第56話 真実

 それが後世に騎士王と称えられて名を遺したライの本当の姿だった。

 何故、今本のように語り継がれているかは定かではない。

 もしかしたら今の為政者の祖先が、自分たちに都合のいいように創作したのかもしれない。

 ギードの件もあって、今見たものがライの記憶であることが僕には分かった。

 ……それを考えると複雑だ。

 幼い頃に抱いた騎士王への憧れが貶されたようで。

 けど同時に何処か完璧だった騎士王の本当の姿を知ることで、人間らしさを感じて逆に親近感がわいた。うん、こっちの方が人間らしい気がする。


「目を覚ましましたか?」


 目覚めて上半身を起こすと、声が掛かった。

 声のした方を向けば火に薪をくべるハイルがいた。

 その様子を見て上級回復薬が無事効いてくれたようだと安堵した。

 僕はその後ハイルから一連の騒動を聞いた。

 一番驚いたのはニアがアルスフィア皇国の皇女だということかも?


「それじゃ皇国に戻るの?」

「……ニア様とエイルには予定通りヴァルハイト公国に向かってもらいます。報告には私が一人で戻るつもりです」


 ハイルはニアとセシリアの死を皇妃に報告しに戻ると言った。

 ニアを死んだことにするのはニアと、セシリアの弟を守るためらしい。


「危なくないですか?」


 ハイルはセシリアの家に仕える者だという。主人が皇族に対して不敬を働いたのだ、その部下であるハイルにも罰が下ってもおかしくない。むしろ罰が下るはずだ。

 皇妃に真相を話すどころか、皇妃に会うことすら出来ないかもしれない。


「それは覚悟の上です。それに処刑されたとしても、真実を皇妃様にお伝えしたい。少なくとも黒幕が分かるまでは、ニア様の生存は秘匿しなければいけませんからね。そのためには皇妃様の助力は必要です」


 ハイルはそれと、と言ってハイルたちの持つギフトについて話してくれた。


【以心伝心】


 離れた位置にいても意思疎通が出来るというギフトだ。

 これはハイルとエイルが互いに所有していて、表向きは敵対しているように見せて、裏ではこのギフトを使ってセシリアの考えを共有していたということだ。


「相手に伝えることが出来る範囲は不明ですが、もし皇国に戻っても意思疎通が可能なら大きな武器になります。私からは皇国の動きを、エイルからはニア様の動向が分かりますからね」


 ハイルの言う通りならかなり便利なギフトだけど、皇国と公国では距離があり過ぎる。一応駄目だった場合も想定しているとは言った。


「それで、です。フロー君に一つお願いがあるのです」

「お願い?」

「はい、出来ることならニア様を守ってもらえませんか? 腕もいいし、何よりニア様も心を開いています。無理なら……せめて私が今話したことは内緒にしてもらいたいです」


 僕は考える。

 ニアについて行くということは、リュゲル王国から一時的にではあるけど離れることになる。 


「……分かりました。公国の、ニアが目的地に到着するまでは一緒に行きます」


 悩んだ末選んだ結論はついて行くという選択だった。

ニアとエイル二人だけで行くのは心配だからね。

 特に今のエイルは片腕をなくしている。

 ……違う、な。結局は僕がまだニアと一緒にいたいと思っているだけだ。


「それでどうやって行くんですか? 馬で?」


 僕は周囲で休む三頭の馬を見た。

 二頭は馬車を牽いていた馬で、もう一頭は僕が乗ってきた馬だ。

 馬車がないのはあの大きさでは森の中に入ることが出来なかったからだろう。

 かなり高級なものらしいけど、生存を隠すなら処分するのかな?

 あ、けど馬で移動するとしてニアは馬に乗れるのかな? エイルも片腕だと難しい気がする。


「それについては心配いりません。それとフローが乗ってきた馬ですが、私が使わせてもらいます」


 ライルラスで馬を返却するようだ。

 何故ハイルが僕の借りた馬に乗っていたか聞かれると思うけど、その時は簡単に事情を説明するそうだ。

 僕の立ち位置的にはニアを守るために戦ったけど、その途中で川に落ちたことにするそうだ。

 何でもこの森の中にヴァルハイト公国へと流れる川があるということで、それを利用するみたい。

 用意がいいな、と思ったら、セシリアの指示で色々と調査をして準備をしたらしい。

 それもセシリアの直感のギフトが関係しているとか。

 話を聞けば聞くほど、未来予知みたいな能力だよな。

 ちなみに僕が無事であることは、メリッサたちには手紙で報告することにした。すぐに帰れないのは、お金がないとでも理由をつければいいかな?

 もちろんニアが生きていることは伝えられないけど。


 翌朝。ニアの作ってくれた料理を食べた僕たちは、森の外まで移動した。

 そこにはニアたちの乗っていた馬車はなかった。

 人通りが少ないとはいえ目立つから移動したのか、それとも既に処分したのか。



「ではニア様。お願いします」


 ハイルの言葉にニアが頷くと、ププルがニアの肩から飛び降りた。

 ププルは街道の中央に移動すると一つ小さく震えた。

 次の瞬間。街道にはニアたちの乗っていた馬車が現れた。


「話には聞いていたけど本当だったんだな」


 それを見たエイルが驚いている。

 僕も普通に驚いた。

 ププルがアイテムの収納が出来ることは知っていたけど、ここまで大きなものを収納出来るとは思わなかった。


「分からなくもない。私も最初見た時はそうでしたからね」


 その後馬の準備を済ませると、僕たちはハイルと別れた。


「では、ニア様。どうかお気をつけて。エイルも頼んだぞ」

「兄さんこそ」


 僕たちはハイルが乗る馬が見えなくなるまで見送ると、馬車に乗った。

 乗ったといったけど、何故か三人とも御者台だけど。

 僕はエイルに馬車の操縦を教わるためだけど、何故ニアが?


「わ、私も覚えます」


 尋ねたらそんな言葉が返ってきた。

 エイルが止めるのかと思ったけど、


「俺は片腕だし、ニア様が覚えて損はないだろう」


 と言った。

 こうして僕たち三人は、ヴァルハイト公国を目指して馬車を走らせた。

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