第24話 RayとSORA

DAMIAとの話の後、僕はSORAと無性に会いたい気持ちになった。

なんだか直接会って、二人だけで話をしたくなったからかもしれない。

たまには戦いの事を忘れて、普通の友人の様に・・・。

_____


SORAに連絡をし、僕の方からお父さんの「聖地」で会う約束をしてみた。


___SORAを待つ間、心を無にして空を眺めてみる。


やはりこの場所に立つと気分がスッキリする。

SORAも訪れる度に、今の僕と同じような気分になっていたのかな?と思うとその事を共有出来ている事が少しだけ嬉しかった。

これから向き合う事の前にも、日常のありふれた時間をSORAと共に過ごしておきたい・・・そんな心境だった。こんな複雑な時代だからこそ・・・。


SORAを待ちながら色んな事を考えていたその時、扉がいつものように軋む音と共に開く。

(ギーッツ)

その音が長い間錆びついた鉄製の扉の歴史をも感じさせてくれる。


「お待たせ!Ray、今日も早いねー。なんか今日はRayの方が先に来ているような気がしてた。」

SORAが少しだけ息を切らして話してくる。


「うん、今日は絶対に先に来たかったんだよね・・・。なんだかここに来ると、SORAがよくここを訪れていた意味が分かるような気がして。一人でこの場所に立って、目を瞑って上を向くとドローンの無い奇麗な空が浮かぶ・・・。そして、ゆっくりと呼吸をする・・・。落ち着くんだ。何だか分からないけど。」


「それ、分かるよ。僕もいつもそうだから。不思議と訪れる度に、気持ちをリセットしてくれる。」


「あ、話は変わるけど・・・そう言えば、前にSORAが僕に話してくれたんだけど・・・、鳥が空を飛んでいる姿を、もう一度見てみたいって。」


「うん、Rayに話した事あるよね。絶対に見たいんだよね、その光景を。この空をさ、沢山の鳥達が飛んでいる姿を。空を見上げる度に、この大きな空が鳥の為にあればいいのになっていつも思うんだよね。でも、本当の事を言うと、僕自身が空を飛んでみたいのかもしれない。羽を自分でこうやってバタバタさせて、鳥みたいに自由に飛び回るみたいな。そんな事出来たらすごく気持ちいいだろうなって。だから、このドローンだらけの空は無くしたいよね。いつからか政府は自然を破壊し、人間からだけではなく動物達からも大切な物を奪っていってる。こんな醜い世界が当たり前なんて思いたくないし。」


SORAが手を鳥のようにバタつかせる仕草をしながら答えてくれる。こんな無邪気な彼を見るのは初めてだった。そのSORAの動きにすごく新鮮な気持ちになれた。


「やっぱり、空や鳥が大好きなんだね。いいな、そんな事を夢見て過ごしているってSORAらしい。とっても素敵な夢だよね・・・、いや夢じゃなく、実現させないといけないね!」


二人で同時に目を閉じ、ドローンの無い綺麗な空を思い浮かべながら、飛んでいる沢山の鳥を想像してみる。とても優雅で気持ちよさそうなその光景を思いながら二人の口元が緩む。

手摺に寄りかかって一緒に空を見上げている時間は、仲間というよりも本当の「友達」のような感覚になれた。やっぱりSORAといるとすごく気持ちが落ち着く。


「SORA、改めて言うのもなんだけど・・・本当に出会えて良かった。ありがとう。毎日その事ばかり考えてるよ。出会わなかった人生を考えると怖くなる。僕の人生どうなっていたんだろうって・・・。」

と、おどけて話してくる。


「Ray、今さら何言ってんの?お互い様だよ。僕の方こそRayと出会えて自分も変われたし、毎日こんなに大変な時代でも楽しい時間が過ごせているよ。」


(これがRayの優しさなんだろうな。二人でいると、全ての嫌な事を忘れて、心の底から心地よく、そして優しくなれる自分がいる)


そんな時間を二人が共に過ごしていた時___。


瞬間的に二人にふわっと強い風が吹きつけた。強い風なのにとても温かくて柔らかい。その風からHGPがズレるのを守るように、二人共両手で頭を押さえる。


「ん?なんだろう今の風、強かったけどなんだか凄く、気持ち良かったような気がしたけど・・・。」

と、よろけながら言うRayに、


「確かに、僕も同じ事思った。なんだろう、この風・・・。本当に気持ち良かったね。ただ強いんじゃなくて、僕らを包み込むような、そんな感じに温かくて気持ち良かった。」と、HGPの位置を直しながら答える。


