第51話 無力
エイルは露わになった胸を隠すように服をかけ、ハイルを見た。
「兄さん、終わったよ」
「ええ、聞いていました」
ハイルは涙を浮かべていた。
「エイル。私もここまでのようです。全てをお前に任せることになりそうです」
エイルがグッと拳を握ったのが分かった。
顔を上げたニアと目があった。悲しみに歪んでいる。
こんな時に上級回復薬が使えたらと思う。可能性があるとしたらそれしかない。
けどポイントが……。
【習得ポイント 5000P】
中級回復薬ならもしかしたら手が届くかもしれないと思い確認したら、ポイントが5000もあった。
セシリアを殺しただけで?
驚いたけど考えるのはあとだ。
僕はポイントを消費して上級回復薬を選択した。
これで再びポイントが0になった。
手の中に上級回復薬が現れた。
僕は早速それを使った。
半分は傷口にかけ、残りを飲ませた。
勢いあまって口の中に回復薬を突っ込んでしまいハイルは咽てしまったけど、次の瞬間ガバッと身を起こした。
その動きにニアとエイルが目を見開いた。
けど一番驚いているのはハイルのようだった。
「これは……」
皆の視線が僕に注がれる。
僕は口を開いて説明しようとしたけど、体から力が急激に抜けていった。
限界だった。
これがポイントが足りなくて宝剣リュゲルをレンタルした代償?
体を支えることが出来ずに前に傾く。
地面に倒れそうになったのを誰かに受け止められた。
血の臭いがして、次いで甘い、いい匂いがした。
僕はそこで意識を失った。
◇ ニア視点・2
腕の中に重みを感じました。
突然フローが倒れたのには驚きましたけど、よく見たら寝ているだけということが分かりました。
その安らかな寝顔を見て安堵しました。
「ニア様」
フローから目を離して顔を上げると、ハイルとエイルが真剣な顔で見てきました。
「何があったのか。何が起こっていたのか説明させてください」
と二人は頭を下げてきました。
私は頷き、フローを横にしようとして、その手に握っていた瓶が消えるのを見ました。
突然消えたことに私は驚きましたが、ハイルたちも驚いています。
今のは何だったのでしょうか?
回復薬の空瓶が消えるなんてこと聞いたことがありません。
実際先ほどまでハイルに使った回復薬の瓶は残ったままです。
考えたけど答えは分かりませんでした。
あとでフローに聞けば分かるのかな?
私は一度考えるのを止めて、ハイルたちと向き合いました。
そこで二人から聞いたのは、何故セシリアがこのようなことをしたかの理由でした。
「そのようなことが……何で言ってくれなかったんですか?」
「呪いの条件に、ニア様やそれに近しい人たちに伝えても発動するというものがあったようです」
私はセシリアの顔を見ました。
その顔は安らかです。
けど……何も出来なかったことに無力感を覚えました。
私がもっと強かったら。頼られるだけの力があったら。悔しいです。
ううん。それは私の我が儘です。
だって皇国を出た時の私は何も出来ませんでした。
ただ守られるだけのお荷物でした。
いつもセシリアに守られて、ただ頼るだけでした。
そんな私が変われたのはフローのお陰です。
フローと出会って、今まで知らない世界を知りました。
メリッサさんやジニーちゃん、あとは冒険者のチェノスさんや警備隊の人たちと交流したのも大きいと思います。
そこには私が知らなかった世界が広がっていましたから。
それがあったから自分で考えることが出来るように少しはなったと思います。
まだ上手く判断出来ないことも多いですけど。
さっきだって私が戦えていたら、ハイルが深手を負うことはなかったかもしれません。
ハイルが助かったのは、フローがあの回復薬を使ってくれたからです。
「とりあえず馬車をどうにかしましょう。エイル、ニア様を頼みましたよ」
「兄さん、大丈夫か?」
「片腕のお前の方が大変だろう。ひとまず人目の付かないところまで移動させてくる」
ハイルが立ち上がったその時、ラルクの攻撃を受けて消えたププルが目の前に現れました。
無事だったんですね!
「ププル?」
けど気のせいか、少し体が小さくなっているような気がします。
ププルはピョンピョンと跳ねると、ハイルの肩に飛び乗りました。
「手伝ってくれるというのですか?」
ハイルの問いかけにププルは頷いています。
私たちはそんな一人と一体を見送り、エイルから少し休んでくださいと言われて横になりました。
正直言って体が少し熱かったので助かります。
目を覚ましたら色々と話し合わないといけません。
お母様からは公国に行きなさいと言われましたけど、言い付けを守ってそのまま向かえばいいのでしょうか?
それとも一度皇国に戻った方がいいのでしょうか?
分かりません。その辺りは起きた時にまたハイルとエイルと相談しましょう。
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