたいんだろうけど。俺からすると抜けるのはそこまでは難しくないかなって思ってるけど、どちらかというと見極めるまでの時間がとにかく早くないと追いつかれる。その為にも第二ゲートの所にトラップを仕掛けるのは必須かなと思ったんだ。まあ、ここも先回りして俺が解読する予定だけど、間に合わない場合を考えるとやはり、奴らが追ってくる前にRayの謎解きのカンに期待する所。ついでに第三ゲートを抜けた所にも、さっきとは別のネットワークトラップを仕掛ける予定。」


「やはり進めば進む程、トラップは複雑になるんだね。解ければいいけど・・・。でも、そのDAMIAの別のトラップも気になって仕方ない。」

Rayが少し不安な顔をしながら答える。


「本当にRayの謎解きセンスはピカイチだから自分を信じよう。大丈夫。僕もいるから。」


「そして第四ゲートだね。いよいよ出口まであと少し。ここのゲートは、近付くと俺達の首にあるマイクロチップに互換性のあるネットワークウィルスが沢山散らばっている。このウィルスに感染するとデータごと破壊され、ネットワーク内での行動が出来なくなる。そこへ追手が来てすぐに排除、という感じ。だから、このウィルスを俺とSORAでまずは駆除しないといけない・・・二人のマイクロチップが感染する前に、全てのウィルスを駆除しないと終わりだからかなりのスピードが必要。ここはRayの能力ではちょっと難しいかもしれないからね。SORAがRayより先に行って第四ゲートで俺と一緒にウィルス駆除して突破する事。ここまでくれば出口はすぐそこなんだけど・・・。」


「ネットワークウィルス・・・。感染するとこっちが身動き取れない間にやられるのか。まるで、なんとかホイホイみたいだね。」


「SORAなら大丈夫。ウィルスなんかやっつけられるよ。自信もって。DAMIAの言う通り、僕は駆除には向かないみたいだから謎解き専門でいくよ。」Rayがお道化た様な表情で優しく力付けてくれる。


「そして最後の第五ゲート。流石に政府はここを突破されると終わりだから爆弾みたいなトラップを仕掛けている。多分、このトラップにかかると、二人だけでなく、俺の身元まで抜かれる可能性がある。万が一、データを抜かれそうになったら、俺はその場所から先に消えるから二人でやるしかなくなるからね。だからこそ、バレる前にSORAと俺でゲート突破を試みる。その隙にRayが俺達を抜き去ってプログラムを破壊する予定なんだけど。でも、ここだけは俺の能力でも実際に入ってみないと何とも言えない。外部からだとここのプログラムだけは詳細が掴みにくい動きをしているんだよね。そんな事から、全員がそのゲートを開ける鍵だと思ってくれた方が良い。」


「そうなんだね。そこだけは外部からのDAMIAの侵入でも解読が難しいのか・・・。」

と、私が答えるとDAMIAがすかさず説明してくれた。


「そう、第五ゲートだけは政府のネットワークプログラムの回転数が1秒間毎の変動回数が毎日違うのと、随時変動回数が変わっていくような特殊プログラムになっているみたいなんだよね。だからその変わっていくプログラムの隙間を見付けて破壊しないといけない。例えるなら、高速で回っている大縄跳びを瞬時に中に入って通り抜ける感じ。それでも俺から言えば・・・SORAならいけるかもしれないと思っている。今までもネットワークの「歪み」を沢山見付けてきたから。それくらいの僅かな所に入り込むのは得意だと思うんだよね。」


「なるほど、第五ゲートだけは、「これ」というはっきりとした対策が無いんだね。プログラムが自動変動している所にそんな抜け穴があるのか?想像してみても難しそうだけど。とにかく目に見えない穴に糸を通す気持ちでやるしかないね。」

私の言葉に二人とも真剣な顔で頷く。


「僕、そのプログラムに似たようなやつを、昔どこかで・・・見たような気がするんだけど・・・。どこだっけ?・・・あ!確か、兄貴と一緒に適正テストの不正を行おうとして何度か政府のネットワークシステムに潜入した時に、まだ未完成みたいなプログラムだったけど常にプログラム変動していたのを見た気がするよ!そこの手前で僕達は抜け出たんだけど。それ自体がバグっているんだと思ってやめたんだよね。でも、その時は回転数も少なく一定間隔のようで変動している?みたいな不思議な回転で意味が分からなかったから。その後に、兄貴と二人であれってトラップなのかミスなのか分からないね、と話した記憶がある。」


「なるほど、Ray。その言葉が・・・、大きなヒントになったかも。もしそれが完成しているとすれば・・・。」

さすがRayだ。見た事を覚えていてくれた事で、何となくそのプログラムの目指している部分が見えたような気がする。


そしてその後、DAMIAが何かを話そうとしたが、結局言葉には出さなかった為、気にはなったが聞く事もしなかった。、とりあえずこれで大まかな政府のネットワークの地図は理解した。この大きな迷路をゴールまで突き抜ける。


「あの、1つだけいいかな?皆で約束しておきたい事があるんだけど。」

急にRayが神妙な面持ちで話し始めた。


「誰かが万が一捕まっても、とにかく後戻りせず、前進するって約束してもらいたい。それは仲間を見捨てるという事ではなく、僕らの大義の為だから、僕が捕まっても戻らずに前に進む事。勿論、SORAが捕まりそうになっても、僕はやり抜く気持ちだから。それ位の覚悟で戦おう。」

Rayが珍しく、真剣な眼差しで自分から提案をしてきた。

僕らはそのRayの言葉にただ頷いた。


でも、最初の約束通り皆で乗り越えたい・・・。それが皆の本心である事は間違いのない事だから。






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