その言葉をお互いが言い終わった途端に、二人共が顔を合わせ人差し指を立てながら同時に叫んだ。


「父さんだ!」


「お父さんだ!」



瞬間時が止まる____。


さっきとは打って変わって空気の流れが瞬間的に止まるのを感じる。


「父さんだ。今の風・・・。そうだよ。今、僕らの周りにいたんだよ。きっと、僕らを応援してくれてるんだよ。」


「うん、僕も感じた。SORAのお父さんが側に来てくれた感じが・・・したよ。いつもの強い風とはまるっきり違う感じで、強いんだけど、とても優しくて・・・肩をポン!と叩かれている感じ!」


不思議な風だった。普段は絶対に気にしないような事なのに、二人が同じように父さんの存在を身近に感じるなんて。今も間違いなく僕らの側にいるのかもしれない。そして僕らに寄り添ってくれているのかもしれない。


「でも、不思議だよね。これから凄い挑戦をしようとしているのに、気持ちは不安とかではなく、逆に清々しいくらいだよ。今こうしている時間も楽しくて仕方がない。」


「うん、僕も同じ。なんだか今のこの時間も、DAMIAと三人一緒の時も、全てが楽しくて。SORAと出会ってから、本当に毎日が・・・言葉にするのは難しいけど、体が軽くなったって言うか。僕らなら願えば何でも出来るような気がして。明るい未来しか想像出来なくなっている。」


「分かる。僕もだよ。会って以来、自分の中の”もやもや”が少し解消してきている。僕らなら凄い事もやり遂げられる気がしてる。そして、昔の綺麗な日本を取り戻せる気もするし、沢山の鳥達が空を飛んでいるイメージも湧いて来る。」


二人共が同時にまた空を見上げる。


「・・・あのさ、SORA、もし良かったらだけど、仲間ではあるんだけど・・・、友達にならないかな?嫌じゃなければ。言葉だけの変化かもしれないけど、友達ってどんな感じなのか分からなかったけど、今のこの心境が友達って事なのかなって。」


Rayが恥ずかしそうに話しかけてくる。


「うん、勿論!僕も、それ言おうと思っていた。友達。うん、友達になろう。仲間であり友達!そして、友達だったら色んな良い事も嫌な事も、何でも言い合えるようになって、お互いがずっと信頼して話せる仲でいられたらいいと思う。」


「ありがとう・・・。凄く良いね。その、何でも言い合える仲って。友達っていう言葉自体にピンと来ていなかったんだけど、SORAと出会ってからはその意味が分かったような気がして・・・これが友達だ!みたいな。」

少し嬉しそうに話すRayの姿は本当に周りを明るい気持ちにしてくれる。


「正直、僕も感情を出すっていう事が今までは無かったし、Rayに会うまで友情とかそんなものも何も分からなかった、というか必要の無いものだと思っていた。けど、僕らが出会ってから、時折見せてくれるRayの表情が僕を変えてくれたんだよね。本当に君といる時間は宝物であり、そしてこれからもずっと仲良くしたいし、何よりも僕らの夢を勝ち取りたい。そしていつか空を見上げた時に、優雅に飛んでいる鳥を一緒に見れたらいいなって思ってる。そんな事を頭に描いていたらそれこそ、ワクワク?しかない。”ワクワク”の使い方が合っているか分からないけど。」


「それ、思う。僕も空に飛んでいる本物の鳥をSORAと一緒に見てみたい。このドローンだらけの空から本物の空を、どこまでも広がる大きな空をきちんと見てみたい。そして町中には普通にこんな装備とか付けないで人々が沢山歩いていたり、楽しく会話していたり。それが見れたら最高だなー。きっとそれが見れたらそれこそ”ワクワク”するんだろうね。」


僕らにとっては久し振りの「普通」の時間だ。

この父さんの残した「聖地」が二人を繋いでくれたんだとつくづく思う。

そう考えると、嫌な事ばかりがあっただけの人生じゃないって。

この場所は気持ちをリセット出来る場所でもあり、未来への希望も感じられる。

それが父さんからの最後の贈り物だったんだと感じる事が出来る。

今の自分達が夢を持てている事自体がその意味なんだ。

そしてこの瞬間が二人にとって”ワクワク”なんだと。

そんな想いが二人には膨れ上がった。


二人は空を見上げ、大きく手を広げて空高くその腕を上げる。

まるで二人がこの大きな「空」を抱きかかえているかのように・・・。




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