第54話 強奪

「ライ、どういうことだ?」


 バイアスの質問に、俺は自分の本当のギフトを告げた。

 復讐するなら、確かに力は必要だ。

 ギフトがあれば、その力を手に入れることが出来るのかもしれない。

 けどそれは、知り合いを自分の手で殺すということだ。

 つい先日まで一緒に笑い、手に手を取り合って助け合っていた人たちを。


「……タリスはどうする?」

「皆についていくだけ」


 タリスからの返答はいつも通りだった。

 俺はバイアスとシンの二人を順に見た。

 二人の意志は固そうだ。

 バイアスは恋人がいたし、シンも親兄弟とは仲が良かった。タリスは一歩引いた場所から状況を見守っているような感じだけど、きっと本音では仇を討ちたいと思っているはずだ。

 だってタリスが一番この村の人たちを愛していたから。

 それでも率先して復讐をしたいと言わないのは、誰かが冷静に物事を見る必要があると思っているからだと思う。

 口数が少なく優柔不断に見える時もあるけど、暴走しがちな俺たち三人の手綱を引いてくれているのがある意味タリスだった。


「……すまないが一人にしてくれ」


 俺の言葉に三人は備蓄庫から出ていった。


「……すまぬ。辛い選択をさせたようじゃ」

「いいよ。村長が言わなければ、あの三人がいなければ、俺は決断出来ないままだったと思うから」

「……そうか。ならわしがお主の業を一緒に背負おう」


 村長が目を伏せながら言った。

 俺は剣を引き抜くと、それを横たわる村人に突き刺していった。

 一突きするごとに、自分の中の何かが壊れていくような気がした。


【強奪に失敗しました】【探索】【下級剣術】【強奪に失敗しました】【強奪に失敗しました】【強奪に失敗しました】【身体強化】【強奪に失敗しました】【火魔術】【強奪に失敗しました】


 ギフト強奪を規定数使用しました。強奪のレベルが上がりました。

 見ると【強奪Ⅼv2】になっていた。

 Ⅼv2になって変わったのは、強奪の成功率が上がるというものだった。


【強奪に失敗しました】


 十一人目を殺し、次はリュカの番になった。

 俺は一度手を止めたが、その胸に剣を突き刺した。


【再生】


 それがリュカの授かるはずだったギフトだった。

 効果は自分の負った傷を治すというもの。回復速度が上がるというものだった。

 ……もしこのギフトがあれば、授かっていたなら、リュカは助かっていたかもしれない。

俺は胸に手をやった。

 このギフトはリュカだ。この身が滅びるその時まで、一緒に歩んでいこう。


「村長……」

「うむ、先に逝っておるよ。皆にはわしが謝っておこう。死後、一緒の場所に行けたらじゃけどな」

 その言葉を最後に、村長は動かなくなった。俺の剣が止めを刺した。


【時間操作】


 効果は自分を中心に周囲の時間を操るというもの。速めることも出来れば、遅らせることも出来る。

 この十二人が生き残れたのは、もしかしたら村長がギフトの力を使っていたからかもしれない。

 それから俺たちは十日かけて村の人たちを弔った。

 時間がかかったのは、村の人たちを村の近くにある森の中に埋葬したからだ。


「それでどうするんだ?」

「まずは本当に領主の仕業か確認しましょう」

「どうやって?」

「あの村の村長に聞くのが一番手っ取り早そうですが、今は迂闊に近付かない方がいいかもしれません」


 シンは魔物の討伐を依頼した村もグルではないかと言った。

 俺たちを執拗に足止めしようとしたのはこれが理由で、俺たちが村人を殺した犯人に仕立て上げるためかもしれないとも言った。

 ただ村の様子を見に誰かが来るかもしれないと思い、あと三日ここに残ることした。

 村を単純に滅ぼすだけなら誰も来ないが、何かしらの理由で襲ったならその襲撃者がくるかもしれないとシンが言ったから。




「結局何も起こらず、か」

「隣村に行くか?」

「……そうですね。締め上げましょう」


 バイアスはため息を吐き、俺が隣村に行くか尋ねたら、シンが物騒な言葉を吐いた。

 普段冷静な奴ほど怒らせたら怖いと言うけど、まさにその通りだ。

 その時だった。

 こちらに近付いてくる反応を捉えたのは。


「誰かくるな」


 三人には俺が強奪したギフトの話はしてある。


「数は分かりますか?」

「……遠いからなのか良く分からない」


 これは近くにいる人の数ならはっきり分かることは分かっている。検証したから。


「とりあえず見やすい場所に移動しよう」


 俺を先頭に四人で森の中を移動する。


「バイアス、どうですか?」

「……怪しいな。歩き方がなんか変だ。独特な動きというか……悪い、上手く説明出来ねえ」


 目の良いバイアスが見たことの報告をしてきた。

 バイアスは二十三人いると言った。


「なら僕が調べるよ。すまないが周囲の警戒を頼んだ」


 シンはそういうと風魔法の詠唱を始めた。

 風魔法の遠方の音を拾う魔法は便利だけど、魔法発動中は術者が無防備になるという欠点がある。

 そのため俺たち三人は周囲の警戒を務めた。

 集団がゆっくりと道を進み、村の方へと消えていく。

 やがて離れると魔法を止めたシンが立ち上がり、俺たちも移動を開始した。

 その時シンから集団が話していた内容を聞かされたが、奴らは領主の騎士たちで、村の様子を見に行くということだった。

 さらにそのうちの一人が話していた内容を聞いて絶句した。

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