第55話 復讐
俺たちは森の中で一泊した。
騎士たちは村を見て回り、死体がないことを不思議がっていたが特に詳しく調べることなく帰って行った。
「戦争か……」
騎士たちの話では、この虐殺は隣国へ攻め込むための口実を作るための自作自演だった。
リュゲル王国は彼の英雄の一人が興した国と言われているけど、他の英雄たちのいた国と比べて小さく、数ある小国の一つに過ぎなかった。
確かに俺たちの村は隣国の国境線近くにある。
リュゲル王国に所属しているが、一番近い街は隣国にある街だった。
「それで今回来たのは何が目的だったんだ?」
俺は魔法で会話を聞いていたシンに尋ねた。
「……生き残りを探しているような話をしていましたね。僕たちのことかもしれない。死体がないのを不審に思ったみたいだけど、魔物に食い荒らされたということにしようと言っていたよ」
村の中を歩き回っていたのはその確認をしていたのか。
杜撰な仕事ぶりに呆れるが、俺たちとしては助かった。
それと隣村のことも話題に出ていたから、この計画に加担していた可能性が高い。
もしかしたら村に引き留めようとしたのは、寝込みを襲うなりして俺たちをそこで始末しようと思っていたのかもしれない。
「で、それでどうすんだよ」
バイアスがシンを見た。
「……復讐するなら傭兵にでもなって成り上がるのが一番だと思いますね。戦争をするために人を集めるって話をしていましたから」
話し合いの結果。俺たちは傭兵となり戦争に参加した。
たった四人から始まった傭兵団は、戦いを繰り返すごとに徐々に規模を大きくしていった。
この戦争はやがてリュゲル王国の周辺の国々を巻き込み、六つあった国はやがて一つの国……リュゲル王国へと統合された。
俺たちは仮面傭兵団なんて呼ばれて戦場を転々し、その勝利に貢献した。
その名前で呼ばれるようになったのは、俺たち四人が仮面をしていたからだ。
仮面をしたのは単純に、正体を隠すためだ。
その後活躍の報酬として攻め滅ぼした国の土地をもらい領主の地位を授かったが、そこの統治は代理人に任せた。
これは仮面をしていたことが功を奏した。
俺たちの素顔を知る者は殆どいなかったから、背格好が同じで有能な人間を影武者に仕立てるのは簡単だった。
何故なら俺たちの復讐はまだ終わっていないから。
村を襲わせた者、襲った者たちは、戦争のどさくさで既に殺した。もちろんそれ相応の苦しみを与えた。
何度も斬り刻み、回復薬でその傷を治して延命させた。一瞬で殺すよりも、長く苦しませるために。
最期は泣きながら殺してくれと懇願してきたが、それでも許さなかった。
その時知ったのは、村を襲撃するように指示した領主も所詮は命令された者に過ぎないということだった。
だから俺たちはその線を辿り……行きついた先は王国のトップだった。全ての元凶が王にあったことを知った。
まあ、戦争を起こそうなんて考えるのだから当然といえば当然か。
王にあったのは野心。それこそ周囲の大国と肩を並べたいという顕示欲だった。
実際今回の戦争でそれは叶った。
「……やるのか?」
タリスの質問に俺だけは頷いた。
シンとバイアスの二人は、ここにきて迷っているようだった。
復讐を誓ってから七年が経っていた。
それから俺たちにも多くの変化があった。
シンとバイアスの二人には守る者も出来た。
けど俺にはなかった。
強奪で相手のギフトを奪うごとに感情が徐々に消えていき、ただただ復讐の炎だけが、憎しみだけが残った。
「……三人は残れ。最後は俺の手で決着をつける」
俺は拳を握り締めた。
この手で多くの人たちを殺してきた。
それなのに鮮明に残っているのは、村の人たちを、リュカを殺した時の感触だった。
「……バイアス、シンは残るがいい。ライには俺がついていく」
黙る二人にタリスが言った。
「タリス?」
「……二人は俺たちのような人間が出ないようにして欲しい。シンは頭がいい、バイアスも皆から慕われている。だから俺たちの、街を、家族を守ってくれ」
タリスの言葉に二人は最後頷いた。俺のことを頼むともタリスに言っていた。
俺たちは二人に見送られながら、王族や貴族に恨みを持つ傭兵団の仲間たちと共に王都を目指した。
最後の仕上げをするために。
その日。リュゲル王国の王都では戦勝の祭りが開催されていた。
この日。リュゲル王国の王族はただ一人を残して死んだ。
この日。私腹を肥やしていた貴族たちが全員死んだ。
宴が開かれていた王城に暗殺者たちが潜入し皆殺しにしたのだ。
唯一生き残った王女は殺される寸前に駆け付けた俺たちの手で救出した。
暗殺者たちは警護していた騎士たちも惨殺したが、俺たちの手で討った。
人々は知らないが、これは全て俺たちと、生き残った善良な貴族たちが画策した結果だ。
その後俺は王女を救った英雄として婚姻関係を結び、王に即位した。
しかしそこにあるのは主従関係だった。
王女は強奪で奪ったギフト【傀儡】によって心を壊し、道具として国のために働かせた。
国が安定したのを見届けると、王位を貴族の一人に譲って王女と共に姿を消した。
これは予め話し合って決めていた。
だから俺の様なものが一時的ではあるが王位に就くことが出来た。
これで王族の血が受け継がれることはない。
その後俺と王女は俺の生まれ故郷に移り住んだ。といっても住人は俺たち二人だけだ。
その時使っていた剣は城に置いていった。もう振るうことはないし、使うつもりもなかったから。
タリスは旅に出ると言って、この騒動に参加した傭兵団の仲間たちと共に国を出た。元々この件が決着したら、そのつもりだったようだ。
別れは寂しいが、タリスが率いてくれるなら安心出来る。傭兵の皆もタリスには信頼を寄せているから。
そして俺は妹たちの眠りを見守りながら、その生涯を終えることになった。
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