第50話 セシリア・2

  ◇ セシリア視点・2


 今から半年前。私たちは呪われた。

 それを解呪する方法はただ一つ。ニア様を殺すことだった……。


 ニア様と最初に会ったのはいつのことだったか? 騎士になってからそれ程時間が経っていなかったと思う。

 女性の騎士ということもあって、私は皇妃様から直接頼まれてニア様の護衛に就くことになった。

 彼女は良く笑い、私のことを姉のように慕ってくれた。

 そんな彼女の顔が曇ったのはギフトを授かった日からだ。

 理由は分からないが無理をして笑うことが増えた。

 他の者は気付いていなかったが、私には分かった。長い付き合いだ。

 聞こうとして、けど止めた。

 私から聞くのは憚られたからだ。恐れ多い。

 その理由を知ったのは、ある者から教えられたからだ。

 ニア様が授かったギフトは闇魔法。

かつてこの世界を滅ぼそうとした魔王ルースが授かったものだとその者は言った。

 これは成長と共に心を歪め、やがて魔王ルースと同じように破壊衝動に支配されるから、ニア様を殺さないといけないとも言った。

 その者はそのための手伝いを持ちかけてきたが、私はこの協力を断り、訴えようとしたら、呪いをかけられた。

 それはニア様を殺さないと、死ぬというものだった。

 それを聞いても私の心は動かない。

 むしろこのような者たちを野放しにするのは危険だと、皇妃様に相談しようとした。

 けどそれは出来なかった。

 奴らはさらなる呪いをかけたからだ。

 標的にされたのは弟のカインだった。

 私はそれを知り従うことにした。従わざるを得なかった。

 私一人の命ならどうなっても構わなかったが、カインは守らないといけなかった。

 ……それ程弟の命は私にとって重かったのだ。

 私は表向き奴らに従いながら、呪いが解呪出来ないか方法を探した。

 結局解呪することは出来なかったが、カインにかかった呪いの解呪条件を変更することだけは成功した。

 すぐに実行しろと奴らは言ってきたが、それは断った。

 目立って殺せば呪いは解けるが、皇族に手をかければ一族郎党処刑されることになる。そうなれば意味がないと要求を突っぱねたからだ。

 それと今はその時ではないと、ギフトを理由に先延ばしをした。

 それからというもの、私は奴らにニア様の報告をしながら機会を待った。

 そしてその時はきた。

 ニア様がアルスフィア皇国を出て、ヴァルハイト公国に行くという。

 その護衛の隊長に任命されたのが私だった。

 私の監視役としてラルクたちが同行することになった。

 私は代々家に仕えていたハイルとエイルを連れて、ニア様たちと共にアルスフィア皇国を出た。

 最初ハイルたちは疑われていたが、それは旅の途中で徐々に信頼を得ていた。

 ギーグたちと接触して、商隊を襲わせた際にエイルにニア様を撃たせたのも信頼度を上げた。

 エイルには辛いことを頼んだが、ライルたちを油断させるための苦渋の選択だった。

 それにエイルの腕なら、万が一にも殺すことはないという確信があったからだ。

 ハイルにわざと負傷させたのも、時間を稼ぐためだった。

 ただラルクからニア様に持たせたペンダントの反応がなくなったと聞いた時は、心臓が止まるかと思った。

 その後ニア様と再会したが、その時に同行者がいた。

 一目見て分かった。この子がそうなのだと。




 フロー君の実力を確かめるため冒険者となって色々観察した。

 ラルクにはそんな面倒くさいことをする必要がないと言われたが、依頼先でニア様を始末出来るチャンスがあるかもしれないと嘘を言った。

 それと奴らは他国への足掛かりを探しているのも知っていた。

 だから黒い噂がある領主がいるとラルクたちが話しているのを聞いて、それを利用することにした。

 それは見事的中し、ラルクは騎士団の副団長と取引をしたと言ってきた。

 ダンジョンでニア様を殺す。

 それを聞いた時は正直迷ったが、私は私の直感を信じた。

 ダンジョンの一件が済んでから、私たちはライルラスの街を発つことになった。

 その時ハイルに宿に忘れ物をするように指示をした。

 これは半分賭けのような形になったが、彼の性格ならきっと追いかけてくると思った。

 ラルクは苛々しているようだったが、街道の途中でニア様を殺すために襲撃することを伝えて暴走を抑えた。

 そして決行の時がきた。

 まずはハイルにニア様を守らせて森に走らせた。

 途中エイルがハイルに斬られる演出もした。

 これは裏切り者がハイルだけだと印象付けるためと、例え片腕になっても、エイルは弓を射ることが出来ることを知っていたからだ。

 やり過ぎかと思ったが、そこまでしないとラルクたちの疑いの目は逸らせない。

 腕を失ったことでエイルはもう戦えないと、油断させる狙いもあった。エイルが私たちの仲間であることを印象付けるためでもあった。

 ハイルによってラルクの仲間たちが次々と倒れていく。

 最後残ったのは私とラルク、ニア様とハイルになった。

 ニア様は戦うことが出来ず、普通の勝負なら既に付いていた。

 それを邪魔したのはププルの存在だ。

 ププルがいたから、私もわざと踏み込めない体を装って時間を稼ぐことが出来た。

 対峙してどれぐらい経ったか分からないが、ハイルから合図があった。

 それはフロー君がこの場に現れたということだ。

 その後ラルクはププルの攻撃を受け、エイルの矢を受け、フロー君によって斬られて死んだ。

 私はハイルと戦っていたが、途中でハイルは力尽きた。

 仕方ない。

 私は致命傷を避けて注意して剣を振るっていたが、それ以外の者とも戦っていたのだ。

 その間に多くの傷を負っていた。ニア様を守るために。

 だがそれも利用する。

 彼を挑発するために。

 フロー君との戦いは驚きの連続だった。

 私は本気で戦った。

 私の覚えた直感が本当かどうかを確かめるように。

 最後に彼の剣を受けた時に、彼にならニア様を託せると思った。

 巻き込んでしまって済まないと思ったが、私にとってはニア様が生き延びる可能性があるならどんなことでもする。

 ハイルとエイルは優秀だが、二人だけでニア様を守ることは出来ないのも分かっている。二人にはやって貰わないといけないことがあるからだ。いや、もしかしたらハイルはもう……。

 最後、エイルに確認を頼んだ。

 その頃には目が見えなく、体も動かせなかったからだ。

 エイルは呪いの文様が消えていると言った。

 それで本当に肩の荷が下りた。

 それは弟にかけられた呪いが解呪されたことを意味する。

 これで心置きなく旅立てる。

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